2025年10月31日(金)公開
【白浜どうなる?】パンダ返還から4か月...「宿泊税」導入に向け始動 観光振興のカギと目指すべき未来「若い世代とファミリー層をターゲットに」「目指せ日本のワイキキ」
解説

アドベンチャーワールドのパンダたちが中国に返還されて4か月。パンダなき和歌山・白浜町では、今年7月の宿泊者数が去年の同じ月と比べて1万人以上減少するなど、観光に大きな影響が出ています。そんな白浜町が10月30日、観光振興を目的とする「宿泊税」の導入に向け動き出しました。一方で地元の宿泊業者からは懸念の声も。 宿泊税導入で何が変わるのか?白浜が目指す未来は?JTB総合研究所・山下真輝フェローと大阪観光大学・細川比呂志教授への取材を交えてまとめました。
観光客は1年で1万人減少…白浜町のいま

和歌山・アドベンチャーワールドのパンダが中国に返還されてから4か月がたった白浜町は、観光面での転換期にきているといえます。
まず、白浜町の観光の現状について見ていきます。2023年のデータによると、人口1万9000人に対して、年間の観光客は295万人。そして、1人あたり2万5482円を使う(南紀白浜観光協会・2022年)ということで、単純計算で年間751億円のお金が白浜町で使われています。
白浜町を訪れる目的をランキングで見てみると、「パンダ」が20.1%で第2位。ただ、それを上回っているのが、「温泉」で31%となっています。白浜町では南紀白浜温泉という歴史のある温泉があり、パンダを抑え観光目的地のトップとなっています。
和歌山県白浜温泉旅館協同組合(21施設が加盟)によると、去年7月には9万8566人だった宿泊者数が、パンダ返還後の今年7月は8万8524人と約1万人減っています。ただ、パンダ返還だけではなく、大阪・関西万博の影響もあるようです。
その一方で、インバウンド客は減っていないということです。
観光振興を目的に「宿泊税の導入を検討」

そんな中、白浜町は来年度中の宿泊税導入を目指すということです。
10月30日に大江康弘町長は「少子高齢化による人口減少などで税収減が懸念されている」としたうえで、「新たな財源として安定的に観光施策を実施できる宿泊税の導入を検討する」と語りました。
宿泊税の導入検討について、JTB総合研究所・山下真輝フェローは「コロナが落ち着いてから全国の自治体で宿泊税導入の動きが活発化している」といい、大阪観光大学・細川比呂志教授はさらに「観光資源の保全・活用のための宿泊税導入は世界的な流れ」と話します。
ただ、細川教授は「タイミングがよくない」と指摘。パンダがいなくなって困ったから宿泊税を導入する、という見え方になってしまうのがよくないといいます。
宿泊税ってなに?メリットとデメリットは

そもそも「宿泊税」はどういうものなのか?
自治体の財源には、市町村税などで賄う自主財源と、国からの交付金があります。これらの合計金額は上限が決まってしまうため、たとえ自治体が頑張って財源を増やしたとしても、国からの交付金の金額が少なくなってしまい、プラスにはなりません。
 一方で宿泊税は「法定外目的税」と言われていて、交付金の金額に影響しない、いわゆる“別サイフ”。そのため、頑張れば頑張るほど、宿泊税は自治体にとってプラスになる税金だということです。

 宿泊税のメリットとデメリットをまとめました。
▼メリット
・自治体の財源を“真水”で増やせる
・観光地の魅力向上に直接使える目的税である
・財政難の自治体にとっては独自の予算を組める貴重な手段
▼デメリット
・宿泊客は料金が高くなる
・宿泊施設は事務負担が増える
自治体にとってメリットがある一方で、観光客や業者にはデメリットもあることから、使い道や効果を宿泊業者や住民に説明し、透明性を保つことが不可欠であると言えるかもしれません。
山下フェローは、日本の宿泊税でこれまで大きなトラブルはなく、観光客が減った事例はないので、そこまでデメリットを心配する必要はないと話します。
福岡市や北九州市では宿泊税が成功?

続いて、日本全国の14自治体で導入されている宿泊税の事例について見ていきます。
【宿泊税導入済みの自治体(俱知安町を除き税額は1人1泊あたり)】
・倶知安町 税額:定率2%
・ニセコ町 100円~2000円
・東京都 100円~200円(1万円未満はなし)
・熱海市 200円
・金沢市 200円~500円(5000円未満はなし)
・高山市 100円~300円
・下呂市 100円~200円
・常滑市 200円
・京都市 200円~1000円
・大阪府 200円~500円(5000円未満はなし)
・福岡県/福岡市/北九州市 200円~500円
・長崎市 100円~500円
 また、導入が決定している自治体が28、導入を検討しているのが92の自治体だということです。

 宿泊税の成功例をあげると、福岡市は2023年度は宿泊税による税収が28億円で、これを用いてエスカレーターやエレベーターを地下鉄などの駅に設置しました。観光客はもちろん、地元住民にとっても恩恵があります。
また、北九州市は税収が3.8億円(2023年度)でした。北九州市の夜景は「日本新三大夜景」に認定されていて、これを税収で引き立てることができています。例えば、4か国語の案内板の設置で観光客が実際に増加しているということです。
海外に目を向けると、オランダのアムステルダムやイタリアのベネチアでは、観光客が1か所に集中する現象が起きていて、宿泊税を導入することで、観光客の抑制・分散のための施策を進めているということです。
今後は、「数」より「質」を良くしていく考え方への転換が必要だと専門家は話します。旅行の質、観光地の質も高め、地域の人々の暮らしを守るという意味でも宿泊税は非常に重要な役割を果たすということです。
“ポストパンダ”で白浜町が目指す未来は…

“ポストパンダ”の観光の未来について、細川教授は「ターゲットは若い世代とファミリー層」、「南紀白浜空港をいかしてインバウンド強化をすることで、アジアのファミリー層も狙える」と提言します。南紀白浜空港は現在は国際便がありませんが、かつてはソウルや台湾にチャーター便が限定的にあったことを挙げ、国際線も増やしていけばいいのではないかといいます。
また、白浜のポテンシャルの高さをいかすために、街全体で滞在できるリゾート地=日本のワイキキを目指すべきだとも話しました。
山下フェローは、「白浜町は大阪からの観光客が4割で、関東甲信越は1割。関東圏への情報発信をしていくことが重要」との見解を示します。また、日本人はGWや夏休みなど長期休暇に白浜に足を運ぶことが多いですが、これらの休みは外国人にはあまり関係がありません。そのため、外国人には平日・閑散期も足を運んでもらえるようにするなど、バランスよく誘致していくことも大切だと指摘しました。
また、地域交流や自分を見つめ直すような体験を提供することで、日帰りではなく、「深く地域に関わる旅」の場にしていく、そういった旅行の提案をしていけばいいのではと山下フェローは提言しています。
パンダ以外の魅力も多くある白浜が今後どう賑わっていくのか、注目です。
2025年10月31日(金)現在の情報です

 
                 
                 
                 
       
       
       
       
       
       
      