2025年10月17日(金)公開
「観光・経済・理念」で振り返る万博 夏パス・通期パス勢が"宣伝部長"になり7月に入場者数増!一方で「売り上げ減少の百貨店・スーパーも」「会場に来たのは約7割が近畿圏」関西経済を見ると浮かび上がる課題とは?
解説

大阪・関西万博が閉幕して2日目。最終的な一般入場者の総数は2557万8986人と発表され、愛知万博を超えました。 その盛り上がりから一定の成功と見る人が多いのではないでしょうか。一方、万博が成功したかどうかは“これからが大事”という意見もあります。専門家たちはこの万博をどう見たのでしょうか? 「観光」を、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏、「経済」をアジア太平洋研究所・稲田義久氏、「理念」を大阪国際大学・五月女賢司准教授に取材し、大阪・関西万博を「3つの異なる視点」から振り返ります。
リピーターが”宣伝部隊”となって後半から入場者が増加

10月14日に大阪・関西万博の最終的な一般入場者の総数は2557万8986人と発表されました。当初の目標の2820万人には届きませんでしたが、7月以降右肩上がりとなっています。
会期前半には4月に「空飛ぶクルマの破損」「自動運転バスの事故」、5月には「ユスリカが大発生」、6月には「レジオネラ属菌」など少し残念なニュースもありました。
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ではなぜ7月から入場者が増えたのでしょうか?航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は、12日・13日と再び会場上空を飛行した「ブルーインパルス」と、マツケンサンバなども披露された25日~29日の「大阪ウィーク」などのイベントの存在が大きかったのではと分析しています。
さらに入場者が増えた時期には「夏休み」と、夏休み期間に何度も入場できる「夏パス」のスタートが重なりリピーターの増加につながりました。そうした人たちは、何度も通うだけでなく、“万博の宣伝部隊”になり、SNSでの口コミの中心になって情報量が増えていったことも入場者の増加につながったとみられます。
"人気旅”の三大条件を満たすことでリピーター・一見さんも楽しめる万博に

鳥海氏によりますと、万博は“人気旅”の三大条件=①見る・体験する②食べる=グルメ③買う=お土産を万博は全て満たしていました。
もう1つのポイントとして、リピーターが何度も通いたくなる仕掛けだけではなくて、初めて訪れた人も楽しめる、双方が満足するコンテンツが準備されていたためだと分析しています。詳しく見ていきます。
【体験】パビリオンが充実
ヨルダン館 現地から持ってきた砂で砂漠を再現
イタリア館 本物の美術品
アメリカ館 展示を更新
【グルメ】「万博グルメ」も話題に
会場でしか食べられない有名店が個人で出店
衛生面も確立した各国のレストランで本場の料理を楽しめる
【買い物】ミャクミャクが人気
グッズの売り上げは800億
売り上げのうち
会場内➤8%~10%
会場外➤6%~8%が博覧会協会へ支払われる
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“一見さん”向けコンテンツでは、予約などに慣れていなくても楽しめる「大屋根リング」「コモンズ館・建物」「ショー・花火」もあり、入場者が増えたと考えられます。
6月~8月上旬に入場者を増やせていたら経済波及効果は2.7兆円を超えていた可能性

次はデータから見えた課題についてみていきます。
公共投資・付加価値誘発額・消費額の合計は、開幕前の去年1月の試算では来場数2820万の場合2.7兆円とされていました(アジア太平洋研究所調べ)。アジア太平洋研究所の稲田義久氏に閉幕後に改めて取材すると、「来場者数は目標数に届かなかったが、最終的に同じぐらいになりそう」だということです。これは、1人あたりの消費額が増えたためで、人数が目標通りであれば、経済波及効果はさらに大きかったと言えるわけです。
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愛・地球博と大阪・関西万博の来場数が同じ人数だったと仮定した場合の一般来場者数の推移、増減率を表したデータ(出所:万博協会発表資料及び愛・地球博閉幕データ集より アジア太平洋研究所作成)を分析すると、6月~8月上旬の期間は大阪・関西万博の方が愛・地球博を下回っています。愛・地球博を1つの基準とするなら、もう少し人数を増やせたのかもしれません。
万博「だけ」がもうかった?

もう1つの課題として、関西全体がもうかったかという点を見ていきます。
稲田氏によれば、万博「だけ」がもうかったというデータも一部あるようです。例えば、万博のエリア別来場者(博覧会協会資料より)は、国内が93.9%、海外が6.1%で、なおかつ国内の67.1%が近畿圏の人でした。
さらに、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの調査によると、人口1万人あたりの来場数が1万人を超えたのは2府県4で大阪府だけでした。
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大阪には万博の恩恵があったのかと思いきや、開幕後3か月間(4~6月)の百貨店・スーパーなどの売り上げの前年同期比を見てみると、関西全体でマイナス2.1%、大阪でマイナス2.5%となっています。
さらにもう1つの課題です。この勢いを今後つなげられるかという点を見ていきます。
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全国での関西の経済シェアをみると、1970年大阪万博をピークに右肩下がりに下がっていて、万博の「その後」をうまく活用できていないことがわかります。今回の万博の勢いを経済にどう結びつけられるかが大切だということです。
万博の”意義” 地球規模の課題に取り組む場

最後に万博の“意義”とこれからについて見ていきます。
大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」でしたが、万博そのものに「地球規模の課題に取り組む場」というテーマがあり、大阪国際大学・五月女賢司准教授は「戦争・分断・格差が広がるなかで、多様性を知り、文化に触れ、同じ空間で半年間共存した経験は大きい。ここから地球規模の課題解決につなげていけるか」と指摘しています。
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