2025年11月18日(火)公開
高市政権が進める"17兆円超の経済政策"には副作用も?「むしろ円安になって物価高を助長する可能性」 政策の矛盾・悪いシナリオを専門家が指摘
解説
高市政権が進める経済・物価高対策。政府関係者によりますと、電気・ガス料金を来年1月から3月の間、月平均で2000円程度補助するなどし、対策の規模は17兆円を超える見通しです。 一方で、高市総理が実現を目指す政策には “矛盾”もあるということで、「大きなお金で物価高対策をすることで、物価高をさらに助長してしまう可能性がある」という指摘も。 21日にも閣議決定される高市政権の経済対策について、野村総合研究所・木内登英氏への取材を交えてまとめました。
見えてきた物価高対策・経済政策の中身

物価高や減税などにかかる2025年度補正予算は、17兆円を超える見通し(前年度の一般会計の歳出は13.9兆円)。片山財務大臣は、規模は日々拡大しているとした上で、物価高に直面する層に手を当てたいのが高市総理の考えだと述べています。
物価高対策・経済政策の中身として見えてきたのが、▼ガソリン暫定税率廃止、▼電気・ガス補助金、▼重点支援地方交付金。この3つについて、野村総合研究所の資料をもとに見ていきます。
まず、予算規模1.5兆円のガソリン暫定税率廃止は、平均的な世帯あたりの年間負担軽減額が5393円程度となる見通しです。ガソリン1Lあたり25.1円分の減税となりますが、すでに補助金が段階的に増額され、現在は少しずつガソリン価格が下がっている状況です。
2つ目の電気・ガス補助金については、冬の3か月に月額約2000円、計約6000円程度を補助する方針で予算規模は1.7兆円の見通し。
ガソリン暫定税率廃止と電気・ガス補助金を合わせると、平均的な世帯で年間合計1万1000円ほどの負担軽減になる試算です。

続いて3つ目の重点支援地方交付金。プレミアム商品券・マイナポイント・おこめ券などの支援を想定していて、各自治体で支援内容を決めて使えるものとなっています。予算規模は6兆円と予測されています。
政府が打ち出す「危機管理投資」は物価高を招く?

経済対策に力を入れる高市総理ですが、物価高を招くかもしれない政策もありそうです。
高市総理「政府投資の拡大」を進めていて、AI・半導体・造船・量子・エネルギー安全保障などの17分野での「危機管理投資」を打ち出しています。野村総合研究所の資料によると、予算規模は3.5兆円の予測です。木内氏は「重要物資を海外に頼らなくても済むように国内生産を強化するねらい」だといいます。
しかし、そもそも生産を海外に依存している一番の理由はトータルコストが安いから。それを経済安全保障を理由に日本生産にしようとすると、コストは高くなる、つまり物価は高くなります。このように、経済安全保障と物価高対策が天秤にかけられる状態になる場面もあるのです。
GDPの6期ぶりマイナス成長をどう見る?

そうした中、17日、内閣府が今年7月から9月までのGDP(国内総生産)を発表。年率換算で実質1.8%のマイナスで、1年半ぶり(6期ぶり)のマイナス成長になりました。
※GDP(国内総生産)とは…一定期間内に国内で産出された付加価値の総額 国の経済活動状況を示す
株価が史上最高値、などといったワードも聞かれた中で疑問に思う人もいるかもしれませんが、木内氏によると「企業収益や株価は物価や円安の影響も受けた『名目値』」で、実質値では下がったということです。
このGDPの“下振れ”に加えて、日中関係の悪化による訪日中国人減少の懸念もある中、木内氏は、これらが「国内の経済が危ない…!」と補正予算上積みの“動機”になりうると話します。
一方で、GDPのマイナス成長について木内氏は「あくまでも短期的な変動であり急激に悪化しているわけではないが、長期的にはずっと低い成長率」と指摘。そのため、応急処置的に補正予算を上積みして景気刺激をすべきような状況ではないというのが木内氏の見立てです。
経済政策に巨額をつかうことでみえる“悪いシナリオ”とは

経済政策に巨額をつかうことで経済活動が活発化して景気が上向いていく、というシナリオを政府は期待しているかもしれません。しかし木内氏は、巨額をつかうことでかえって物価高になる“悪いシナリオ”を懸念しています。
【木内氏が懸念するシナリオ】
経済対策に巨額を使うことで「日本の財政が悪化」→日本の信頼が損なわれ「円安」→原材料などを輸入に頼っているため「物価高」
円安是正の選択肢「日銀の利上げ」しかし高市総理は…

これらを考えると、円安対策をしないで物価高対策というのは“矛盾”かもしれません。
実は高市政権が誕生して以降、円安が進んでいて、さらに総理は利上げを抑制する発言をしているため、いわゆる経済マーケットでは、高市政権になって財政が悪化するんじゃないかという懸念もあるようです。
木内氏は、財政支出をせずに円安を是正する選択肢として「日本銀行の利上げ」を挙げています。
日銀の政策金利は年0.5%ほどで、これを上げるほうが円安対策にはなりますが、高市総理は利上げに慎重。
21日の閣議決定が注目されますが、経済政策についてはこうした“矛盾”や意見がわかれるところもありそうです。
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