MBS(毎日放送)

「4~5年は泣いて過ごした」視力を失い絶望した女性を救った『ブラインドメイク』自力でメイクすることが自信に..現在は飲食店でアルバイトも「仕事してる自分が好きだったのでうれしい」

編集部セレクト

SHARE
X
Facebook
LINE

 看護師として働くなかで突然視力を失った、大阪に住む中島千恵さん(47)。仕事もできず、絶望の中で転機となったのは「ブラインドメイク」との出会いでした。2010年に日本で考案されたというブラインドメイクとは?中島さんの人生はどう変わったのか?密着しました。

視力を失い「4~5年は落ち込んで泣いて過ごした」

 大阪・梅田で行われたイベント。「障がいなどのハンディキャップがあってもおしゃれを楽しむ」というコンセプトで企業や団体などが出展しました。
20250701_blind_yt-000037234.jpg
 その中に「ブラインドメイク」の体験コーナーがあります。ブラインドメイクは手先の感覚などを頼りに鏡を使わずに化粧をする技法で、視覚障がいがある人でもフルメイクができます。日本ケアメイク協会が認定する「化粧訓練士」という講師が教えます。

 そんなブラインドメイクを広げるため活動しているのが中島千恵さん(47)。中島さんも視覚障がい者です。

 (中島千恵さん)「『(目が)見えてないと何もできないんじゃないか』と思う人がいっぱいいると思う。工夫次第で(おしゃれを)楽しむことができると広げていけたらうれしい」

 中島さんが視力を失ったのは10年前、看護師として働いていたときでした。目がかすむと思い病院に行くと「網膜に異常がある」と診断され、約1年後にまったく見えなくなりました。ただ、正確な原因はわかっていません。

 (中島千恵さん)「(失明後)4~5年くらいは落ち込んで泣いて過ごすことが多かった」

自力でメイクができるようになり心境に変化

 そんな中島さんに変化をもたらしたのが「ブラインドメイク」でした。

 (中島千恵さん)「見えてたときと同じように、自分の力だけでメイクができるのはすごくうれしかった。(自分で)メイクできるようになったら『きょうはどんな服着たいかな』みたいな。見えてたときと同じようにおしゃれを楽しむ気持ちが持てた。外に出たいなという気持ちに自然とさせてもらえた」

 中島さんにブラインドメイクの様子を見せてもらいました。特徴は両手を同時に同じ強さで動かすこと。片手ですると、濃さにムラが出てしまいやすいからです。下地とファンデーションを終えたら次はマスカラ。外にはみ出して肌につかないよう、目の周りに医療用のテープを貼ってから塗っていきます。
20250701_blind_yt-000313067.jpg
 (マスカラを塗る中島千恵さん)「持つのに工夫があって、左の人さし指で押さえる。そしたら(マスカラの)端が鼻につくのを防げる。このまままつ毛を感じながら塗っていく」
20250701_blind_yt-000348468.jpg
 マスカラを乾かしているあいだに口紅を仕上げます。使うのは、口紅やアイシャドーが一緒になった、目が不自由な人でも使いやすいパレットです。

 (中島千恵さん)「薬指で(塗る位置を)確認して小指で」

 そしてアイシャドー。色や塗る広さで指を使い分けながら塗っていきます。最後はチークです。笑うことで頬骨が出るので、そこを始点に仕上げます。

 メイクは40分ほどで完成しました。

 (中島千恵さん)「指先に化粧している感じが伝わったり、『きょうメイクすごくきれいにできてる』って言われたらうれしくて」

「できる仕事があるのはすごくうれしい」3年前から続けるアルバイト

 ブラインドメイクが大きな転機となり、中島さんは気持ちだけでなく行動にも変化があらわれました。

 3年前から週に1回、スペイン料理店でアルバイトをしています。イベントで知り合ったマスターの吉村さんが、働いてみないかと声をかけたそうです。

 (La Oliva 吉村健治さん)「笑顔がすごくすてき。笑顔で迎えられると、お客さんにもほっとしていただけるのかな。カウンターでコミュニケーション取ってもらっている。大事なスタッフの1人」
20250701_blind_yt-000551234.jpg
 店のなじみのお客さんには、注文を取りに行ったりドリンクや料理を運んだりすることも。お店のメニューには全て番号がふられています。目が見えない中島さんでも数字であればメモが取りやすいからです。仕事ができることで、再び社会とつながるよろこびを感じています。

 (中島千恵さん)「メイクして外に出られる自信がついて、1人で行けるところが増えていったから、出会いもあるのかなと感じて。仕事してる自分が好きだったので、できる仕事があるのはすごくうれしいです」

 ブラインドメイクで明るさを取り戻した中島さん。この思いをどうしても伝えたい人たちがいました。

医学生に伝える「患者が自信を持てるようアシストしてほしい」

 中島さんは週に一回、兵庫医科大学に通っています。その目的は、眼科の実習に来ている医学生に講師として話をするためです。医療従事者として患者の理解を深めてほしいという思いから、実際に視覚障がい者になって感じた不安などを語っています。

 (中島千恵さん)「特に見えていたときの私の姿を知っている人には、失明した情けない、みじめな自分の姿を見られたくないという気持ちを強く持っていた」

 障がいによってつらい思いを抱える患者が自分でできることを増やすことで、自信を持てるよう医療従事者としてアシストしてほしいと話します。

 (中島千恵さん)「ブラインドメイクとの出会いは大きかった。見えなくなっても見えていた時と同じように自分自身の力でメイクできるのがすごくうれしかった。自信にもなった」

 話を聞いた学生は…

 (兵庫医科大学・医学部 岸田紗矢香さん)「できないことを医療者側やできる人がサポ-トするだけではなく、どんなことができなくて気分が落ち込んでるかしっかり聞いて、いっしょに考えていく姿勢が大事だと思いました」

 (兵庫医科大学・医学部 千葉瑳和子さん)「患者にたくさんの選択肢を与えられるような医師になれればと思いました」

 目が見えない人にとって一筋の光となっているブラインドメイク。このメイクが紡いだ出会いが中島さんの心を明るく照らし続けています。

2025年07月03日(木)現在の情報です

今、あなたにオススメ

最近の記事

万博会場に登場の「接客アバター」ウクライナ人ITエンジニアが開発 ロシアの侵攻から3年半 日本での避難生活で感じた"不自由さ"がきっかけ 戦火続く母国への思い「もう誰も苦しめられてほしくない」

2025/08/16

原爆のおそろしさと戦争の現実を"紙芝居"で伝える「どんな意見を持つ人にもこの話は事実」世界の人々に知ってもらうため活動 減りゆく戦争体験者...それでも「戦争体験を話していくのは誰もがしてよい。それこそが平和だと思う」【戦後80年】

2025/08/15

【カツめし】びわ湖大花火大会&湖岸の絶景ホテル! 「びわ湖大津プリンスホテル」

2025/08/14

【カツめし】大行列!秘境『亀仙人』の鮎焼き「炉端焼き 亀清」奈良・天川村

2025/08/14

「"武は負けたけど、文で勝て" みんなの声が聞こえる」巨星堕つ... 千玄室さんが102歳で死去 元特攻隊員 茶道を究め平和を希求した人生【生前の単独インタビュー】

2025/08/14

人工芝で雑魚寝..."オールナイト万博"として楽しむ人も お盆の万博で約3万人が足止め 夜通し対応したオランダ館スタッフ「最善の策は何か考えて行動した。実際とても良い夜だったと思う」

2025/08/14

「南九州への米軍上陸を叩く」関西の飛行場から特攻機の計画か?観光名所の下に眠る『巨大地下壕』 終戦間際の突貫工事は何のため?【戦後80年 戦争遺跡】

2025/08/13

ひたすら試してランキング「夏のフルーツアイス」を徹底調査! "どれだけフルーツ感が再現されているか"がポイント!「氷の魔術師」とプロ称賛の圧倒的コスパ1位の商品とは?【MBSサタデープラス(サタプラ)】

2025/08/13

SHARE
X(旧Twitter)
Facebook