2025年09月02日(火)公開
「自分の気持ちを分かってほしい。身勝手な心理状態」元ストーカーが語る"する側"の心理 更生の第一歩は「ストーカーだと自覚すること」【神戸女性刺殺事件】
解説
8月20日に神戸で発生した女性刺殺事件で逮捕された谷本将志容疑者(35)は、過去にもストーカー行為をめぐる事件で逮捕されています。 そもそもストーカーをする人の心理・欲求とは?今回は、筑波大学・犯罪心理学の原田隆之教授と、ストーカー行為をした過去があり、いまはストーカー行為からの更生を支援しているという「ストーカー・リカバリー・サポート」代表・守屋秀勝さんに話を聞きました。
新たな防カメ映像に“至近距離”で後をつける谷本容疑者の姿
8月20日に神戸で発生した24歳の女性が刺殺された事件。逮捕された谷本容疑者については、動機など判明していないことも多いですが、事件3日前から職場付近を徘徊する様子が防犯カメラに映っているほか、犯行当日は電車に乗って50分にわたって女性の後をつけていたことがわかっています。
さらに、事件2日前の新たな防犯カメラの映像では、至近距離で女性の後をつける谷本容疑者の姿が確認されていて、この時点で女性を初めて認識したのではないかとも言われています。谷本容疑者は事件の2日前に被害者を見つけ「好みのタイプだった」と供述しています。
今回の事件について、犯罪心理学の専門家である筑波大学・原田隆之教授は「ストーカーによる事件とみて間違いないのではないか」と見立てています。
ストーカー事件として見ると「2つのポイント」
ただ、ストーカー事件として見ていくといくつかポイントがあるということです。
【ポイント① 面識がない相手をつきまとうのは珍しい】
実際、警察庁の「2024年ストーカー事案の加害者と被害者の関係」というデータによると、7割近くが「知っている人」につきまとうケース。「面識のない人」にストーカーをするケースは1割以下となっています。
交際相手(元含む):37.1%
知人・友人:13.4%
勤務先同僚・職場関係:12.6%
配偶者(内縁・元含む):6.8%
面識なし:8.8%
その他:8.6%
不明:10.7%
密接関係者:2%
【ポイント② 親密希求型から捕食型か?】
原田教授によると、ストーカー事案は大きく5つの類型に分けられます。
1.拒絶型 配偶者や恋人の関係が崩壊。“復縁”を迫る(大多数)
2.憎悪型 怒りやストレスを抱き嫌がらせ
3.親密希求型 恋愛関係になりたい。妄想傾向
4.無能力型 “片思い”自覚も社会的能力が低い
5.捕食型 性犯罪や暴力が目的
これらの類型で見たとき、今回の事案は、親密希求型から捕食型へ、複雑に絡み合って両方出てきたケースかもしれないというのが原田教授の見立てです。谷本容疑者について、「つきまとい自体が快感だった可能性」「人の気持ちがわからず後先を考えない衝動性」と分析した上で、「当初は殺害目的ではなかった」可能性を指摘しています。
“元ストーカー”が語るストーカーの心理
ストーカー行為をしてしまう心理とは?今回、6人の女性にストーカー行為をした過去があり、2016年に加害者の更生支援団体「ストーカー・リカバリー・サポート」を設立。これまで1000人以上をサポートしてきた守屋秀勝代表(59)に話を聞きました。
(ストーカー・リカバリー・サポート 守屋秀勝代表)「(加害者に対して)24時間いつでも電話かけてきていいよと。愚痴は聞くよと。『でも絶対に付きまとったらあかんで』といったようなサポート。お腹の中の膿をどんどん吐き出すことによって、それが(ストーカー行為の)抑止につながっている人もいるんです」
守屋代表自身は、家族の支援や専門書を読んで学ぶなどし回復。「自らの感情にブレーキを踏めるようになった」と言います。
―――ストーカーをしてしまった人、もしくは今もしたいと思っている人はどういう気持ち?
「(好きな相手に)自分の気持ちを分かってほしい、『自分という人間を誤解しないでよ』という、要するに(一方的な)見捨てられる恐怖と承認欲求の塊」
「(好意を抱いた)相手の個人情報がすごく気になって、つきまとって、個人情報を調べ上げた上で、調べ上げたら今度実際に話したくなるんですよ、人間って」
「(勝手に近寄って)『俺を見捨てるんじゃないよ!俺はお前に慰めてほしいんだよ!』という、非常に身勝手な心理状態」
―――過度の連絡やつきまといで相手に嫌われるとは?
「そういう考えになっていたら、誰もストーカーやらないです」
「ただ仲良くなりたい」ストーカーの主な動機
ストーカーの心理と、そうした人に対して効果的な支援について、守屋代表に聞きました。
守屋代表によると、ストーカーをする動機は、「仲良くなりたいだけであることが多い」といい、谷本容疑者はかなり特殊な例だと思う、ということです。
傷つけたいのではなく「話せばわかってもらえる」と思っていて、共感力が著しく欠如している状態だということです。
守屋代表は自身について、幼少期の家庭環境で愛情不足だった、女性に母親を投影しているような思いがあったと分析しています。
また、すごく優しい人は、「こんなに優しくしてくれるなんて」と誤解をされてしまうことも多いため、優しさを過剰にしないということも、自己防衛のためには必要かもしれないということです。メールの返信がしつこい場合、警察がブロックしてくださいと最初の対応を促す場合もあるそうですが、必ずしもそのブロックが本当に正しいかどうか、守屋代表自身は悩ましいところだと話します。
「ストーカー行為自体に病的な依存状態」
守屋代表は「ストーカー行為自体に病的な依存状態」になると考えています。
ある1人へのストーカー行為が何かをきっかけになくなっても、しばらくして違うターゲットを見つけたらまたやってしまう、自分で悪いとわかっていても止められない状態になることもあるそうです。
その上で、更生の第一歩は「ストーカーだと自覚すること」だと指摘。ストーカー行為を行う多くの人は、自分がストーカーである自覚がないということです。
再犯防止に有効か「GPSによる位置情報の共有」
では、再犯を防ぐためにどうすれば良いのか?
「ストーカー・リカバリー・サポート」ではストーカー加害者に対して、▽ストーカー行為のレポートを書いてもらう、▽加害者同士でのグループワーク、▽24時間電話相談対応などを行っています。
守屋代表は、再犯防止に有効なのは「GPSによる位置情報の共有」だと考えています。
これは、携帯電話の位置情報を本人の了承を得た上で守屋代表と共有し、外出の際にはその携帯電話を必ず持っておいてもらいます。位置情報が対象者(被害者)に近づいた場合は連絡し、その連絡に出ない場合は警察に介入してもらうと伝えた結果、かなりの抑止力になっていると当事者自身が言っているということです。
再犯防止の課題
社会全体としてできることは何か。原田教授に聞きました。
性犯罪の再犯防止プログラムに関しては、保護観察付きの執行猶予者や仮出所者などの受講が原則義務化されています。2020年の法務省の分析によると、更生プログラム受講で、再犯率が約3分の2になっています。
一方で、原田教授によると、「ストーカーの再犯を防ぐ全国統一&義務の更生プログラムはない」ということです。
再犯を防ぐために社会としてどう取り組んでいくか、議論を一歩進める必要があるかもしれません。
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