2025年06月11日(水)公開
コメ価格めぐる"小泉大臣とJAの綱引き"備蓄米の次の一手は輸入米か...「緊急輸入も選択肢」発言の真意とは "聖域なくす"コメ政策で価格は落ち着く?【解説】
解説
6月10日、小泉進次郎農水大臣は備蓄米をさらに20万t追加で放出すると発表。コメ価格を抑えるため「あらゆる選択を考える」としている小泉大臣。海外のコメの緊急輸入の可能性についても言及しています。かつては日本の農家を守るために「コメ一粒たりとも入れるな」とコメ輸入を止めてきた歴史がありますが、小泉農水大臣の真意とは何なのか。宮城大学・大泉一貫名誉教授の見解を交えてまとめました。
世界のコメ生産事情
2022~2023年の世界におけるコメの生産量は、1960年の3.4倍となっています。一方で、日本は約50年前に比べてなんと6割も減っています。では、世界のどこで多くコメが作られているのか?生産量の高い順に並べました。
【コメの生産量ランキング 2023年】(米国農務省データより)
1位:中国 1億4462万t
2位:インド 1億3783t
3位:バングラディシュ 3700万t
4位:インドネシア 3302万t
5位:ベトナム 2720万t
6位:タイ 2000万t
7位:フィリピン 1233万t
8位:ミャンマー 1230万t
9位:パキスタン 987万t
10位:カンボジア 740万t
コメ大国であるはずの日本が10位以内にいません。日本は実は11位、生産量は730万t。上位の国とはケタ違いに少ないことがわかります。
コメの輸入はリスク大!?
世界で多くのコメが作られているなら、輸入は簡単…と思いきや、そうでもなさそう。コメを輸入する上で心配材料が2つあります。
1つ目はコメの種類です。コメには主に長粒種・短粒種があり、長粒種はタイ米などで、日本で主流となっているは短粒種です。しかし世界で作られているコメの7割は長粒種で、短粒種は実は全体のたった2割(残り1割は中粒種)。つまり世界で生産されているコメの多くは日本人好みではないため、輸入しても需要が少ない可能性があります。
もう1つの懸念材料は、コメの輸入状況です。生産量上位2か国の中国・インドは主に国内消費のために作っていてほとんど輸出していません。日本人好みの短粒種・中粒種のコメを生産・輸出しているのは、日本よりも生産量が少ないアメリカ(生産量692万t)、台湾(102万t)、オーストラリア(45万t)のほか、タイ(2000万t・その多くは長粒種)の4か国のみ(数字は2023年の生産量・米国農務省データより)。
また、世界のコメ生産量は合計で約5億tですが、そのうち貿易(輸出)に回るのはたった8%です。こうしたことを考えると、日本が輸入に頼るのはリスクが高いと専門家は指摘しています。
台湾米は日本のコメの味に近い?
一方で、そうした状況の中でも海外産のコメの民間輸入量は急増していて、アメリカ産カルローズ米や台湾米がスーパーに並ぶことも増えてきています。そこで、MBSのアナウンサー3人がカルローズ米と台湾米を実際に食べ比べてみました。
玉巻映美アナウンサー:私は台湾米がすごく好みでした。ふっくらもっちりしていて香りも良かったですし、言われなかったら国産なのかなと感じるくらい。
山中真アナウンサー:日本のパックご飯も含めた3種類を、どれがどの国のコメか知らない状態で食べたところ、一番おいしいと思ったのはカルローズ米でした。
河田直也アナウンサー:どれもおいしかったんですけど、カルローズ米は食感が明らかに違いました。普段食べているコメの香りとは違うようにも感じました。台湾米は、味自体は日本のコメに近い。ただ、食べ比べているからわかるわけで、それだけ出されたら気づかないと思います。
コメ価格下げたい…小泉大臣の3つの“切り札”
政府備蓄米の在庫がなくなれば「緊急輸入も含めて、あらゆる選択肢を持って向かいたい」と6日に発言した小泉農水大臣。なぜ今コメの輸入に言及しているのでしょうか。
今、コメの価格をめぐり、価格が少しでも下がればうれしい消費者のために価格を下げたい小泉農水大臣と、生産コストが高い零細農家のために価格を下げすぎたくないJAによる綱引きが行われているそうです。
そもそも前提として、モノの値段は需要と供給の関係によって決まります。供給量が足りなければ(需要が大きければ)値段が上がり、逆に供給量が多くなれば値段が下がります。
それを踏まえて、宮城大学・大泉一貫名誉教授は見解はこうです。現在60万~70万tのコメが不足しているとされていることから、競争入札で放出された備蓄米30万t(小売り店への流通は5月11日時点で8.7%)を市場に出すことで不足分を補い、価格を落ち着かせる狙いがあるのではないかということです。
つまり、コメの価格を落ち着かせるにはコメ不足を解消する必要があり、そのためにはJAとの“綱引き”を力強く引かなければなりません。そこで小泉農水大臣が取った行動が以下の3つ、というのが大泉名誉教授の見解です。
(1)輸入米…「輸入する」と言うことにより、価格が下落することを懸念する業者などが増え市場に出回る量が増える、という狙い。口先介入という言われ方も。
(2)随意契約…実際に市場に出るコメを増やすことで価格を下げる狙い。
(3)ミニマムアクセス米…日本が海外から最低限輸入しなければならないコメで、関税なしで玄米約77万tを毎年購入。これまでは農家への打撃を避けるために10万tのみ主食用、残り67万tは加工・飼料用としていたが、主食用の枠を増やすことを示唆。
「緊急輸入」などを実際に行うのか、“綱引き”の一手として「言うことによる効果」を狙っているのか…真意はどこにあるのでしょうか。
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