2025年12月14日(日)公開
「心の中に獣を飼ってしまう」26年前に交際相手へのストーカー行為...いまだ断ち切れぬ思い 更生支援するのは逮捕歴ある"元加害者" 回復するために大切なことは?
編集部セレクト
拉致してでも自分のものに――― かつて職場の同僚にストーカー行為を行い、逮捕された経験を持つ守屋秀勝さん(60)。元加害者だからこそ出来ることがあると考え、元ストーカーの更生支援を行う団体の代表を務めています。 SNS上での監視、バイト先での待ち伏せ、嫌がらせの手紙…日々寄せられる元加害者からの相談。時に厳しく、時に寄り添い、地道な支援を続けています。 ストーカー加害者が更生する上で、何が大切なのか?当事者たちの苦悩、支援者の声を取材しました。
「被害者は精神崩壊するんやで」元ストーカー加害者が更生支援

守屋秀勝さん(60)。かつてストーカーだった人たちの更生支援を行う団体「ストーカー・リカバリー・サポート」の代表を務めています。実は、守屋さんもかつてストーカーの加害者でした。
ストーカー行為を繰り返さないために、週に1度、参加者たちが自分の考えを共有する集いを行っています。
(守屋代表)「被害者っていうのは、本当に寝られないんやで。精神崩壊するんやで」
(元ストーカーの助成)「加害者もですよ」
(守屋代表)「俺も元加害者。話聞き」
小学校時代に片思いしていた女性を「SNS上で監視、バイト先で待ち伏せ」

元加害者だからこそ出来ることがあると考え、活動を始めた守屋さん。この日は精神科に通う20代の男性・Aさんに付き添いました。
守屋さんは、府内の病院と連携し、加害者を治療につなげる活動もしています。Aさんは、小学校時代に片思いをしていた女性のSNSのアカウントを見つけたことで、ストーカー行為を始めました。
(20代男性 Aさん)「3年ほど前からSNS上での監視であったり、その女性が働くバイト先に待ち伏せをしに行ったり。女性が好きだからというので一目見たい」
Aさんは女性の情報を1つでも多く知りたいと、SNSで女性や女性の知人のアカウントを何度も閲覧。相手にアカウントをブロックされても別のアカウントを作り、閲覧をやめられなかったといいます。
(20代男性 Aさん)「学生時代に少し優しくしてもらったエピソードをいまだに覚えていて。また優しくしてくれるんじゃないかなとか」
その後、女性から「一切関わらないでほしい」と告げられたAさん。自身がストーカー行為をしているのではないかと危機感を覚え、自ら守屋さんに連絡し、更生に向けて取り組んでいます。
(守屋代表)「彼自身、ちゃんと『自分がストーカーだ』というような認識を持っている。ストーカーから回復する上で一番重要なのは、自分がストーカーであると認識すること」
「拉致してでも自分のものに…」ストーカー行為で逮捕された過去

守屋さんはかつて、職場の同僚にストーカー行為を行い逮捕されました。
(守屋代表)「ガンガン電話して、うちの周りぐるぐる回って。もう自分を拒否するんだったら、拉致してでも自分のものにしたいと。もうすごく怖い精神状態」
守屋さんは6人の女性に対しストーカー行為を繰り返したといいます。その後、家族の支援や専門書を読んで学ぶなどし、加害行為を断ち切ることができました。ストーカー行為から抜け出すためには、周りの力を借りながら、自分と向き合うことが大事だと話します。
(守屋代表)「更生支援を受けて、『自分はきょう1日ストーカー行為をやらない』と毎朝誓い、そしてやらなかった自分を夜には褒めてやり、また翌日になったら、『きょう1日ストーカー行為をやらないぞ』と。その繰り返しですよ」
「自分のときは相談先がなかった」毎朝一人一人に連絡

普段はタクシー運転手として働く守屋さん。休憩の時間を使って更生支援を行い、24時間当事者たちの声に耳を傾けています。さらに、同意した人は、GPSアプリで守屋さんに位置情報を共有。被害者の自宅に近づくなど不審な動きをした場合、警察に情報提供できる体制を整えています。
このほかにも毎朝一人一人に連絡をとっています。
<元ストーカーの男性との電話>
(守屋代表)「おはよう」
(元ストーカーの男性)「おはようございます」
(守屋代表)「今日起きているじゃん、ちゃんと。今日バイトじゃないな?」
(元ストーカーの男性)「違います」
(守屋代表)「いい顔してんじゃん。どうや?相手に対する気持ちはないんやな?」
(元ストーカーの男性)「はい。全然ないです」
(守屋代表)「自分のときは、『こういうふうにして欲しかった』『ああいうふうにして欲しかった』というのを思い描きながら今やっているんで。特に夜中に電話しておいでっていうのは、電話相談できるところは全然なかったです。本当にただ話を聞いて欲しいだけなのに、それを聞いてくれるところはなかった」
「今日も殺意バリバリです」支援している女性からのメッセージ

更生支援をする中で、特に気になるメッセージを送ってくる女性がいました。40代のBさんです。
<40代のBさんからのメッセージ>
「怒りと憎しみで眠れません」
「今日も殺意バリバリです」
(守屋代表)「(こういうメッセージを)送ってこられると、やっぱり発作的にいつかやるんじゃないのかなって思っちゃう」
(40代女性 Bさん)「そうですよね。(ストーカー行為は)もうしません。絶対に」
(守屋代表)「でも、そこもごめんやで。今のあなたには信頼性がない」
(40代女性 Bさん)「いや、本当に信頼してください」
(守屋代表)「そこは無理。ごめんな」
Bさんは26年前、当時2週間付き合っていた男性に対しストーカー行為を行いました。
(40代女性 Bさん)「『孤独、孤独、ああ会いに行きたい』とか、孤独だと獣を飼うようになってしまうんですよね、心の中に。思い出すのも嫌なんですけど、ドアに張り紙とか、嫌がらせの手紙とかをその方の家に(入れた)。幼稚で姑息なやり方でした」
―――どれくらいの頻度でその人のことを思い出す?
(40代女性 Bさん)「ここ最近は毎日のようには」
―――思い出してどういう感情になる?
(40代女性 Bさん)「怒りとか憎しみも出てくるんですけど、どうしようもないので、26年も経ってるので」
Bさんは男性の連絡先などは知らず、直接接触はしていませんが、未だに思いを断ち切れず苦しんでいると話します。
時に守屋さんに過激なメッセージを送ってしまうBさん。その理由は…
(40代女性 Bさん)「守屋さんのことを父親のように慕ってるわけですよね。甘えているわけです。こういうラインを送って」
―――送るとどんな気持ちになる?
(40代女性 Bさん)「気分が晴れて救われます」
「よくわかる。でも変わっていけるよ」加害者同士の交流が更生早めると医師は指摘

ストーカーの加害者に対し、警察はカウンセリングなどを受けるよう呼びかけていますが、受診率はわずか5・6%にとどまっています。守屋さんと連携する中元医師は、罰するだけでは根本的な解決にはならないと指摘します。
(結のぞみ病院 中元総一郎副院長)「治療しないと、例えば警告されたり服役したりしても、結局出てきたら同じことをやってしまうんで、刑罰とか処分だけでは同じことの繰り返しになってしまう」
治療に加え、加害者同士が思いを共有することが更生を早めると指摘します。
(結のぞみ病院 中元総一郎副院長)「それぞれの体験談を話すことで刺激になるんですね。みなさん同じような体験をされていますので。『よくわかる。でも変わっていけるよ』と。そういう非常に優しい、しかし力強い、回復に向けた力強いメッセージになるというわけですね」
「まだ好きと思い込んでいるのかも」元加害者・支援者らが集まる忘年会も

この日、支援者やかつてストーカーだった人たちが集まる忘年会が開かれました。普段画面越しでしか会わない参加者同士が対面で交流する機会です。
(守屋代表)「26年前の男性に、どうしてそんなに執着しちゃうの?」
(40代女性 Bさん)「そこは不思議ですよね。病気やと思うんですけど、思い込んでいるのかもしれません。まだ好きと」
(中元医師)「その時に流行った歌、何でしたっけ?」
(40代女性 Bさん)「モーニング娘。のLOVEマシーン。(男性から)『ごめんね、もう付き合えない』って言われて」
(中元医師)「めっちゃショックですよね。めっちゃショックやと思いますよ」
(支援者)「トラウマなってるんだよね」
(40代女性 Bさん)「トラウマなんです」
新たなストーカー被害を生まないために、時には厳しく時には寄り添った、地道な支援が続けられています。
2025年12月14日(日)現在の情報です
