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これからの防災は「+"暑さ"」 7月30日、観測史上最高41.2℃の日の津波避難を考える 8月はまだまだ厳しい暑さ 真夏の災害への備えを【MBSお天気通信】

解説

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 異例の暑さの7月が終わり、引き続き猛暑の中で8月が幕を開けました。兵庫県丹波市で国内最高気温の新たな記録となる41.2℃を観測した7月30日、太平洋側はカムチャツカ半島沖の大地震の影響による津波警報で避難を余儀なくされました。過去に経験のないような暑さに度々見舞われている今、命に関わる酷暑の中での避難という課題も、改めて突きつけられています。(気象予報士・前田智宏)

記録的猛暑の7月に

 近畿地方は統計開始以降初めての6月の梅雨明けとなり、7月まるまる梅雨が明けた真夏の状態で過ごす1か月となりました。現時点ではこの梅雨明けについては速報段階で、9月はじめに確定した日にちが明らかになりますが、今年に関しては梅雨の戻りらしい長期の雨もほとんどなく、このまま6月の梅雨明けで確定となる公算も大きくなっています。そんな中ですから、連日うだるような暑さが続き、大阪・京都・奈良などでは7月としての猛暑日の日数が過去最多となりました。
TENKI.jpg 京都でいえば、31日間のうち、なんと25日間が35℃以上でした。ちなみに京都の7月の猛暑日の平年の日数は6.7日です。いかに異例のことだったかが分かります。

 また、気象庁は今年7月の気温が統計開始以来最も高い記録を3年続けて更新したと発表しました。全国的に見ても、これまでの常識が通用しないような、記録的な気温の高さとなったことがわかっています。

 そして、7月30日。日本の最高気温の記録が、また塗り替えられました。
7月30日最高気温.jpg 兵庫県丹波市柏原(かいばら)で、41.2℃を観測。これまでの静岡県浜松市と埼玉県熊谷市の41.1℃という記録を抜いてしまいました。

 この日は近畿各地で厳しい暑さとなり、京都府福知山市や兵庫県西脇市でも40℃以上を観測し、近畿としては31年ぶり2度目の40℃超え(これまでは1994年8月8日の和歌山県かつらぎ町の40.6℃の1度だけ)。複数地点で40℃以上を記録するのは初めてのことでした。

津波からも猛暑からも身を守らなければならない状況に

 この日は、カムチャツカ半島沖の地震の影響で、太平洋側の沿岸地域に広く津波警報や津波注意報が発表されました。警報の発表されている地域では、高台への避難が必要です。ただ、長時間にわたる津波避難は体力も奪われる上、冷房設備のある屋内で退避できるような状況であればまだいいですが、高台の津波避難場所というとそのような環境の整っていないところの方が多いでしょう。

 今回は遠地での地震に伴う津波のため、津波の到達までに時間的猶予がありましたが、一刻を争う場合はとにかく避難をすることが最優先で、避難後のことを考えての準備もままならない状態であることも十分考えられます。そうなると、津波から身を守れたとしても、熱中症のリスクが非常に心配です。災害は時季を選んではくれません。

 2011年の東日本大震災の津波避難においては、雪の降る中、寒さに凍えながらの避難を強いられた方もいらっしゃいましたが、こうした真夏の災害もまた、厳しい暑熱環境から命を守るための工夫が必要です。今回の津波からの避難については、この現実を私たちに改めて突きつけるものとなったと思います。
コミュニティ用スライド.jpg
(上:津波避難訓練アプリ「逃げトレ」の画面 下:津波避難場所の丘からの景色 
ともに筆者撮影)

 筆者は5月の終わり、高知県四万十町で南海トラフ地震津波避難訓練に参加しました。「逃げトレ」という訓練アプリを使いながら、海水浴場からの避難を試みました。

 その日も強い日差しが照りつける日で、津波から身を守ることのできる高さの丘を駆け上がると、あっという間にへとへとになってしまいました。初夏の陽気ですらそんな状況ですので、猛烈な暑さの中であれば、避難スピードの鈍化も想像に難くありません。いかに暑さを避けながら、できるだけ早く坂や階段を上がって高い場所を目指すか。真夏の避難についても想像を膨らませておく必要がありそうです。

 暑さへの備えは、津波避難に限りません。これからの台風シーズンにおいても、停電してエアコンが使えなくなったとき、どう暑さをしのぎながら身を守るかが大事になってきます。電気に頼らなくても涼をとることができるように、ペットボトルの水やネッククーラーを凍らせておいたり、充電式の携帯扇風機を準備しておいたり、対策を考えておきましょう。これからの防災は、「大雨・台風・地震・津波などのハザード+“暑さ”」両方から身を守ることを考えることが重要です。

8月もいつもの夏より高い気温に

 この夏、災害級の暑さはまだまだ続きます。気象庁の最新の1か月予報では、近畿地方は8月1週目、2週目、3・4週目のいずれも平年より気温が高い見通しです。まもなく立秋を迎え、暑さも「残暑」と表現されるようになりますが、残暑と呼ぶには厳しすぎる暑さがしばらく続くでしょう。

 引き続き熱中症に気をつけ、体調を第一に考えながら、真夏の災害への備えについても少し思いを巡らせる夏にしていただければと思います。

◆文 前田 智宏
毎日放送 気象予報士(南気象予報士事務所所属)。MBSテレビ「よんチャンTV」に出演中。気象キャスターとしての仕事のかたわら、京都大学大学院情報学研究科(防災研究所)にて防災情報に関する研究を行う。防災士・気象防災アドバイザー・健康気象アドバイザー。

2025年08月03日(日)現在の情報です

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