2025年08月16日(土)公開
万博会場に登場の「接客アバター」ウクライナ人ITエンジニアが開発 ロシアの侵攻から3年半 日本での避難生活で感じた"不自由さ"がきっかけ 戦火続く母国への思い「もう誰も苦しめられてほしくない」
編集部セレクト
ロシアによるウクライナへの侵攻が始まって約3年半。日本への避難民らの中からは、日本の暮らしでの “気づき” から、新たな取り組みに挑戦する人たちも現れています。
多言語で質問に答えてくれる「アバター」
8月上旬、大阪・関西万博のコモンズC館に入るウクライナ・パビリオンの一角に、ウクライナ人女性のアバターが映し出されたタブレットが設置されていました。
「送電網への攻撃、物流ルートの寸断、燃料価格の高騰といった逆風にもかかわらず、多くの企業が迅速に適応し、新たな戦略を打ち出して事業を続けています」
「戦時下でのウクライナの経済」という質問に対する、アバターの回答です。アバターは、訪れた人たちが選択した質問に表情豊かに回答していきます。日本語・ウクライナ語・英語など、多言語に対応しています。
実はウクライナは、“東欧のシリコンバレー”とも称されるIT先進国。この「接客アバター」を開発したのは、ウクライナ人のITエンジニア、イワンツオフ・アルテムさん(39)です。
「常に恐怖と隣り合わせの生活」戦火を逃れ日本へ 感じた “不自由さ”
アルテムさんはウクライナ東部・ドネツク州出身。2014年以降、ドネツク州では親ロシア派勢力とウクライナ政府との激しい対立が続いたことを受け、南部・ザポリージャ州に移り住みました。
しかし、2022年にロシアがウクライナに侵攻。ザポリージャ州で “ロシア支配” を経験しました。
イワンツオフ・アルテムさん(39)
「ロシア兵が街にいるのは日常生活でした。ガスだけでなく、インターネットも使用できないように通信が遮断されました。常に恐怖と隣り合わせの生活で、ウクライナから離れようと決意しました」
日本企業の支援を受け、2022年12月に来日。日本での避難生活で感じた “不自由さ” が、この「接客アバター」を開発したきっかけだったといいます。
イワンツオフ・アルテムさん(39)
「交通機関や行政機関、大型家電製品店などの店舗で、スタッフの姿が見当たらないことが多いように感じました。見つけて質問しても、英語が通じない場面も多く、欲しい情報が得られない生活が続きました」
スマートフォンの翻訳アプリなどを使ってコミュニケーションを取ることはなんとかできましたが、大学で心理学を専攻し “コミュニケーションのカギは表情” と実感していたアルテムさんは、アプリではなくアバターを開発しようと決めたといいます。
母国への思い「もう誰も苦しめられてほしくない」
実用化に向けての課題はまだ山積みですが、避難生活で知り合った滋賀県の菊地崇さんの協力を得て、万博会場での設置にこぎつけました。実は菊地さんの妻の母親と祖母も、ウクライナ避難民です。
ウクライナにロシアが侵攻してから、まもなく3年半。日本での生活は充実していますが、アルテムさんは、戦火が続く母国に思いを馳せます。
イワンツオフ・アルテムさん(39)
「早く戦争が終わって、二度と爆弾が落ちてこないような、安全で平和な強い国になってほしい。もう誰も苦しめられてほしくない」
(MBS報道センター 森亮介)
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