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『日本は性善説・海外は性悪説』万博・工事費未払い問題 商習慣の違いがトラブルの元?「日本は建設業界全体で工期を守ってきたが...」専門家&記者が徹底分析

解説

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 “万博の華”として大阪・関西万博を彩っている海外パビリオン。一方で、業者間の「工事費未払い」トラブルも噴出しています。 8月22日には、ドイツ館やセルビア館の工事を手がけた大阪の建設会社が未払い被害を訴え、元請け業者を相手に東京地裁に提訴しました。 なぜこれほどトラブルが相次いでいるのか。万博の取材を続けているMBSの中村真千子記者と、弁護士で一級建築士の辻岡信也氏の見解とともにお伝えします。

「実際には13億円かかった」セルビア館・ドイツ館の工事

 万博の海外パビリオンをめぐり発生している工事費未払いトラブル。セルビア館・ドイツ館については、「セルビア・ドイツ」→「フランスのイベント会社・GLイベンツの日本法人(GLジャパン)」→「大阪市の建設会社・レゴ社」という流れで工事が発注され、今回のトラブルは、GLジャパンとレゴ社の間で起こっています。工事費がレゴ社へ支払われなかったため、その下請けの会社にもお金が支払われていない状況です。

 レゴ社は当初、セルビア館・ドイツ館の2館を合わせて6.3億円でGLジャパンと契約を結んでいましたが、「実際には13億円かかった」と主張しています。その理由として、口頭契約の横行や、図面・工事資材が海外輸入で追加工事が必要になったことなどを挙げています。

「非常に多い」建設業界で“口頭契約”が横行するワケ

 建設業界における口頭契約は「非常に多い」と弁護士・一級建築士の辻岡信也氏は指摘。さらに今回のようなトラブルは「日常茶飯事」だと言います。

 (弁護士・一級建築士 辻岡信也氏)「最初の契約はしっかり結ぶが、材料が想定のものと違う、穴を掘ってみたら想定外のものが出てきたなど、工事が想定通りに進むことは少なく、その場その場で応変に対応しなければならないときに、その対応についての工事の契約が口頭で行われることが非常に多い」

 レゴ社は府内の事業所をたたむなど資金繰りが苦しく、「GLジャパンから下請けに直接支払いされた分などを除いた、未払い約3.3億円」の支払いを求めています。

 このような未払い問題は、他のパビリオンでも発生しています。アンゴラ館では、日本の下請け業者間で支払いが滞り、裁判に発展。また、ネパール館については、ネパール側の支払いが遅れて工事会社が工事をストップしたため、開館が遅れてしまいました。

「海外ではまず疑いの目で請求を精査する」

 なぜ、このような問題が起きたのでしょうか。中村記者は「言語・契約書の形態・文化などが異なる海外企業との意思疎通が困難だったという面もあるのでは」と見ています。一方、辻岡氏は、こうした日本と海外の習慣の違いについて「性善説と性悪説の違い」だと指摘します。

 (辻岡信也氏)「日本の建設業界は、業界全体で工期を守るという使命を果たしてきたが、海外ではまず疑いの目で請求を精査する。日本のやり方をそのまま海外の工事の契約に結びつけようとすると、今回のようなトラブルになる」

 さらに、今回の未払い問題は「とにかく4月13日の開幕に間に合わせる」という使命感の中で、以下のような要因が影響したと考えられます。

 ▼前回の万博からの期間の短さ
 →新型コロナの影響でドバイ万博の開催は1年延期。
 ▼世界的な物価高騰
 →電気工の日当が当初の1.6万円から最終的に6万円に高騰したケースも。
 ▼デザイン・内容のこだわり
 →SDGsの観点から資材輸入、資材を船便で運搬など。

 また中村記者は、業者側の「国の一大イベントに参加したい」という思いや「国が関わるから安心だ」という安堵感などが、結果としてマイナスに働いてしまった面もあると言います。

万博協会「民民の話なので何もできない」

 未払い問題で訴えられているGLジャパン。実は、親会社のGL社は2026年9月開催の「愛知・名古屋アジア大会」で会場設営や運営を担当しているのです。愛知県の大村知事に万博未払いについて聞かれたGLジャパンは、今回のトラブルついて「報道は事実ではない」と回答しています。

 一方、未払いトラブルに対して万博協会は、「民民の話なので何もできない」というスタンス。相談窓口の紹介などをしていくということです。

「立証できるかどうかに尽きる」裁判は長期化か

 今後の裁判のポイントについて、辻岡氏は「立証できるかどうかに尽きる」と言います。

 (辻岡信也氏)「追加工事の費用が発生したと主張する施工者側に対して、発注者側はおそらく『材料を支給すれば建物をつくるという契約をしている。その間の加工も契約に含まれる』と主張する。どちらの言い分も正しい。あとは、メールやFAXなど、追加工事に関するやり取りを証明する細かい証拠を積み上げる必要がある。それがうまくいけば権利が実現できる。しかし、裁判は非常に長期化すると思います」

2025年08月25日(月)現在の情報です

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