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大阪・道頓堀ビル火災 現場は「北新地放火事件」の発生場所と同じ"特定一階段等防火対象物" 消防のプロが指摘する3要因「外壁広告・立地・避難経路が1つ」

解説

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 消防隊員2人が死亡した大阪・道頓堀でのビル火災発生から8月25日で1週間がたちました。現場近くの献花台には多くの花が手向けられています。 火災発生当時なにが起こっていたのか?“異例”ともいえるこの火災について、その要因を元東京消防庁・特別救助隊で危機管理防災アドバイザーの田中章さんらに取材しました。

ビル2棟にまたがった火災 消防隊員が2人死亡

 8月18日(月)、大阪・道頓堀でビル火災が発生。消火活動に当たった消防隊員の森貴志さん(55)と長友光成さん(22)が殉職しました。

 今回の火災は6階建てビルと7階建てビルの2つの建物にまたがって起こりました。出火原因は特定されていませんが、6階建てビルの1階部分にある室外機周辺を中心に激しく燃えていたということです。その火が外壁広告を伝って延焼したとみられ、7階建てのビルの6階部分で消防隊員2人が倒れているのが見つかりました。2人の死因は窒息、逃げ場を失ったとみられています。

 消防隊員は3人でビルの中に入ったということです。逃げ遅れた人がいないかの確認や消火活動にあたっていましたが、その途中で5階の天井の一部が崩落してしまったということです。

 このうち1人はビルから自力で脱出することができましたが、亡くなった2人は6階に逃げたということです。当時は煙で目の前が見えない状態だったということで、かなり混乱状態にあったとみられます。

 出火原因は現在調査中で、再発防止策などについては今年度中に報告書が取りまとめられる方針だということです。

消防のプロ「非常に難しい雑居ビルの火災防御活動」

 今回の火災の要因について、数々の火災現場に出動し、救助にあたってきた元東京消防庁・特別救助隊で危機管理防災アドバイザーの田中章さんに取材しました。

 火災現場を見た田中さんは「ビル全体がそんなに焼けていないっていうところがまず第一印象」とした上で「異例ですね。消防隊としては非常に難しい雑居ビルの火災防御活動になった」と話します。

 消防のプロが異例と指摘した現場とは…要因は大きく3つあるといいます。

要因1「外壁広告」

 1つ目の要因は「外壁広告」。田中さんは「外に広告シートがあり、炎が伝わって、外壁に沿って上に上がっていったと。延焼速度を速めたのかなと思う」と当時の状況を分析。

 田中さんによると、今回火災が起きたビルは「耐火建築物」というもので、本来、燃えにくい構造です。しかし、ビルの壁に広告が設置されていたため、6階建てビルから出た火が壁面広告を伝い、一気に上の階や隣のビルに燃え広がり、大規模な火災になった可能性があると見ています。

要因2「道頓堀の立地」

 要因の2つ目として挙げたのは「ビルの立地」。

 ビルの南側は川と歩道に面し、他の雑居ビルが隣接する今回の現場。消防車が入れず、放水は一方向に制限されるほか、はしごを使っての進入・脱出経路が確保できないといいます。

 田中さんはこの立地を見て「正面からの消防活動が非常に難しいところがあります」と分析しています。

要因3「特定一階段等防火対象物」

 さらに、建物内部にも“異例”があるといいます。

 火災が起こったビルは「特定一階段等防火対象物」と呼ばれる建物です。これは3階以上に不特定多数の人が利用する飲食店などの施設があり、屋内に階段が1つしかない建物を指します。つまり、火災の際、避難経路が1つしかないリスクの高いビルです。

 このような建物について田中さんは「逃げ口は屋内階段しかない。その屋内階段が煙・炎に包まれてしまうと、このビルに缶詰状態になってしまう」と話します。

 亡くなった2人の消防隊員は、東側の7階建てビル5階の天井材が崩落した後、逃げ場を失った可能性があると見られています。

 田中さんは、消防隊員の逃げ遅れの確認や、消火活動のためのビルへの進入は適切な判断だったとしたものの、今回の火災の教訓を今後に生かすべきだと言います。

 「大阪市消防局のこの活動は、非常に崇高な使命の元に、逃げ遅れた方がいるであろうということを前提に、行動を起こした。今後さらに安全対策と防火管理対策、建物の対策を進めていっていただければありがたい」

大阪市に約5000棟現存「特定一階段等防火対象物」

 専門家が要因の一つとして指摘した「外壁広告」。外壁広告について、建築基準法(防火地域)では3mを超える看板は「主要部分を不燃材料でつくり、または覆わなければならない」とされています。

 弁護士で一級建築士の辻岡信也氏によると、もしこれに違反していれば、ビル管理者やテナント店舗の責任が問われるということです。今回燃えてしまった広告の素材については、消防などが調査しています。
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 そしてもう一つの要因である「特定一階段等防火対象物」。大阪市消防局によると、こうした建物は大阪市内に約5000棟が現存しています。

 このような建物は法律違反ではありませんが、2021年に北新地で起こった放火殺人事件の現場ビルも同様の建物だったということです。ビルを利用する際は、いざというときに身を守るため、避難経路などの知識を持っておくことが大切です。

避難時に有効な行動とは?

 実際に火災にあった場合、具体的にどのような行動をとればいいのでしょうか?以下は、大阪市消防局が実施している「セルフ・レスキュー・コーチング」の内容です。

 1.避難上有効なバルコニーの活用
 2.屋外一時避難場所の活用
 3.屋内一時避難所の活用
 4.避難上有効な開口部の活用

 屋内の中で一時的に避難する場所では、入口付近の隙間にテープなどを貼り、煙が入ってこないようにすることで一時的な対策となるということです。

 「開口部の活用」は大きく開く窓をただ開けるのではなく、上半身を外に半分出すような姿勢をとることが大事。炎が出てくるときに顔を上げていると、炎を吸い込んでしまう可能性があるので、なるべく体を低くするという意味で、このような姿勢をとることが大切だということです。

2025年08月26日(火)現在の情報です

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