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『給付金か消費税減税か』あなたなら?専門家の意見は真っ二つ!「3万円欲しい」「あざとい」の声も 給付派・減税派の主張を徹底比較し妥当性考える

解説

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長引く物価高に、夏の参院選の公約として自民党から『国民1人当たり数万円の給付』案が浮上しました。これに対し、野党の中からは消費税減税の声があがります。給付と減税でどんな違いがあり、どちらが私たちの暮らしを助け、日本を前に進めるのでしょうか?専門家の意見が真っ二つに割れたテーマについて、論点を深掘りします。

物価高対策は「参院選の焦点」与野党の主張を比較

自民・公明両党の幹部は、「税収の増収分を給付で還元する認識で一致した」とし、自民党の坂本哲志国対委員長は「参院選に向けての公約」と述べました。財源は税収の上振れ分を充て赤字国債は発行しない見通しです。公明党は年内給付を望んでおり今後、給付額や方法、所得制限の有無などが協議されます。

一方、消費税減税を求める野党・国民民主党の玉木雄一郎代表は「もしそんな余ったお金があるんだったら、減税で国民に返すべき」と主張。消費税率10%のものもあわせて時限的に一律5%へ引き下げるとしています。

立憲民主党は参院選の公約として、来年4月から最長2年間、食料品の消費税率をゼロする案、日本維新の会も同様の考えで、食料品消費税を2年間0%にするとしています。共産党は廃止を目指し緊急に一律5%。れいわ新選組は消費税廃止としてます。

『ありがたい』『ごまかされない』街のリアルな声

物価高対策として給付金と減税は、どちらが望ましいのでしょうか。商いの町・大阪で聞いてみると、様々な意見が飛び交いました。

『消費税減税はできそうにないから給付金の方が嬉しい』と実現性を踏まえた意見もあり、額としては『3万円くらい欲しい』という人もいました。また『目先は嬉しいが、それよりも子育て支援や社会保障など、他にやるべきことがある』と指摘する声や、『ずっと続けてくれるなら賛成だが、今回だけでは困る』という不安の声も聞かれます。

さらに、『参議院選を控えたあからさまなばらまき』『選挙目当てというのが分かりすぎてあざといな』といった辛辣な意見もありました。

専門家の意見『真っ二つ』に割れる!給付金か減税か

物価高対策としてどちらが効果的なのか専門家の間でも意見が割れています。野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は、「物価高の結果として、消費が下振れている。こういう短期的なショックに対しては給付金が有効」との考えを示しています。

一方、第一生命経済研究所の首席エコノミストの永濱利廣氏は、「消費減税の方が経済を押し上げる効果が高い」と考えています。街の声も専門家も、意見が割れる理由はどこにあるのでしょうか。

『給付はバラマキ?』実は減税も同じ?似た点と違う点

まず『給付も減税も形は異なりますが、国の財布の中身は同じ結果』という指摘があります。国の財布からお金が出ていくのが給付。入ってくるはずのお金が入らないのが減税。財布の中が「元々の予定よりも減ってしまう」影響がある点では共通していて、どちらがバラマキか否かなどは一概に決めつけらないかもしれません。

いっぽう両者の性質は異なっています。現金給付案の財源として有力視されているのは、国の税収が当初の見込みを上回った「上振れ分」です。2023年分の税収は2.5兆円程度の上振れが見込まれています。24年はさらに上振れするだろうとも言われていて、もし3兆円から4兆円規模に達するのであれば、国民1人あたり3万円程度の給付が可能になるのではとされています。

一方、消費税減税は、仮に食料品8%の消費税率を0%にした場合、年間で約5兆円の税収減が見込まれ、その分の財源が必要になります。また、消費税率を1ポイント引き下げるごとに、約6000億円の税収が減るとの試算もあります。

さらに大きな違いとして、現金給付は「一度きりの措置」ですが、消費税は一度引き下げると、例えば、食料品税率を0%にした後、数年後に再び8%に戻すとなると、政治的にもインパクトが大きくなりそうです。

過去の給付に効果はあったのか?リーマン、コロナ禍の事例

過去の例と効果を振り返りましょう。記憶に新しいのは、2020年の新型コロナ感染拡大時に、国民1人当たり10万円が給付されたケース。この財源12兆8000億円は全額赤字国債で賄われました。それ以前の2009年のリーマンショック後には経済対策として1人1万2000円(総額2兆円規模)が配られました。また、2025年の物価高対策として、住民税非課税の低所得者世帯に対し、1世帯当たり3万円が支給された事例(総額4900億円規模)もあります。

これらの給付金はどの程度消費を押し上げたのでしょうか。内閣府の消費増加効果では支給金額のうち実際に消費に回ったのは、リーマンショックの際で25%相当、コロナ時は22%程度(支給5週間前~10週間後)、残りは貯蓄などに回ったとみられています。

給付に似た政策として、1999年に地域振興券1人2万円分の商品券(7700億円)が配布されました。使用期限があって貯蓄しにくい仕組みでしたが、それでも消費を押し上げる効果は約32%に留まったといいます。なぜなら商品券が使われたため、本来使っていた現金を使わなかったと考えられています。2024年に行われた1人4万円の定額減税(3兆2840億円減税)について、みなさんは効果を実感していますでしょうか?

【論点①】給付派『一時ショックには一時対策』減税派『費用対効果で優位』

野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストである木内登英氏は給付金が望ましいとの立場です。木内氏によると、現在のトランプ関税やコメ、経済状況は「一時的なショック」であり、長期的な経済トレンドで悪化しているわけではないと分析。そのため、一時的な問題には一回限りの給付金という対策が適切だろうとの主張です。

第一生命経済研究所の首席エコノミストである永濱利廣氏は、費用対効果の観点から減税が優れていると反論します。物価高に苦しむ現状においては、物価そのものを直接引き下げる効果のある消費税減税の方が、直接的で理にかなった対策だという考えです。減税側の目線として、GDPの押し上げ効果に関する試算も紹介されており、給付が0.2%であるのに対し、減税は0.4%、どちらもそこまで大きくないとしても、2倍の効果が見込まれるという見方もあります。

【論点②】日本の借金は大丈夫か…インフレ下の財政に対する見解も異なる

国の財政についてみていきましょう。「減税派」の永濱氏は、今後インフレが続く状況の下では日本の借金はそれほど問題にならないとの見方を示しています。山中アナウンサーは、ざっくりしたイメージとして、国の歳入が100万円で借金が100万円あった場合は借金比率は100%の中、仮に物価が2倍になれば歳入が200万円となり、借金比率は半分の50%になると、図を用いて説明しました。

日本の借金はGDPの2倍超といわれるが、どこまで増えていいのか?と永濱氏に聞いたところ、アメリカの論文では、現在のさらに倍、GDP比446%程度まで増加しても問題ないという試算もあるとの説明でした。「しかしデフレになったら問題では?」と永濱氏に伺うと、「デフレは基本的に人手が余っているときに起きる。人手不足が今後も続くと予想され、人手不足の中でデフレになることは考えにくい」としています。

これに対し、「給付派」は慎重な見解を示しました。木内氏は、「インフレになれば、同時に使うお金も増えていきます。例えば、公共事業を行う際の費用も物価上昇分だけ高くなるため、単純に借金の返済が楽になると考えるのは危険ではないか」と反論しています。インフレ下における日本の財政状況の見立ても、専門家により見解が異なりました。

木内氏は、「今の経済状況はそこまで悪くなく、恒久的措置は必要ない」との考えです。いっぽう永濱氏は「日本の食料品にかかる税率(8%)は、G7諸国の中で最も高い。また、家計収入に占める食費の割合【エンゲル係数】も、日本は28%でG7の中で最も高い」としています。

【論点③】もし給付するなら『所得制限』vs『一律』どちらが妥当?

与党が給付案に傾く中で、2人の専門家に「仮に給付の場合、具体的な給付方法や対象は?」と聞くと、これまた異なる回答を得ました。焦点となるのは、給付対象に所得制限を設けるか、それとも一律で全員に給付するかという点です。

給付派の木内氏は「所得制限すべき」と主張します。理由として、集めた税金をそのまま全員に分配するのでは、政策としての価値が薄く、国が持つべき再配分の機能が果たされないと指摘。そのため住民税非課税世帯などに限定して給付することで、効果的な支援が可能になるとの考えです。

一方、減税派の永濱氏は、もし給付策であれば「一律で全員に給付すべき」という立場です。住民税非課税世帯(サラリーマンの給与収入で年収約200万円以下が目安)を基準にすると、それよりわずか収入が多いだけで生活に困窮している人々が支援の対象から漏れてしまう可能性を指摘。さらに、金融資産をもつ住民税非課税世帯があるとも指摘し、必ずしも支援を必要としない人に給付されてしまう不公平が生じかねないと警鐘を鳴らしています。

専門家が共通して指摘した「日本経済の根本課題」

しかしそうした中で、意見の異なる専門家2人が共通して指摘していることがありました、それは日本経済の根本的な課題で「成長戦略がない」ということであり、現在の日本経済が成長していないことこそが問題で、これに対する取り組みが必要だという点では一致していました。

番組が「給付や減税は、投票先に影響しますか?」と街で50人に聞くと、影響すると答えたのが39人・影響しないが11人で、全体の78%が影響すると回答しています。大事なテーマだけに、引き続きその内容をしっかり見極める必要があります。

2025年06月12日(木)現在の情報です

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