2025年12月17日(水)公開
発達障がいある受刑者には「ぬいぐるみ部屋」 "懲らしめ"から更生へ...刑法改正で刑務所に変化? 背景に『再犯率の高止まり』個々の特性に合わせて支援細やかに
編集部セレクト
今年6月に施行された改正刑法で、従来の「懲役刑」「禁錮刑」が廃止され、新たに「拘禁刑」が新設。これにより、刑務所は「刑罰を与える場所」から「受刑者の立ち直り」を目指す場所へと変わりつつあります。 高齢受刑者への“脳トレ”指導や、発達障がいのある受刑者に配慮した“ぬいぐるみ部屋”など、新たな取り組みもスタート。受刑者更生支援のあり方の変化は、刑務官ら職員の意識も変えつつあると言います。 刑法改正により“塀の向こう側”では何が起こっているのか?堺市にある大阪刑務所を密着取材しました。
「計算ドリル」「間違い探し」作業療法士が“脳トレ”指導

堺市にある大阪刑務所では、出所後5年以内に再び罪を犯した受刑者や暴力団関係者の受刑者など、犯罪傾向が進んでいる約1200人が収容されています。
刑務所の1日が始まるのは午前6時40分。受刑者は許された時間以外の私語は禁じられていて、規律が保たれているか、逃亡の恐れがないか、刑務官が常に目を光らせています。
しかし、そんな厳しい刑務所生活が、受刑者の更生支援を重視する「拘禁刑」の新設で変わりつつあります。
午前7時半、受刑者は企業から請け負った日用品の組み立て作業を始めました。従来から行われている刑務作業です。
そんな中、女性職員が数人の受刑者に声を掛け、部屋の一角に集めました。高齢の受刑者です。
(作業療法士の職員)「みなさんおはようございます。きょうも始めていきます。慌てずに進めていきましょう」
始まったのは、2桁までの足し算や引き算などの計算ドリルや、間違い探し。高齢受刑者向けの「脳トレ」です。作業療法士の資格を持つ職員の指導のもと、認知機能や運動機能の向上を目指す訓練に真剣に取り組んでいます。拘禁刑とともに始まった新たな支援の1つです。
(大阪刑務所矯正処遇部 谷川博昭次席)「最初は受け身。『なぜやらされているのか』という人もいたが、やっていくうちに『できなかったことができた』と。そういう変化があると感じています」
今回、万引きで服役している80代の男性受刑者は…
(80代の男性受刑者)「(Q刑務所は何回目ですか?)2回目。(Q運動する時間や書き物する時間はどうですか?)ええと思います。先生が教えてくれたので、やっと仕事ができるようになりました」
「仲間作りたい」薬物依存症の受刑者が“脱却”目指しミーティング

一方、薬物依存症の受刑者たちに対しては、定期的に依存症からの立ち直りを目指す当事者団体が訪れ、お互いの経験談を話すミーティングを行い、依存症からの脱却を促します。
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(依存症回復支援施設「大阪マック」当事者スタッフ)「薬物を使わない仲間と生活することで、自分の内面とか弱さとかも仲間の中で初めて話せるようになったし、ありのままの自分を受け入れられるようになってきた」
(薬物依存症の受刑者)「やめる仲間を作りたいんですけど、そっちのほうがいいですよね?僕も3回繰り返したので。友達が売人なので」
(依存症回復支援施設「大阪マック」当事者スタッフ)「絶対(関係を)切ったほうがいいと思います。楽しいですよ、私たち。よくソフトボールしたりとか、みんなやめている人ですから。一生懸命やめている人ですから」
拘禁刑のもとでは、受刑者たちは「高齢福祉」「若年」「依存症回復」など24のカテゴリに分類され、刑務所は個々の特性に応じた処遇を行うことができるようになりました。
背景にあるのは、再犯率の高止まり。2023年の刑法犯のうち47%が再犯者で、受刑者の「立ち直り」のため細やかな支援が必要と考えられているのです。
「観葉植物」「ぬいぐるみ」発達障がいのある受刑者にも配慮

発達障がいがある受刑者専用のフロアでは、受刑者の気持ちを落ち着かせるため、廊下に観葉植物が置かれ、壁に小鳥が描かれたり、ぬいぐるみ部屋が用意されたりするなどさまざまな配慮がなされています。
(西日本成人矯正医療センター 村崎有総務部長)「心理面においてリラックス効果をはかるために植物を置いています。発達に特性を有する人は、光・音・声に過敏に反応する。一人一人の特性に応じた処遇や支援が重要です」
このフロアで生活する30代の男性受刑者。服役は2度目で、今回は傷害と窃盗未遂の罪だといいます。
(30代の男性受刑者)「自分が関心を持ったことについては、すごく集中できますが、関心が持てないことは集中力が無くなってしまう。あとは衝動的な行動を起こしやすい」
刑務所入所後に心理テストなどを受けて、初めて自分に発達障がいがあると気付きました。
(30代の男性受刑者)「今まで生活している中で、少し人と違う部分があったので、外にいたときの疑問が解決できたなって思います」
法務省の調査では、受刑者の約12%に発達障がいやその疑いがあるとされています。そこで大阪刑務所では、西日本成人矯正医療センターの協力のもと、発達障がいがある受刑者だけの支援プログラムを開始。教育・医療・福祉など多くの専門家が加わって、コミュニケーション力や出所後の働く力の向上に取り組んでいます。
面接室では、発達障がいのある20代の男性受刑者が教育専門の職員と向き合っていました。
(教育専門官)「怒りが何も出ないというのは、何か危ないことをするときに、『別にいいんじゃない』と犯罪に走ってしまうとか、そういう危険があるかな」
男性受刑者はこれまで「怒りの感情を感じたことがなかった」と言いますが、職員との面接を通して自分の気持ちの理解が進んできたといいます。
(20代の男性受刑者)「(怒りを感じるのは)めちゃめちゃストレスやと思いますけど、自分の身を守るとか必要なものだと分かってきてはいるので、対処法さえが分かれば知っていた方がいいのかなと」
「自分らも学習していかないと」職員の意識にも変化

拘禁刑の導入で変わる受刑者の支援。それは職員の意識にも変化をもたらしています。11月20日、刑務所内の会議室に刑務官らが集まりました。始まったのは「5年後の大阪刑務所」をテーマにしたグループディスカッションです。
<ディスカッションで出された意見>
「各個人に合わせた細分化処遇」
「事故ゼロの施設」
「拘禁刑も始まったので柔軟な考えをもって」
「新拝命で辞める人が多いので、その人を大事にしていけたらいいなと」
「拘禁刑に変わって少し緩まった部分もあるので、規律と秩序が確保された環境ですかね」
拘禁刑の導入をきっかけに、刑務所をどう変えていくべきか。皆が自由に意見を出し合います。これまでは上司に意見を言うことが憚られる風土だったと言いますが、刑務官たち自らが変わろうとしています。
(40代の刑務官)「周りの職員と集まって話し合うことはなかなかないので、斬新な取り組みだと思いました。今後に向けて処遇をどうしていくか、手探りながらみんな考えているんだなと」
(60代の刑務官)「上から言われたことをやっとけという時代から、今はこういうふうに形が変わってきた。専門職の意見を聞きながら自分らも学習していかないといけない。そうじゃないと受刑者に指導できないと思います」
規律・秩序の徹底から受刑者本位の更生へ。塀の向こう側で手探りの毎日が続いています。
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