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万博会場の"ゲリラ豪雨の卵"いち早くキャッチ!真夏にはスパコン「富岳」がリアルタイム豪雨予測へ 『最新鋭の気象レーダー』を気象予報士が解説【MBSお天気通信】

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 5月16日に全国トップを切って九州南部が梅雨入り、続いて19日には奄美地方、22日は沖縄地方も梅雨入りしたとみられると発表されました。近畿地方のすぐ南に梅雨前線が停滞しやすくなっていることを意味していて、大阪・関西万博もまもなく雨の季節に入ります。 前回の大阪万博が開催された1970年代と比べると、いわゆる「ゲリラ豪雨」と呼ばれる非常に激しい雨の降る日数は大阪市内で1.6倍に増えています。そこで今回は、そんなゲリラ豪雨を引き起こす積乱雲を“卵の段階”でいち早く検知するための『最新鋭の気象レーダー』についてお伝えします。(気象予報士・吉村真希)

最新鋭!「マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダー」 観測時間が10分の1以下に

 気象レーダーとは、電波を発射し、その電波を雨粒に当て、はね返りを観測することで、雨の降っている場所や雨の強さなどを観測する装置です。気象庁が通常使用している「気象ドップラーレーダー」は、広範囲を監視することが特徴で、近畿では、大阪府八尾市の高安山に設置され、近畿地方全域をカバーしています。

 一方、総務省や国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が中心となって開発した最新鋭の「フェーズドアレイ気象レーダー」は、範囲は狭いながら観測にかかる時間を10分の1以下にすることができ、空全体を素早く観測することが可能です。また、雨雲を立体的に観測し3Dデータ化できることで、ゲリラ豪雨を“卵”の段階でとらえ、刻一刻と変化する積乱雲の動向を高速かつ高精度で把握することができます。

 そんな最新鋭の気象レーダーは、大阪・関西万博の会場の空を常に監視してくれています。設置場所は、大阪府吹田市の大阪大学・吹田キャンパスと兵庫県神戸市の情報通信研究機構・未来ICT研究所です。この取り組みは、“大阪・関西万博における「高精度な気象予測情報」提供の実証”として、民間企業と政府、大学などの教育・研究機関の連携により行われています。

気象レーダーの課題「降雨減衰」を解消! 

 また、最新鋭の気象レーダーは、「降雨減衰」と呼ばれる課題を解消することができます。降雨減衰とは、例えば、手前で強い雨が降っていると、その雨粒にレーダーが当たり、電波が弱まってしまいます。そのため、さらに向こう側にある別の雨を正しく観測できない現象です。1台の気象レーダーでは捉えきれなかったエリアを2台の気象レーダーで異なる方向から観測することで、より解消することが可能になりました。

 なお、2021年の東京五輪・パラリンピック時は埼玉大学に設置された最新鋭気象レーダー1台での観測でしたが、大阪・関西万博は2台での観測となっています。
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 この観測データは、雨雲の3D表示で誰でも見ることができます(※スマホの無料アプリ「3D雨雲ウォッチ」で閲覧可能)。

8月にはスパコン「富岳」による豪雨予測を予定

 さらに、今年8月の1か月間弱は、日本が誇るスーパーコンピューター「富岳」による、2台のレーダー観測値を用いたリアルタイム豪雨予測を行う予定で、これは世界初の試みです。30分先までの豪雨予測をアプリの通知で受け取ることができ、来場者は屋内への避難につながり、パビリオンなどの施設側には収容の人数を増やすよう要請をするなどの柔軟な対応が豪雨の前に可能になります。

 最新鋭の気象レーダーと日本のスーパーコンピューターがタッグを組んで、大阪・関西万博のゲリラ豪雨予測に挑み、今後の気象防災の道しるべになってくれると思います。

 数十年後?の“次の大阪万博”が開催される頃には、この最新鋭気象レーダーが全国に当たり前のように設置され、くまなくゲリラ豪雨から命を守る一助になってくれていることを願っています。大阪・関西万博を影から支える縁の下の力持ちについて、お伝えしました。


◆取材・文 吉村真希
毎日放送 気象予報士(南気象予報士事務所所属)
MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」「こんちわコンちゃんお昼ですょ!」「福島のぶひろの いんじゃない?」に出演中。
防災士・健康気象アドバイザー・野菜ソムリエ・行政書士有資格 
「気象災害から命を守る」気象講演なども担当

2025年05月31日(土)現在の情報です

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