2025年08月23日(土)公開
食卓から旬が消える!?猛暑の影響は「秋の味覚」にも...軒並み高騰予想 気候や生産品の変化で「この季節にはこれを食べる」文化が消失か...食生活の変化に消費者ができることは?
解説
記録的な暑さが続く日本列島。連日の猛暑の影響で生育が上手くいかず、野菜に豚肉、タマゴなどの値段が上がっています。 これから旬を迎える秋の味覚の価格も軒並み上昇。さらには新米も猛暑・水不足・カメムシなどの影響で現時点で不作の見込み…。 兵庫県丹波市では猛暑の影響で特産の黒大豆・小豆も不作になっていて稲作に転身する生産者も増えています。 食文化への影響が懸念されるなかで私たちができることを流通経済研究所・折笠俊輔主席研究員への取材を含めて解説します。
10月も30℃超え?終わりが見えない暑さ
8月19日に気象庁が発表した3か月予報を見てみると、9月、10月は平年に比べて気温は高く、11月も平年並みか高いということです。
前田智宏気象予報士によりますと、9月も引き続き猛暑が続き、10月も30℃を超える日があるということで、秋がなかなか来こず冬になってしまう、季節の移り変わりというのがなかな感じられないかもしれないという予想となっています。
秋の味覚の価格は上昇傾向か
この猛暑は秋の味覚にも影響を与えるようです。大阪市にあるスーパー「越前屋」に、平年に比べた価格予想を聞きました。
・マツタケ 400円ほど高い
・ナシ(幸水) 100円ほど高い
・カキ、クリ 上昇の見込み
・シイタケ 40~50円高い ※需要の上昇で価格に影響か
・秋鮭 4割~5割高い ※川や海の温度が高く、日本に遡上する鮭が少ない
一方で…
・カボチャ・サツマイモ・秋ナス 平年並み
・サンマ 2~3割安い ※北海道で豊漁
なぜここまで価格が上がってしまうか。日本は農作物などを本来は南から北へ産地の切り替えが順番にリレーされます。しかし、猛暑の影響で前倒しや遅れが生じてしまい、出荷時期がずれて、価格の波が大きくなるということです。
特に今年はナシ・ブドウ・カキなどの秋の果物は収穫が1週間~2週間早まる見通しで、旬もずれてしまう予想となっています。
流通経済研究所の折笠俊輔主席研究員によりますと、秋は台風の影響もあり数週間先の価格を予想しにくいということです。また、野菜は産地が切り替わるため長期的な高騰は少ないが、短期的な価格の変動は激しい特徴があるそうです。
専門家「新米価格5kg4000円を下回ることはない」
気になる新米の価格について折笠氏は、5kg4200~4500円と去年並みかやや高めと予想しています。
生産量が多い東北や北海道が豊作なら価格は下がる可能性もありますが、4000円を下回ることはなく、高止まりが続く予想だということです。
コメの価格に大きな影響を与える新米のできは、猛暑、水不足、カメムシの大量発生で、現時点では不作の見込みで質も不透明だということです。
黒大豆からコメへ 気候変動で特産品からくら替え
コメの高値は特産品にも影響を与えています。7月に最高気温41.2度を観測した兵庫県丹波市。猛烈な暑さが丹波を代表する「秋の味覚」に影響を与えることになりそうです。
丹波産の新鮮な野菜や特産物を販売する道の駅「丹波おばあちゃんの里」。たくさんの野菜やフルーツが並んでいます。猛暑の影響を聞いてみると…
(丹波おばあちゃんの里・農畜産物生産者部会 細田泰宏会長)「(気温35℃以上で雨が降らないと)畑で作っている作物というのは、上から水をやっても焼け石に水という状況ですので、ほとんどやられています」
水分不足の影響でピーマンやキュウリは大きくならず。トマトはお盆中に雨が降ったものの、一気に水分を吸ってしまったため実が破裂するなどの被害が出たといいます。
産直市場ということもあり、値段を高く設定しにくく、農家への打撃は大きいようです。
さらに丹波市の名産といえば「黒豆」ですが…
(丹波おばあちゃんの里・農畜産物生産者部会 細田泰宏会長)「35℃前後の暑さが続くとものすごく影響が出ます。花が落ちてしまうとか、ついたさやもなかなか成長しない」
猛暑の影響がすでに黒豆の生育に影響を与えていると話す細田さん。さらに、黒豆の収穫量が減る理由があるといいます。
(丹波おばあちゃんの里・農畜産物生産者部会 細田泰宏会長)「非常に今、コメが高くなって、今まで黒豆をたくさん作っていたけど少し減らしてコメにしようか、コメのほうが安定した収入が見込める、値段も上がっているということで、そちら(コメ)にくら替えする方もあったのではないか」
今年はコメの買取価格が上がったため、黒豆作りを減らし、コメ作りに転換する人が増えたといいます。この現象は黒豆だけに限らず、丹波市が誇る高級食材「丹波大納言小豆」の生産にも…
(丹波おばあちゃんの里・農畜産物生産者部会 細田泰宏会長)「(Q丹波の名産品が少なくなることへの懸念は?)あります、あります。もうこの先どうなるんやろと。後継者もいないし、作っているほとんどが高齢者。今までずっと頑張ってきたけど、体力的に限界だということで、作る量を減らしていく、面積を減らしていくという状況が進んでいる」
国は農業のスマート化を推進しようとしていますが、高齢者の自分たちが果たしてどこまで適応できるのか、と細田会長は心配していて、農業に従事する高齢者に対する政策をしてほしいと訴えています。
同じように兵庫県丹波篠山市の今年の作付計画では、黒大豆は去年より約66ha(9%)減少し、680haに対して、水稲は去年より約74ha(3.3%)増加して2322haとなっていて、転作した人が多いことが推測できます。
"変わる食生活を柔軟に楽しむ姿勢が大事"
気候や生産品の変化などで今後は「旬」というものがなくなっていくかもしれません。暑さに対応するために品種改良が盛んに行われています。日本の産地は「山地リレー」で南から北に移り変わっていき、年中入手が可能になっています。
これからは「この季節だからこれを食べる」という文化が弱まっていくかもしれません。
気候変動はマイナス面が多い一方で、作物に有利に働くこともあります。天候条件が作物に有利に働くこともあり、収穫量が増えて市場に大量に出回ることで、価格が安定する可能性も考えられます。
そのほかにも新しい可能性として、国内でもマンゴーやバナナ、コーヒーなどの栽培が広がりつつあります。
旬や産地のずれはあるものの、それをきっかけに“新しい食文化や食の多様性”が生まれる可能性もあります。
折笠氏は「地球や自然環境を変えることは難しい。人間が変わっていくしかない」とした上で、「店頭の状況に合わせて食生活を柔軟に楽しむ姿勢が大切」だと指摘しています。
今後、秋の味覚は変わりかもしれませんが、その状況を楽しみながら消費していくことが大切なようです。
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