2025年02月25日(火)公開
【石丸伸二氏】キャンセルされた業者が"ボランティア"でライブ配信...支払われた『キャンセル料』をどう見る?「給料が支払われたかどうか」などが捜査のポイントか 公選法違反疑惑【弁護士の見解】
解説
去年7月投開票の東京都知事選挙をめぐり、公職選挙法違反の疑いが指摘されている石丸伸二氏。投票日2日前に行ったライブ配信について、当初、業者に「有償」で依頼していた石丸陣営ですが、公職選挙法では選挙運動に対する報酬の支払いを禁止しているためキャンセルしました。 しかしその後、この業者側が「ボランティア」として配信を実施。当初の見積額と同額の97万7350円が「キャンセル料」として業者側に支払われていたのです。市民団体は2月10日、キャンセル料のうち45万円余りの実態は人件費で公職選挙法違反の「買収」の疑いがあるとして、石丸氏を刑事告発しました。 今回の件について、法律の専門家はどう見るか。刑事弁護に詳しい川崎拓也弁護士に聞きました。◎川崎拓也:弁護士 ダンス営業が風営法違反に問われた「クラブNOON」裁判など10件の事件で無罪判決 刑事事件のほか企業法務も手がける
「人件費・機材費」→「機材費」でも金額は同じ
今回、公職選挙法違反の疑惑が指摘されているのが、都知事選の投開票2日前(去年7月5日)に行われた決起集会のインターネット配信に関してです。その少し前(去年6月23日)、石丸陣営のスタッフはライブ配信担当業者に“有償”でのライブ配信を依頼していて、業者からは見積書が出されました。その内容は、「人件費」「機材費」で約98万円。これに対して石丸陣営スタッフは「法に触れるので人件費を外して」と依頼したということです。
業者からは改めて見積書が出され、「人件費」という項目が消えて「機材費」のみに。金額は変わらず約98万円。ただ、石丸陣営の幹部が「有償そのものが違反。捕まるからやめろ」と指摘があり、決起集会の前日にキャンセルされました。その後、見積額と同額のキャンセル料約98万円が支払われることに。
しかし、集会当日の去年7月5日、業者側が「ボランティア」でライブ配信を行いました。この行動について、「業務」にあたるのではないか、そして、キャンセル料はそれに対する「報酬」ではないかという疑惑が上がっているのです。
そもそも、選挙運動に対して「人件費」が支払われることは公職選挙法違反であると、川崎拓也弁護士は指摘。特定の候補者を当選させるための活動=選挙運動は「原則無償」で、車上アナウンス・手話通訳などへの支払い以外は認められていません。その上で、今回のケースについて「項目が機材費だけになって、そのぶん金額が減っているのならわかるが、額は同じ。そうなると、単に名目を変えただけで、実態は人件費ではないかと思うのは自然」と川崎弁護士は話します。
選挙コンサルタント「キャンセルした業者とその後関わらないのは当然」
見積書の約98万円について、石丸氏は2月21日の会見で「(陣営と業者の)関係性ゆえに大幅な割引をしてもらうところから始まっている。採算度外視になっている。お友達価格で示された」というふうにコメント。「最初に『総額いくらで』という値切り方をして、細部については詰めずにいたもの」だったとしています。
約98万円という見積額、この価格は適正なのでしょうか。選挙コンサルタントの鈴鹿久美子氏は「ネット配信にかかる機材費の支出は認められている」としたうえで、「費用は内容・規模で大きく変わる。『1000万円かかる』と言われても疑問を抱かない」と指摘します。
そもそもキャンセル料を支払うことは適正なのでしょうか。鈴鹿氏は「キャンセルの支払い自体は問題ない」と前置きしつつ、「キャンセルした業者とその後関わらないのは当然のこと。念押ししたり、紙に書いて約束したりする」という見解です。
川崎弁護士は「買収罪は難しい。約束しただけでも犯罪が成立してしまう。キャンセルしても、『人件費』として払う約束をしたのであれば、まずい。今回の場合、キャンセルしたのに無償で動いた。そのあたりの説明が十分なされるかどうか」と話します。
そして、捜査のポイントとして川崎弁護士は「まず、『人件費』として支払われたのかどうか、費目の移動の部分についてです。もう1つは、本当に『ボランティア』だったかどうか。実際はお金が動いていたのではないか、給料が支払われているのではないか、そのお金がなければ動くような関係ではなかったのではないかなど、このあたりも捜査しないといけない」と指摘します。
石丸氏「人件費という認識ではない」
一方、石丸氏は会見で「当時私は、請求書のみを見て承認。機材の『キャンセル料』という認識で、『人件費』という認識ではない。ただ、司法当局がどうとらえるかは分からない」とコメントしています。
選挙とSNSの関係について、川崎弁護士は自身の見解として「公職選挙法の規定は、現状に合っていない。演説をして皆さんと握手して…そういった昔の選挙運動から大きく様変わりしている。有権者もSNSから情報を得ているので、そこに対して適切な法規制を設けて、『一切お金を出してはならない』とするのが本当にいいのか悪いのか、正しい情報をみんなに伝えるために『ここまではOKですよ』ということも改めて議論する必要があるのではないか」と言います。
石丸氏は今後、どのような責任を問われる可能性があるのでしょうか?川崎弁護士は「(人件費の)認識があったかなかったかでだいぶ変わってくると思う。石丸氏自身が公職選挙法違反をしたと言えるのか、あるいは違反した人と共謀したと言えるのか…。石丸氏自身が刑事責任を追及される可能性もあります。ただ、石丸氏が事態を把握していなかった場合は、違反した人のポジションによって“連座制”の適用という問題も出てきます。認識の部分、実際に何があったのか、それによって責任の取り方は変わってくると思う」と指摘します。
今後、司法当局がどういった判断を下すのか注目です。
2025年02月25日(火)現在の情報です