2025年07月24日(木)公開
「利益90%はトランプ大統領の『盛った発言』か...見極めが重要」アメリカ政治専門家が指摘 関税15%合意で日本は損にならないのか?経済の専門家は...
解説
7月23日、石破総理はトランプ政権との関税交渉で合意し日本への相互関税は8月1日から発動するとしていた「25%」から「15%」に引き下げられることになったと説明。急転直下で合意となった関税交渉について日本総合研究所・藤山光雄氏と、同志社大学大学院・三牧聖子教授とともにお伝えします。◎三牧聖子:同志社大学大学院教授 専門はアメリカ政治・外交 国際関係◎藤山光雄:日本総合研究所 関西経済研究センター 所長 専門分野は地域創生・地域経済
15%合意 日本“お手柄”といえるのか?
関税交渉の合意について、トランプ大統領が自身のSNSに投稿した内容がこちらです。自身の功績を強調するような内容になっているのが見て取れます。
【トランプ大統領のSNSより抜粋】
「おそらく史上最大規模の合意でしょう。私の指示のもと、日本はアメリカに5500億ドル(日本円で約80兆円)を投資し、その利益の90%をアメリカが受け取ります」
「おそらく最も重要なのは、日本が自動車やトラック、米、その他の農産物などを含む貿易に対して、自国市場を開放することです。日本はアメリカに対し15%の相互関税を支払います」
①日本への相互関税&自動車関税は15%
②日本はアメリカに5500億ドル(約80兆円)投資
③日本は自動車や米などの貿易を開放
―――合意内容について、どのような印象ですか?
(三牧教授)「②アメリカへの投資 ③市場開放 詳細がまだわからないのですが、トランプ大統領が最もこだわってきた自動車関税が15%に下がった。そして輸出の台数制限もないというところで、日本としても若干胸をなでおろすような内容だったと思います」
(藤山氏)「合意も何もなければ8月1日から25%になり、自動車はすでに25%になっていたわけですが、そこがとりあえず15%になったという点は安心材料」
―――15%の合意は日本側としては“お手柄”といえる内容なのでしょうか?
(三牧教授)「22日までに合意が成立していた国はわずか3カ国で、ベトナムやインドネシアにはそれぞれ20%、19%の関税がそのまま残りました。石破総理も強調されていましたが、そうした国より貿易赤字をアメリカが抱えている国でありながら、15%を勝ち取ったというのは、日本の交渉が実ったところはあったと思います」
関税とは…上がると日本企業の負担
そもそも「関税」とはなんなのか?例えば日本からアメリカへ100万円車が輸出されるときに、25%の関税がかかっていると、125万円の車になります。関税での上乗せ分はアメリカの輸入事業者が、支払うことになっています。 しかし、藤山氏は関税は日本企業にとって負担になると話します。関税がかかってしまうと、アメリカの業者が払うことから最終的に売られる値段がその分高くなり、物の値段が高くなると売れなくなってしまうということです。
(藤山氏)「日本から輸出するときに値下げして売る動きも今みられています。そうすると関税がかかっても値段は元のままで、アメリカの消費者が買う値段はそのままで済むという可能性もありますが、それは、逆に言うと日本から売るときに値下げしてしまっているので、日本企業の負担になる」
いずれにしても、関税が上がるとアメリカに輸出している日本企業にとっては負担となり、利益が少なくなってしまうということです。
関税を上げたい理由「国内産業の保護」「大規模減税法案の財源」
改めて関税がどれほどかかっているのか見ていきます。4月には、自動車がそれまでの2.5%から25%増えて、27.5%になり、輸入品全般には10%がかかっていました。
そして、7月8日に表明されたのは、輸入品全般について8月1日から25%になる、というものでした。そして7月23日合意したのが、自動車、輸入品全般ともに15%というものです。
―――そもそもトランプ大統領はなぜ関税を上げたいと思っているんでしょうか?
(三牧教授)「まずは国内産業の保護です。『安いものが海外から入ってくるからアメリカ製の物が売れない』というのがトランプ大統領の考えで、他国からの輸入品を高くすればアメリカのものが売れるということで関税をかけた」
(三牧教授)「もう1つの理由として、7月に成立した大規模な減税法案が成立したことがあげられます。トランプ大統領が非常にこだわっていた法案で、財源に関税が充てられているので、そういう観点からも関税撤廃をトランプ大統領から勝ち取ることは難しくなっていたというところがあります」
「90%の利益をアメリカが受け取る」 トランプ大統領の"盛った"発言?
合意内容を見ていきます。トランプ大統領の言い方では、「私の指示のもと、日本はアメリカに80兆円ほど投資し、その利益の90%をアメリカが受け取る」と発信しています。
対する日本側、石破総理は「医薬品や半導体などの分野で、日米に利益がある生産体制をアメリカにつくる。政府系金融機関から日本企業に出資や融資をする」と発信。
これは何を示すのか。藤山氏は「日本の企業がアメリカに工場などをつくる際に、政府系金融機関が融資や出資などで、最大5500億ドルサポートをすると、おそらくそういう枠組みで合意したと思います」と話します。
そして「実際に日本の企業がアメリカにどれぐらい進出していくのか。それがどれぐらいの規模になるのかはこれから、ということかなと思います」
―――トランプ大統領は「利益の90%をアメリカが受け取る」と発信していますが、日本としては損をするのでしょうか?
(藤山氏)「日本の企業にとってアメリカは非常に大きな市場で、そこで日本の企業として事業を行っていくメリットがあるのであれば、この機会に日本政府の支援も受けて、アメリカでしっかりとしたビジネスをやっていく、そういうふうに捉えれば、日本にとってもメリットがあると考えることもできるかなというふうに思います」
―――「90%」という表現や、「私の指示のもと」という文言をわざわざつけた意味もふくめ発信内容についてどう分析されますか?
(三牧教授)「5500億ドルというのが、一体どういう時間の幅なのか、まだわからないので、詳細を厳しい目で見ていく必要がある。利益の90%ををアメリカが受け取るというのも、日本側は決して国益に打撃があるようなことをしてないとしていますから、日米の言ってることがズレてるような状況です。この90%というのが、トランプ大統領がよくやる支持者向けの“盛った”発言なのか、一体何を指してるのかというのも重要なポイントです。」
(三牧教授)「トランプ大統領は最近、国内でスキャンダル等もあって、支持者が離れつつあり、そうした中で日本とのディールを、相当支持者向けに売り込みたいというところもあるので、実際に日本と合意したところと、トランプ大統領の支持者向けのメッセージっていうのを見極めるところも重要かと思います」
日本はもっと買わされるのか?
合意内容の3つ目「日本は自動車や米などの貿易を開放」とは具体的にどういった内容なのでしょうか?
アメリカの自動車に関しては、日本への輸出拡大には「車検」や「需要」など関税以外の壁があり、米については、ミニマムアクセス米(年77万t)の枠内で、アメリカからの調達割合を増やすということです。
―――この内容について、どのような影響があると思いますか?
(藤山氏)「自動車について、もともとアメリカの政権は関税以外の障壁として、いわゆる安全基準が日本とアメリカで違うため、日本に車を輸出する際には別途検査が必要になるとか、そういったところを追加の検査をしなくてもいいように、というような主張をしてましたのでそうしたところで障壁が多少緩和される可能性はあります。」
(藤山氏)「ただ、最終的には『日本でアメリカの車が売れるのか』そこが重要。もし売れなければ、トランプ大統領的には満足できないという結果になるかなという形ですね」
―――米については日本にとってあまりダメージはないのかという印象ですか?
(藤山氏)「米についてはミニマムアクセス米の枠内ということが発表されてますので、この枠内であればアメリカからの米の輸入がどんどん増えるというわけではないですので、今のところ大きな影響はないのかなというふうに感じています」
(三牧教授)「トランプ大統領は米の問題を『日本の市場の閉鎖性の象徴』として、日本は米に高い関税をかけて市場を開放してないと何度も批判してきたので、トランプ大統領を満足させ、支持者に誇れる象徴的な成果を与えるという点では、日本にとっては小さくない譲歩ですけれども、交渉をスムーズにした面は確実にあったと思います」
―――今後、大統領が合意内容をひっくり返す可能性は?
(藤山氏)「時間軸でどれぐらいで成果が出てくるか。成果が出てこないとトランプ大統領なので、何かをやるかもしれないという不透明感が残ってしまうかもしれない」
今回3つの合意内容で落ち着きましたが、懸念や不明点もまだまだ残っています。ひと安心とならずに、長期的に見ていく必要がありそうです。
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