2025年07月31日(木)公開
【カムチャツカ半島沖地震】南海トラフと同じ"逆断層型"「規模が非常に大きい」 10日前の地震との関連「7月20日が前震・30日が本震」 日本列島の地震への影響はある?
解説
7月30日午前8時25分頃、カムチャツカ半島付近を震源とする地震があり、アメリカ地質調査所によると、地震の規模を表すマグニチュードは8.8。太平洋側の広い範囲に一時、津波警報が発表されました。今回の地震と津波、その後の関連について地震のメカニズムに詳しい京都大学・防災研究所の西村卓也教授に話を聞きました。
東日本大震災と似た規模・メカニズム
―――今回の地震の規模や特徴はどういったものでしょうか?
(西村卓也教授)「この地域は、太平洋プレートという海のプレートが陸地の北アメリカプレートの下に沈み込んでいる場所です。マグニチュード8.8と非常に規模が大きい地震ですね。14年前の東日本大震災とこちらの地震は、プレートの組み合わせやメカニズムが非常によく似通っている。規模も東日本大震災に非常に近く、非常に大きな揺れ・津波が発生している状況です」
「北アメリカプレートに対して太平洋プレートは通常、北西方向に年間8cmほどのスピードで動いています。北西側にプレートが沈み込む影響で、北アメリカプレートのカムチャツカ半島付近もふだんは北西方向にぎゅっと押し込まれたような状況になっています。それが限界を迎え耐えきれなくなってしまうと、北西方向に押し込まれたものを解放するように、逆に南東側に大きくせり出すような形になります。それが今回の地震。この規模の地震だとだいたい500kmぐらいの範囲の断層が一度に南東方向にずれあがるような動きをしたと考えています」
―――10日前にも近い場所でM7.4の地震がありました。
「地震学的に言うと、20日の地震が『前震』、30日の地震が『本震』に当たる地震だったということで、相互に関連した地震だと考えています。東日本大震災や熊本地震のときにも前震・本震がありましたが、その関係と同じような地震が今回発生したと考えています」
「これを南海トラフに当てはめてみますと、まさに20日の地震でいわゆる『南海トラフ臨時情報』の『巨大地震注意』が出たような状況で、その後実際に大きい地震が来たという形になります」
南海トラフと同じ『逆断層型』
―――カムチャツカ半島付近の地震が、南海トラフと同じ『逆断層型』といったワードがでてきています。実際に、これは言い切れるんでしょうか?また逆断層型というのはどういうものでしょうか?
「逆断層型とは、例えば陸地が左右から押し合う力があったときに、片方の地面に対して、もう片方の地面がのし上がるような形で断層がずれるタイプの地震です。日本列島でもよくあるタイプの地震で、東日本大震災や、将来発生が懸念されている南海トラフ地震もこの逆断層型というタイプの地震です。海のプレートと陸のプレートが沈み込んでいるところでは、大体この逆断層型の地震が起こると知られています」
百数十年の間に10回も起こっていない規模の地震
―――本当に大規模な地震になりましたが、なぜここまで日本に津波の影響が出たのでしょうか?
「地震の規模を表すマグニチュードが非常に大きかった。アメリカの地質調査所によりますと8.8ですが、マグニチュード9に近い地震は超巨大地震と呼ばれています。地震が観測されるようになった百数十年の間でも全部で10回も起こっていないぐらいの規模の地震です。その一つが東日本大震災ですが、太平洋の周辺どこで起こっても、太平洋全体に津波が広がるような規模になります」
「例えば東日本大震災のときも、日本だけではなくて対岸のアメリカの方にも津波が押し寄せて被害が出たりとか、1960年にあったチリ地震という太平洋の反対側で起こった地震でも、日本に津波が来て大きな被害が出たので、やはり地震の規模がとにかく大きかったのが一番の原因」
―――関西では和歌山や大阪で津波を観測。第一波到達後も波が大きくなっていくと考えてもよいでしょうか?
「そうですね。今回のような遠いところで起こった津波、いわゆる遠地津波の場合は、第一波よりも第二波、後続の波の方が高くなる傾向があります。津波注意報、あるいは警報が出ている間は避難が必要だと思います」
―――津波警報が発表されたエリアは最大3m予想。どのような被害が考えられるのでしょうか?
「高さ3mの津波だと、防潮堤や防波堤を乗り越えるような高さになるので陸地でも浸水が起こります。そして浸水高が1.5mぐらいを超えると、木造住宅だとそのまま流されてしまう。浸水が例えば30cmでも、大人でも立っていられないぐらいの水の塊が押し寄せることになるので、そのような浸水が想定される地域では安全なところ、高いところに逃げることが必要です」
南海トラフへの影響は?
―――この地震で日本近海、もしくは日本列島への地震の影響はあるのでしょうか?
「この地震によって直接的に日本列島の地震活動が大きくなる、誘発が非常に大きくなるということは考えにくいですが、地震の規模が非常に大きかった、かつ日本の各地でも震度1や2が観測されているように、揺れが日本列島にまで到達している事実があります」
「そのような揺れによって地震が誘発されるメカニズムもあり、その効果はそこまで長続きはしませんが、今回の地震の揺れによって、地震が少し起こりやすくなっている状態が1日、2日ぐらいはあるというのが過去の地震の例にもあります。そういう意味では普段よりは地震が起こりやすくなってると警戒感を持った方がいいのではないかと思います」
―――根室沖であるとか、北海道沖ではどうでしょうか?
「北海道でも震源地からは1000kmぐらい離れているので、この地震が起こったことで、北海道沖周辺で起こりやすくなることは考えにくいと思います。ただ、地震が限界まで近づいているようなところだと、これが最後のひと押しになってしまって誘発されることは当然あるので、北海道だけでなく日本列島は他の地域でも十分注意する必要があると思います」
―――今回の地震が、必ずしも南海トラフなどの地震を引き起こす可能性があるとは言い切れないという解釈でよろしいでしょうか?
「直接的な影響としてはほとんど無視できる程度で、それほど心配することはないと思います。どちらかというと、より局所的に起こるようなタイプの地震だと、今回の地震によって地震の発生回数が増えたりといった影響があるのではないかと見ています」
―――この規模の地震が起きると、連鎖して同じプレート内で起こる可能性はあるのでしょうか?
「カムチャツカ半島の周辺では、今回の地震がきっかけとなって同じタイプの地震が今後も起こりうると思います。例えば、今回の地震は本震のマグニチュードが非常に大きいので、余震でもマグニチュード8クラスということも考えられます。余震でも大きな被害が出る場合もありますし、この余震によって生じる津波がまた日本に来る可能性もあるので、余震、あるいは引き続き発生する地震について、この先1週間ぐらいは注意が必要」
外出先で警報が出たらどう動くべき?
―――夏休み中ということもあって、外出先で津波警報や津波注意報にあった人も多いと思われます。慣れない場所で警報などが発表された場合は、まずどのように行動するべきでしょうか?
「慣れない場所だと避難場所や高台がどこか探すことは難しいと思います。まずは周囲の避難場所の看板だったり、インターネットが繋がる状況であれば、ハザードマップなどを見て、安全な場所に逃げる。あとは高台が見えているのであれば、直接行くのが大事じゃないかと思います」
―――酷暑が続いていますが、夏の災害にはどのような対策をすればいいでしょうか?
「避難場所が必ずしも熱中症対策が十分進んでいるかというとそうでもありませんし、避難タワーとかだと屋外に避難せざるを得ないこともあると思います。そういう場合でもなるべく日陰の場所を探したり、水分を十分取ることで熱中症にもならないように十分配慮しながら避難を続けることが大事だと思います」
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