2025年08月04日(月)公開
【カムチャツカ半島沖地震】より高く何度も押し寄せる「遠地津波」30cmの津波でも人間にとっては脅威に...専門家は南海トラフ地震などもふまえ「油断大敵」と注意喚起
解説
7月30日、カムチャツカ半島近くで発生した巨大地震。関西でも和歌山県の串本町や白浜町、それに大阪市の天保山などで津波が観測され、各地の交通機関や観光施設に影響が出ました。 今回の地震・津波はどのようなメカニズムで起きたのか?南海トラフ地震への影響はあるのか?また、いざという時にどう行動すべきか?京都大学防災研究所・西村卓也教授と関西大学・高橋智幸教授に話を聞きました。
カムチャツカ半島で起きた地震 3000km離れた日本にも影響及ぼす
地震はさまざまなタイプに分けられていて、7月30日発生したロシアのカムチャツカ半島で起きた地震は『海溝型地震』と呼ばれます。カムチャツカ半島の陸側のプレートの下に太平洋プレートが沈み込んでいて、陸側のプレートが巻き込まれる形で、ひずんでいて、そのひずみが弾けたことで地震が起きました。弾けたことで海面が盛り上がってしまい津波が発生したという状況です。今回の地震は東日本大震災と同じタイプの地震です。
日本に及んだ影響を見ていきます。震度を見てみると、北海道は道東で最大震度2を観測しましたが、それより影響が大きかったのが「津波」です。
午前8時25分頃にカムチャツカ半島付近で発生したマグニチュード8.8の巨大地震。マグニチュードは地震の規模を示すもので、東日本大震災はマグニチュード9.0だったため、それよりは小さいですが巨大地震に分類される大きな地震でした。
最初に日本列島には津波注意報が発表されましたが、午前9時40分には1段階レベルが上がった「津波警報」に変わりました。
警報というのは『直ちに避難してください』『遠いところよりも高いところに今すぐ逃げてください』というレベルで、その警報は9時間ほど継続しました。
その後、午後6時30分に茨城~和歌山に発表されていた警報は注意報に切り替わり、地震発生から1日経過した31日午前10時45分に近畿地方などで解除されました。
注意報から警報へ変わったのは「マグニチュードが変わったため」
注意報から警報に変わった理由について京都大学防災研究所・西村卓也教授は、地震の規模を示すマグニチュードが変わったためだと解説しています。発生当初はマグニチュード8.0でしたが、それが8.8に変わりました。規模でいうと15.85倍の大きさといえます。
巨大地震はマグニチュードの把握が難しく、巨大地震は過小評価されてしまうということがありますが、その後詳細な情報が集まりマグニチュードが変わったということです。
なぜ津波注意報は長時間にわたり発表されていたのか?気象庁によりますと、1952年に同じ場所で発生した地震では9時間後に最も高い津波が日本に到達したということです。さらに西村教授は、日本から離れた場所で発生した「遠地津波」の到達のしかたはとても複雑なためだと説明します。
津波のメカニズムを端的に説明すると水面に石を投げ込むと波紋が広がりるように「津波」がやってくるということです。仮に日本列島の近くで津波が発生した場合は、第1波が大きくなることが比較的多いということですが、離れた場所で起きた地震の津波では、第1波・第2波ということが続いて発生するということです。
また、津波は直接波紋として来るわけではなく、周囲の海底の中にある山や海岸にぶつかって、反射して日本列島にやってきます。いくつものこの波紋が重なり合って、津波が大きくなったり、何回もやってくる状態になるのが今回の津波の特徴だというふうに説明しています。
津波は第1波の到着時間が過ぎたから落ち着くというわけではなく、さまざまところからの津波が重なり合うことで、さらに大きくなる可能性があるため、警報が出ている間は避難し続けなければならないというのが気をつけるポイントです。
岩手・久慈港には「1.3m」の津波が到達
もう1つ、津波には速さが場所によって異なるという特徴があります。
水深が深ければ深いほど、津波の速さは速くなります。例えば水深が5000mの場合、ジェット機ほどの時速800kmのスピードで押し寄せてきます。陸に近くなるほど水深が浅くなるため、だんだんスピードは落ちていき、自動車程度の時速36kmぐらいになるということですが、後ろの方が早いので、だんだんと押し寄せて津波に覆いかぶさっていくようになり、津波は高くなっていきます。
今回の地震で日本に到着した津波の高さ
・北海道根室市・花咲 0.8m
30日午後2時57分
・岩手・久慈港 1.3m
30日午後1時52分
・宮城・仙台港 0.9m
30日午後11時20分
・大阪市・天保山 0.3m
30日午後6時1分
・和歌山・串本町袋港 0.5m
30日午後8時54分
西村教授によりますと、今回の地震で日本来た津波は30波はあるのではないということです。ちなみに1952年に起きた津波でも、今回と同様に岩手に最も高い津波が到達しています。
30cmの津波でも脅威に
近畿地方では大阪市の天保山で30cm、和歌山県串本町で50cmということで1mを超える高さの津波は来ていませんが、この高さでも非常に危険です。
身長182cm、体重82kgの男性記者が実際に津波体験の実験した場合
■20~30cmの津波
10秒だけなら何とか持ちちこたえる
※152cmの女性スタッフでは数秒で流されてしまう
■30~50cmの津波
全く踏ん張ることもできずに流される
津波到達時刻の予測にスーパーコンピュータを活用
津波の到達時刻はあらかじめスーパーコンピュータで「場所」と「地震規模」を組み合わせ10万通りのシミュレーションをしていて、その中から一番近いものを予測として適用しています。
実際の津波観測は日本列島の太平洋側にケーブル上に多数の機器が配備していて、地震がどの程度起きたのかやどの程度の水圧がかかっているのかを計算して、沖合で何mの津波が実際に来ているのかを測定するシステムが東日本大震災をきっかけに整備、運用されているということです。
九州・四国については南海トラフ地震のために準備を進めている途中で、この秋以降、正式運用されるということです。
南海トラフへの影響は?
今回起きた地震、気になるのは南海トラフ地震との関係ですが、西村教授は発生場所が3000km離れているため影響を与えることは考えにくいというふうに見ています。
今後の注意点としては、発生源を「×」で表現することがありますが、その一部分ではなく500kmの断層のずれで地震が起きているため、その500kmの範囲にストレス(負荷)がかかっているため、同じような地震が再び起こる可能性もあるということです。
カムチャツカ半島沖地震は前回1952年に起きていて、今回起きたのが2025年。この73年というスパンというのは非常に短いということです。実際のデータだと400年~500年に1回地震が発生すると専門家の間で考えられていたものが、73年という短いスパンで発生したことに西村教授も驚き、予想外だというふうに話しています。
地震は過去の事例を踏まえて予測していて、今回の事例が今後の南海トラフ地震などの予測に考慮される可能性があるということです。今の発表されている予測データももしかしたら変わってくる可能性があるという一つ大きな事例になったということです。
油断禁物 日頃から地震・津波に備えるべき
最後に今回起きた津波に対する注意の呼びかけを専門家の2人に評価してもらいました。西村教授と関西大学・高橋智幸学長の両者とも今回の避難行動は『おおむね良かった』という判断だったということです。
西村教授は「防潮提・防波堤が機能する高さの津波予想だったことと、夏休みの海水浴シーズンの客に呼びかけがちゃんとが届いたことが大きな被害に繋がらなかった」と評価しています。
高橋教授は「報道を見る限り多くの人が情報を入手し避難でき、外国人にも情報が届いていた」と評価しています。
一方で、課題として高橋教授に聞くと「マイカー避難」があげられるということです。避難は原則徒歩と呼びかけされていますが、避難者の住まいや状況によって異なるため、車で避難するなら早めの避難の判断が必要。津波注意報が出たらすぐに移動することが渋滞緩和にも繋がるということです。
また、高橋教授は今後、南海トラフに向けて、普段から災害時の行動のシミュレーションをしていくことが大事だと話します。
加えて、今回津波警報や津波注意報が大したことなかったと思う人もいるかもしれませんが、2011年の東日本大震災の1年前にチリ地震で同じような遠地津波が発生。このときは日本に被害はありませんでしたが、ここで油断した後に東日本大震災が発生したため、今回もほっとするのではなくてさらに対策を深めていかなければいけません。
油断禁物、常に地震・津波対策を意識すること必要です。
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