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コストが"かかりすぎる"コメ作り 小規模農家の厳しい実情...それでも続ける意味「喜んでくれる人がいる」「土地を守る」 "スマート農業"で費用3割減の大規模農家 効率化に成功も初期投資が課題に

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 平均価格がようやく5kg3000円台となったコメ価格。国はコメの生産性向上とコストダウンのために農地の大規模化を目指しています。こうした流れの中で、小規模農家がコメを作り続ける理由や、大規模農家なりの難しさなど、日本のコメ農家が抱える課題を取材しました。

“かかりすぎる”コメ作りのコスト 赤字続きの実情

 美しい棚田が広がる京都市右京区・嵯峨越畑地区を訪れた山中真アナウンサー。この地区では8軒の農家がコメ作りをしていて、その実情を伺いました。

 この地域で一番若い農家・吉田宗弘さん50歳。妻と社会人の娘の3人家族です。親から農地を受け継ぎ、主に農業で生計を立てています。

(小規模コメ農家・吉田宗弘さん)
「(Qコメにとってはこの辺はいい場所?)寒暖差が非常に大きい。昼は暖かいけど夜が涼しくなる。水も山の向こうから雪どけ水がトンネルを通ってくる冷たい水なので、コメにとっては最高にいい条件」

 吉田さんは約5ヘクタールの水田で小規模の稲作をしています。高冷地で育つコメは甘みが強いのが特徴です。しかし、棚田であるがゆえ、水田ひとつひとつの面積が小さく、段差もでき、一部の平地の水田で行われている大規模化や効率化とはほど遠い環境だといいます。
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(吉田宗弘さん)
「コメ作りは(コスト)かかりすぎですよね。コンバイン(刈り取り機)600万しますけど、10年もつとして、1年間につかうのは50時間。田植え機を(使うのは)春だけですね。(田植え機の価格は?)250万円ぐらい」

 田植えから収穫までに使う6種類の機械を揃えるだけでも約2400万円。倉庫の建設費が約1500万円かかったといいます。加えて機械を動かす燃料代やメンテナンス費も必要です。

 さらに、最近の物価高もコメ作りのコストを上げる要因に。

(吉田宗弘さん)
「(肥料の値段は上がっている?)めちゃくちゃ上がっていますね。(約30年前に比べると?)約30年前に(20kg)2200円くらい。今は4300~4500円ぐらい」

 吉田さんは農業を始めて28年。インターネットでコメ5kg2970円(税込み)で販売していましたが、経費をひくと赤字になる年が続いていたといいます。
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(吉田宗弘さん)
「赤字ですよ。そのほかに果物や花を作っている分と、妻がフルタイムで働いているんでなんとか。(妻の収入とで?)そうです。(頭が)あがんない。僕だけの稼ぎなら子どもを大学まで出せないですよ」

「コメ作りはなくしてはダメやと思っている」

 農林水産省によりますと、大規模化が難しい山間地やその周辺の稲の作付面積は全体の3割を占め、こうした棚田も日本のコメ作りを支えています。

(吉田宗弘さん)
「京都府主催のコメの品評会があるんですけど、この地域から最高金賞が出ています。(効率悪いからコメ作りをやめるのはもったいない?)もったいない。絶対にもったいない。なくしてはダメやと思っている」

 吉田さんは誇りを持ってコメ作りをしていますが、価格を維持することに限界を感じていて今年は価格を上げようと考えています。
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(吉田宗弘さん)
「僕はコメ価格を上げて当然やと思うんです。何もかも上がっているのにコメだけ上がらないのが不思議でしょうがない。だからって今の5kg4000円~4500円は高すぎます。僕が消費者やったら『たっけえな~』と思うんで」

「(Qいくらが適正?)何回もそれを考えていて、(5kg)3500円ですよね。なんとか食べていけますし、たまには外食もしたいし、『贅沢はしなくてもいいけど』ぐらいの生活ができると思います」

「(Q損得で考えたら、コメ作りはやめたがほうがいい?)みんなそう思っていると思う。じゃあなんでやるのって、だって荒らせないです。草だらけ木だらけにできないし、先祖から(の土地)という思いはある」

コメ作りを続ける意味「おいしいと喜ぶ人がいる」

 さらに小規模な農家の現状は。奈良県大和郡山市でコメ作りをする農家を尋ねました。

「(Q苗の調子は?)苗の調子は最高です。今年。マジで」

 西川健次さん(61)は経営する運送会社で生計をたてながら、25mプール約3個分の土地で小さくお金をかけずにコメ作りをしています。高額な機械は中古でそろえ、コストを抑えています。

(小規模コメ農家・西川健次さん)
「ヤンマーの中古の田植え機。ヤフーオークションで5万円で買いました。三重県の業者さんからヤフーオークションで5万円で買いました。新車を買えば200万円かかります。(Q中古でも問題ない?)10年以上使っていますからね。自分でメンテナンスしながら。零細農家はそういうことをしないとやっていけないです」

 田植えや稲刈りなど忙しい時期は家族総出で作業。コメ作りは手間と時間がかかりますが、西川さんはそれに見合う利益がほとんど出なくてもコメ作りをする理由があると話します。
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(西川健次さん)
「うちのコメを食べて、おいしいと喜ぶ方が一定数いるのも事実。私自身、婿養子なんですけど、妻の先祖が代々守ってきた田んぼを、引き継いで守っていくのも自分の使命だと思います」

「スマート農業」で大規模化&効率化も…費用面で課題あり

 一方、国が推奨している大規模農業に取り組むのは、姫路市の農業法人「夢前夢工房」の代表、衣笠愛之(64歳)さんです。

 衣笠さんはあわせて27ヘクタールの水田をわずか3人で管理しています。支えているのは通信や最新技術で効率化を図る「スマート農業」です。

(夢前夢工房代表・衣笠愛之さん)
「今年から自動の水位センサーがついたんで、設定すれば自動ですべてスマホから水の管理ができる」
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 稲を育てるうえで重要な水。このシステムで田んぼに行かなくても水の量を確認できます。また、衛星からの画像で稲の生育や水田の栄養状態を可視化して作業の合理化を図っています。そのほか、農薬散布用の大型ドローン(約300万円)や位置情報を入力すれば自動操舵が可能なトラクター(約1600万円)を導入。

 土のかたさ・水の深さなどを自動で検知し、誰がやっても同じ精度の田植えができるという田植え機(約600万円)も。

(衣笠愛之さん)
「(Q田植えは人が経験でやっていた?)田植えは勘でやっていました。(この田植え機だと)私が田植えしようが山中さんが田植えしようが同じようにできますから」
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 スマート農業は未経験者でも就農しやすくなったり、働き手の労働環境の改善につながったりと、メリットも大きく長期的にみるとコストダウンにつながるといいます。

(衣笠愛之さん)
「人件費とかは一気に下がると思います。(コメ作りトータルで考えると?)(従来のコストと比べ)7割でいける」

 しかし、多額の初期投資が必要なのが大規模化のハードルに。衣笠さんの場合、主な農業機械をそろえるだけでも約7500万円かかったそうです。
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(衣笠愛之さん)
「機械化を安心してできるためのコメの価格ってあるんですね。(適正価格は?)『(5kg)3000円なら協力しようかな』という気持ちになってもらえたら。日本の農業を守っているんだという協力の気持ちで買っていただける消費者が増えればうれしい」

 農家が安定した農業を続けられ、消費者も受け入れられるコメ価格の模索が続きます。

2025年06月30日(月)現在の情報です

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