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給付も減税も「無しの可能性」 各党バラバラの減税案を「野田代表がまとめるのは困難では?」 年収の壁、ガソリン暫定税率、社会保険料などほかの案は?専門家らが予想する「民意のゆくえ」

解説

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 今回の参院選の大きな争点の1つが物価高対策。「現金給付」を掲げる与党に対して野党は「消費税減税」を訴え、選挙結果では「消費税減税」が支持された形となりました。ただ、減税の内容については党によって主張がバラバラ。今後、消費税減税の議論は進むのでしょうか? 私たちの生活に直結する“お金の話”の今後について、法政大学大学院・白鳥浩教授や、ジャーナリスト・武田一顕氏の見解をもとにお伝えします。

参院選で「民意は給付より減税を選んだ」

まず、参議院選挙にて各党が主張していた物価高対策を改めて確認します。

 ▼給付
 自民・公明:1人2万円・4万円(子ども・住民税非課税世帯には4万円)

 ▼給付&減税
 立憲:2万円・食料品0%(原則1年間)
 れいわ:10万円・消費税廃止

 ▼消費税減税
 維新:食料品0%(2年間)
 国民:一律5%(時限的)
 共産:一律5%(廃止目指す)
 保守:食料品0%
 社民:食料品0%
 参政:段階的に廃止

 結果として参院選では、現金給付を訴えていた与党の獲得議席は過半数を割り込み、消費税減税を訴えていた野党が議席を増やしたため、消費税減税が支持された形となりました。もちろん、与党の給付案に賛成だが違う政策を支持して野党に入れた人もいれば、逆に減税してほしいが与党に入れた人もいるでしょうから、一概には言えません。

 また、比例代表の得票率は自民が21.6%、公明が8.8%で、合わせても30.5%(1802万票)。つまり有権者の7割は今回、自民・公明に「ノー」を突きつけたと、必ずしも給付に対してではありませんが、大きくみればそういう流れです。

給付案はストップ? 減税案はまとまらない?

 参院選の結果を踏まえて、給付と消費税減税は今後どうなるのでしょうか?法政大学大学院の白鳥浩教授は、「民意は給付より減税を選んだ」と見ていて、さらに野党が給付を“ばらまき”と批判し続けてきたことから、給付案は一旦ストップするのではないかという見解です。

 政治取材を長年続ける武田一顕氏も、給付案を掲げていた与党が今回の参院選で敗北したとした上で、「立憲と手を組むにしても『給付』と『減税』がセットだから実現は難しい」といいます。

 給付案の今後について、MBSの大八木友之解説委員は次のように話します。

 (大八木友之解説委員)「21日の石破総理の会見では、立憲民主党も給付を訴えていたので給付について話を進めたい、という意思は示しました。しかし、立憲・野田代表は『我々が言ってるのは給付付き税額控除』で、中低所得者の税額が減っていくという減税をやりたいので、自民・公明が言っている給付ではないということで、すんなり話は進まない印象ですね」

減税で「自民・立憲が手を組むことはあるのか」

 では消費税減税はどうなるのか?というところですが、減税政策は各党バラバラ。武田氏は「野田代表の手腕が試されるが、バラバラの野党をまとめるのは困難ではないか」と指摘します。

 自民と立憲の物価高対策には似ている部分もありますが、物価高対策をめぐり自民・立憲が手を組むことはあるのか?「食料品の消費税0%」(原則1年間)が議論の出発点となる可能性もあるのか?この疑問を白鳥教授にぶつけたところ、以下の課題を挙げ「なかなか難しいのではないか」という見解です。

 ▼「食料品」の線引きをどうするか
 ▼法改正が必要なため、実現は早くても1年後か
 ▼1年かけて実現しても恩恵は1年間
 ▼自公延命の手助けをすることになる

 食料品の消費税を0%にすると年間5兆円の税収減になる(財務省の試算より)という財源の問題もあります。

 こうしたことを踏まえると、現時点では「給付と減税のどちらも実現しない」可能性が高いと言えそうです。

 (大八木友之解説委員)「自公としては『何もやってない』とならないよう、どこかの野党と話を進めていくとは思うんですけども、野党側がバラバラなことを言っている。例えば国民民主の玉木代表が『食料品の消費税は1、2年で元に戻しても仕方がないし、103万円の壁の方を早くやるべき』と明確に食料品の消費税減税を否定したので、これはまとまらないなと思いましたね」

ガソリン暫定税率の廃止は進む?

 では、「ガソリン税」や「年収の壁」など他の物価高対策の動きはあるのでしょうか。

 まずガソリンの暫定税率は、廃止すれば年間約1兆5000億円の税収減になりますが、野党を中心に廃止を訴えています。立憲・野田代表は「野党で連携して10月1日からでも実施、みたいな成功体験をもちたい」と発言しています。

 これについて白鳥教授は、国民民主党が強く訴えてきた政策で自公は積極的ではないと指摘。また、10月までの2か月でシステム変更を行うのも厳しいのではないかと見ています。

 一方で武田氏は「可能性としてあり得る」という見解。実際に6月の通常国会で野党7党が暫定税率の廃止法案を共同提出し衆議院を通過、与党が過半数だったため参議院では否決されましたが、参院選の結果、与党が少数となりました。つまり、8月1日からの臨時国会で可決すれば10月1日に間に合うのではないかとみています。

国民民主が掲げる「年収の壁を178万円へ引き上げ」

 続いて、国民民主・玉木代表が中心となって訴えていた「年収の壁」。国民民主は年収の壁を178万円に引き上げたいと主張していましたが、現時点では123万円となっています(年収によって基礎控除をさらに上乗せするケースもある)。

 白鳥教授曰く、参院選で国民民主が17議席(+13)を獲得したことを考えると、年収の壁については、さらなる引き上げが進む可能性もあるのではないかということです。

 一方で武田氏は、野党がまとまれば法案提出も視野に入るが、立憲は財源確保を重視する(年収の壁を103万円→178万円に引き上げると約7兆円の税収減ともいわれる)ので、簡単には賛同しないのでは、という見解です。

維新が訴える「社会保険料の引き下げ」

 そして維新が掲げていたのは、社会保険料の1人年間6万円引き下げです(年間4兆円以上の医療費削減)。

 これについては、今回の維新の獲得議席7(+2)では実現は難しいと白鳥教授はいいます。武田氏も「大規模な制度改革で時間がかかる」とした上で「現時点では先行き不透明で実現性は低い」と指摘。

 こうして見ると実現する政策は少ないように思われますが、それでは結局、政治不信につながってしまいます。参院選で示した国民の意思表示は政治に繋がっていくのか。この夏の動きを私たちもしっかり見ていく必要がありそうです。

2025年07月24日(木)現在の情報です

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