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【コメ流通のブラックボックス】『5次問屋』出現?ブローカーの転売で価格高騰? 需給把握のため「1回全力で作ってみて、どれくらい余るか見た方がいい」と専門家【解説】

解説

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 6月5日に開かれたコメ政策に関する関係閣僚会議の初会合。小泉進次郎農林水産大臣は会合後、「コメの流通は非常に複雑でよく見えない部分もある」「今までの流通のすべてを総ざらいして、あり方をみていくという方向性が不可欠ではないか」と述べました。コメの価格高騰の要因の1つとして“流通の不透明さ”をあげた小泉大臣。そもそも、コメはどのような過程を経て消費者まで届いているのか、問題はどこにあるのか…。意外と知られていないコメ流通の現状を、流通経済研究所・折笠俊輔主席研究員の見解も交えてお伝えします。

【流通が“不透明”な理由1】JAの集荷率減→「見えないコメ」が増加

 小泉大臣が「非常に複雑でよく見えない部分もある」と語ったコメの流通。一般的に言われているのは、「生産者→集荷業者(JAなど)→卸売業者→小売店」というルートで、この中で“不透明”と指摘されているのが、「集荷業者」の部分です。小泉大臣は5日、「(JA)全農に対する集荷が落ちて(中略)農水省でもなかなかデータがない。詳細がわからない状況」とコメントしました。

 なぜJAの集荷が減少すると流通が不透明になるのか。2024年産のデータを見ると、全生産量のうちJAが集荷する割合は26%。流通経済研究所の折笠俊輔主席研究員によりますと、「前年・前々年は4割程度」でしたが「年々減少傾向にある」ということです。

 その理由として折笠氏は、昔は家族経営・兼業などの小規模農家が多く、身近なJAにまとめて買ってもらう人が多かったものの、今は農業法人など大規模農家が増加し、JA以外にも“高く買ってもらえるところ”に売る人が増えたという点を挙げています。また、農家が飲食チェーンなどに営業し、直接販売するという動きも出ているようです。

 そして国は通常時、小規模の集荷・卸売業者が扱ったコメの量は調査しません。その結果、JAの集荷が減って集荷先が“細分化”している昨今では、コメがどれだけ売れているのか、どれだけ余っているのかを国が把握できない、いわば「見えないコメ」が増加しているということです。

【流通が“不透明”な理由2】コメは“市場での流通“が少ない

 また、折笠氏は、コメには「野菜のような『市場での流通』が少ない。(中央卸売市場などの)市場があれば流通価格がわかるが…」と指摘。日持ちせず日々市場で交換する必要のある野菜と違い、コメはためておくことができるため市場を通さず流通可能で、その結果、需給バランスを見るのが難しくなっていると言います。

「5次問屋」は存在する?問屋の参入障壁は高い?

 コメの流通をめぐっては、ドン・キホーテ運営会社が、その実態をいくつか指摘しています。その1つが、流通経路内における「問屋」の存在です。集荷業者(JAなど)から小売店へコメが流通する過程で問屋が入る場合があり、中には「5次問屋」まであるとされます。

 需給バランスが崩れたとき、利益目的だけの業者が横行するということですが、本当に「5次問屋」なるものは存在するのでしょうか?折笠氏によりますと、「通常は、大都市だと、だいたい1次問屋まで。地方だと配送の関係で2次問屋もあるが、5次問屋は一般的にはない」そうです。ただ、現状は「去年のコメは出回り時期から価格高騰。ブローカーなどが転売を繰り返した可能性」があるとみています。

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 また、ドン・キホーテ運営会社からは「業者の参入障壁」に関する指摘もありました。JAからコメを買う「1次問屋」の参入ハードルが高く、市場競争が生まれない構造になっているということです。これについて折笠氏は「支払い能力など一般的な参入障壁は当然ある。JAも一団体なので基準をもって選ぶことになる」と指摘。ただ、「今ではJA以外から買う卸売業者も多く、価格への影響は限定的では」と見ているようです。

需要・供給の把握が難しいワケ

 結局のところ、コメ高騰の原因は何なのか…。江藤拓前農水大臣が指摘した「流通の目詰まり」か、あるいは消費者による「パニック買い」、「ブローカーの転売」など理由は複数考えられますが、一番の大きな理由はコメが「もともと足りていない」ことだと折笠氏は指摘します。これを解決するには需要・供給を正確に把握しなければなりませんが、いくつか課題があるようです。

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 まず、供給量の把握の課題として折笠氏が指摘するのが、コメ粒の大きさです。作ったコメを流通させるか否かを決める際にそれぞれの農家が使う“ふるい”があるそうですが、これに比べて、収穫量を調査する際に国が使う“ふるい”の方が目が細かく、その結果、流通にのらないコメまで収穫量にカウントされているということです。また、コメに“高温障害”が起きた場合、精米時に米が割れて「精米歩留まり」が悪くなり、白米のかさが減ってしまうという問題もあるようです。

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 一方、需要量の把握も難しいといいます。コメの需要見通しを国は「1人・1年あたりの消費量×総人口」で計算していて、インバウンドの消費などは考慮されていません。こうした課題に折笠氏は「需給を把握するために1回全力で作ってみて、どれくらい余るか見た方がいい」と提言。余った分は輸出に回し、「循環在庫」的に使えるのではと述べています。

今年の新米は「5kg4000前後」か

 今後、コメ価格はどうなるのでしょう。折笠氏の見立てでは、今年の新米は「おそらく5kg4000前後」。価格が落ち着くのは来年の新米で、「3000円~3500程度で折り合うのでは?」と予測しています。

 コメの流通などに関心を持つ人が増えてうれしいという生産者の声もあるようです。生産者と消費者、双方にとって納得のいく適正価格が見出せるのか、今後も注目です。

2025年06月09日(月)現在の情報です

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