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座右の銘は『一つ一つ』坂口特任教授は"散歩する哲学者"!?盟友が語る研究者としてのスゴさ 「レベルが違うこだわり方」で突き止めた制御性T細胞

解説

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 10月6日、ノーベル生理学・医学賞に選出された大阪大学・坂口志文特任教授。過剰な免疫反応を抑える「制御性T細胞」を発見し、リウマチや1型糖尿病・がん治療などへの応用が期待されています。 そもそも制御性T細胞とは何なのか?坂口教授とは一体どんな人物なのか?25年来の盟友で同志である、京都大学医生物研究所所長・河本宏教授に聞きました。

「いつか評価される」と信じ…免疫学の“王道”を研究

―――河本教授にとって、坂口教授はいわば“盟友”。京大医学部の先輩後輩であり、医生物学研究所の前身、再生医科学研究所で共に過ごした研究仲間。そして、お2人は会社の立ち上げメンバーでもあるということです。そんな河本教授によると、坂口教授の趣味は読書・散歩だそうです。

 「今日は鴨川沿いを歩いた」とか、よく散歩の話をされます。海外の学会でちょっと時間があると1時間ほど散歩したり。喋りながら歩き回っておられますね。

―――散歩しながらご研究のことも考えておられるのですね。

 そうだと思います。免疫学は理論・理屈が大事なので、多分相当考えながら。ちょっと哲学者っぽいところがある。理論を語られますので。

―――盟友である河本教授から見て坂口教授はどのような人ですか?

 揺るぎない信念を持つ研究者です。「いつか評価される」と信じ、免疫学の王道を研究されていました。

「大した研究費もつかず1人コツコツ」1979年から始まった研究の道のり

―――坂口教授が制御性T細胞の研究を始められたのが1979年。そこから50年近く経っての受賞となりました。

 60年代の終わり頃にT細胞が見つかって、70年代にいろんなタイプのT細胞が見つかってきたんです。その中で、“抑制するタイプ”の細胞があると(坂口教授は)主張されたのですが、なかなか信用されませんでした。

 80年代には、自分を攻撃する悪い細胞は胸腺でできる途中で殺されてしまうんだという主張があり、それで世界中の人がみんな納得してしまったんですね。研究者も「それでいいじゃないか」と。

 ところが、坂口先生は「胸腺から出てから、体の中で抑制する細胞があるはずだ」と、必死になって探し続けられました。

 そして、1995年に初めて、十分に分離できる良いマーカーを見つけられたんです。そこまでで25年以上かかっているわけです。

 その間、あまり周りには相手にされず、アメリカでずっと研究されていました。大した研究費も使わずに、1人でコツコツと。やっぱりそれはすごいと思います。

「レベルが違う。こだわり方が」逆風あっても変えなかった研究テーマ

―――信じてもらえない中、やり続けたと。

 ある現象について、「これはそういう細胞がないと説明がつかない」と。時間はかかったものの、自分の中では確信があったと思います。

 その頃、いろんな逆風があったことも知っていますので、その中でずっとやり続けたと思うと、もう全然やっぱりレベルが違う。こだわり方が。なかなかあんなことできない。たいていの研究者は、3年でうまくいかず研究費が取れなかったらすぐテーマを変えるんですよ。でも、坂口先生は変えなかった。

―――マーカーを見つけたのが1995年。そこから30年経っていますが、これだけ長い時間がかかるものなのでしょうか?

 マーカーを見つけた後、それをしっかり取り分ける因子が見つかり、世界中が「本当に制御性T細胞があるんだ!」と。それで研究が発展しました。

 ただ、それを臨床応用までつなげようというのは、すごい領域なので、その後20年かかった。もっと早く(ノーベル賞を)もらっていただいても良かったんじゃないかと。10年も前からすごいと言われていたので。

「こんな大事なものに誰も気づかなかった」制御性T細胞とは?

―――改めて、制御性T細胞とは何でしょうか?

 人間の体にはウイルス・細菌を攻撃する免疫細胞がありますが、この中には、正常な細胞まで攻撃してしまう細胞があります。

 この正常な細胞への攻撃を防ぐのが、制御性T細胞なんです。坂口教授はこの“ブレーキ役”の存在を突き詰めたというわけです。

 正常な細胞を攻撃する細胞って、結構多いんですよ。誰の体にもいます。(制御性T細胞は)それを普段から抑えているんです。病気になったときに出てくるのではない。

 だから、制御性T細胞を取り除くと、マウスでも人間でもあっという間に死んでしまいます。こんな大事なものに、世の中の誰もが気づかなかった。

「完璧な理想的な治療法」実用化は近い?

―――制御性T細胞の実用化について教えてください。

 主に期待できるのは、1型糖尿病・関節リウマチなどの自己免疫疾患です。これまで、自己免疫疾患をちゃんと治そうという薬はなかったんですよ。解熱剤のように、対処療法的な免疫抑制をするしかなかった。

 制御性T細胞で治す=根本から治すということです。自分の体を攻撃する悪い細胞を直接抑え込む。そして、それ以外の免疫を抑えない。副作用なく免疫を抑制できる。完璧な理想的な治療法になります。

 これまでの普通の発見とは全然違うんですよ。今後は、免疫療法の考え方が圧倒的に変わる。ターニングポイントになります。

―――実用化は近いとみて良いでしょうか?

 近い将来、実用化されると思います。日本とアメリカでそれぞれ、臨床試験の直前まで行っておられましたので。原理的には花粉症にも効きますし、食物アレルギーにも効きます。

 12月10日、坂口教授はストックホルムで行われる授賞式に出席される予定です。

2025年10月08日(水)現在の情報です

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