2025年09月29日(月)公開
2000人が居住予定!トヨタの実証都市「ウーブン・シティ」街中で自動運転・花粉レス空間・最適化栄養食...スマートシティで何が変わる?課題は?
解説
トヨタ自動車が静岡県に建設した次世代技術の実証都市「ウーブン・シティ」が、9月25日に始動しました。自動運転・AIといった先端技術・サービスを、人が実際に暮らす環境で試しながら開発していくという街で、将来的には参加企業の関係者や家族ら約2000人が暮らす予定です。 この“街づくり革命”で未来の暮らしはどうなるのか?そして課題は?NPO法人「中小企業・地域創生ネットワーク」の土屋俊博理事への取材を含めてまとめました。
地上は人間&モビリティ 地下は物流専用
富士山をのぞむ静岡・裾野市の自動車工場跡地につくられたウーブン・シティ。甲子園球場約18個分という広大な敷地です。2020年に構想発表、2021年に着工し、9月25日に「第1期エリア」が始動しました。
街に住むのは関係者とその家族で、居住者を一般の人に広げるかは未定。宅配は一旦物流拠点に集積され、職員が各戸に運ぶという仕組みになっています。
地上の道路は「歩行者専用」「モビリティ専用」「歩行者・パーソナルモビリティ併用」の3種類。ここには物流トラックは走らない構想で、「渋滞しない」「環境に優しい」などのメリットがあるということです。
一方、物流専用の道として地下道が整備されていて、自動配送の実験や配送ロボットの活用が予定されています。雨や気温に左右されず、実験を続けられるメリットがあるということです。
また、信号はモビリティと連動させ、切り替えのタイミングを制御。例えば、「車が来ていない⇒歩行者信号を青に」など柔軟にコントロールし、最終的には交通事故ゼロを目指しているそうです。
カイゼンならぬ“カケザン”!?外部企業も参加
ウーブン・シティには、トヨタグループ以外の企業も参加しています。「カイゼン」の提唱で世界的に有名なトヨタですが、今回提案するのは「カケザン」。参加する外部企業や住民とかけ合わせた、新しい価値創造が期待されています。
▼ダイキン
花粉の入りにくい換気システムの部屋で「花粉レス空間」の検証
▼日清食品
各自に合わせて主要な栄養素がバランス良く調整された「最適化栄養食」
▼増進会ホールディングス(Z会グループ)
保育施設で子どもの映像データをAI解析し先進的教育にいかす
AIが主導!自動車登場以来の“街づくり革命”
今回のウーブン・シティのように、新しい技術・考え方で人間がよりよく生きることができる街を「スマートシティ」と言いますが、これは自動車が登場して以来の“街づくり革命”だそうです。
かつて「馬車の時代」には、この馬車を置くための広い敷地が必要で、人々は郊外に住んでいました。そこから産業革命を経て「自動車の時代」になると、馬車ほどとめるスペースが必要でなくなるため、職場近くに住むことが可能になりました。
今回の革命の担い手は「AI」。社会・経済・環境など、様々な面で世の中が変わっていくかもしれません。例えば…
▼社会 交通(自動運転)・ヘルスケア(AIで健康増進)・行政(窓口の効率化)
▼経済 農業(スマート農業)・観光(自動翻訳)
▼環境 地域内において事業者間でエネルギーを融通→自然エネルギーを無駄なく使う=「エネルギーマネジメント」
こうした改革は、従来、個別の事業者などが単独で行うには限界がありましたが、“街ぐるみ”で取り組むことで可能になると考えられています。つまり、今回の革命は「個別のメリット」よりも「全体のメリット」を追求するという新しい価値観への変化でもあるのです。
なお、スマートシティには様々な目的がありますが、最終的な目標は「東京一極集中の是正」だということです。
「個人情報を把握されるのは…」スマートシティの課題と対策
一方、スマートシティには課題も。NPO法人「中小企業・地域創生ネットワーク」の土屋俊博理事は、次のような点を指摘します。
▼プライバシー保護
過去には、Googleにあらゆる情報が把握されることへの反対意見が住民から出て、カナダのスマートシティの実験が頓挫した例があります。
▼倫理的な問題
自動運転などにおいて、AIが命に関わる判断を下すときの責任など(トロッコ問題)。
▼将来的なAIの暴走リスク
ただ、いくつかの課題には“解決策”も提示されています。
▼法律的な問題
日本では法規制が新技術の“足かせ”になることもありますが、国は茨城県つくば市や大阪府・市を「特区」に指定し、空飛ぶクルマなど新しい取り組みを進めています。
▼消費電力
データセンターの消費電力が大きいAIですが、消費電力が少ない「量子コンピュータ」の実用化が待たれています(計算速度は従来のコンピュータの10億倍)。
新しい研究開発にはリスクがつきものですが、そのリスクをどこまで許容するか…スマートシティにおいては、この「研究開発とリスクのバランス」が一番の課題だということです。日本では、開発担当(研究者・技術者)とリスク担当(政治家・行政職員)の間に距離があるため、両者の距離を縮め、理解しあうことが大切になってくると土屋理事は述べています。
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