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「けんせつ女子」が活躍できる業界を目指して 目覚めたガテン系男性リーダーたちが自らダイバーシティを実践【3月8日は国際女性デー】

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 3月8日は女性の社会参加や権利の向上を目指すことを啓発する国際女性デーです。「男性の職場」という印象が強い建設業界でも女性活躍への期待が高まっています。

人手不足で期待 建設業界に進出する

 2月15日に神奈川県横浜市で開催された「けんせつ女子ビューティーセミナー」。建設業界で働く、または働きたいと思っている女性たち46人が参加し、肌の乾燥対策や旬のメイク情報、ダイバーシティやキャリアの講座、来場者同士のディスカッションなどで親睦を深めました。
 
 このセミナーを企画したのは、全国約2300社の塗装会社でつくる日本塗装工業会。建設業界も女性に活躍してもらいたいと、女性同士のネットワーク構築や意欲喚起を図る場として2021年からセミナーを続けていて、今回で9回目です。

 日本では少子高齢化や人口減少による人手不足が深刻化、女性の労働参加が切実に期待されるようになっています。しかし、これまでの男性を中心としたやり方の踏襲では女性は活躍できず、職場には「環境」や「意識」の変化が求められています。

 長らく「ガテン系」と呼ばれてきた男性職場の建設業界も例外ではなく、遅まきながら女性を職場に受け入れるための対策を始めています。

 国土交通省によると、建設業の技能者のうち60歳以上の割合が約4分の1を占める一方、29歳以下は全体の約12%で、将来の担い手確保が急務とされています。

 日本塗装工業会においては、令和5年に行った実態調査で、技能者の60歳以上の割合は約6分の1、29歳以下は20%程度と、建設業界全体に比べるとやや若手の割合は高くなっていますが、じゅうぶんな数字ではありません。

 日本塗装工業会では、どうすれば担い手不足を解消できるかを考えたところ、技能者1万5000人あまりの中に女性が約700人いることに着目し、もっと女性を塗装業界に招き入れたいと考えました。
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 取材したセミナーでもっとも印象に残ったのは、この会を主宰している日本塗装工業会の男性リーダーたちが涙ぐましいほど一生懸命に参加した女性たちをもてなそうとする姿でした。

 セミナーの最後には全国の支部の代表者たちが持ち寄った地元の名産品や高級ブランド品を用意して抽選会を開き、参加した女性たちは思わぬプレゼントに歓声をあげていました。

セミナーの責任者「女性活躍について勉強」

 セミナーの責任者である日本塗装工業会普及委員会の片桐久委員長は「セミナーを実施することで、われわれも女性活躍について勉強させていただいている」と話します。

 実は初めのころはセミナーを委託した会社に丸投げ状態で、普及委員たちの当事者意識はとても低かったといいます。

 すると美容講座を請け負っている化粧品会社の担当者から「私たちはお客様を迎える精神で取り組んでいる。みなさんも同じ精神をもってほしい」と叱られてしまいました。

 しかしそれが片桐さんたちにとって大きな気づきをもたらし、女性活躍についてみんなで考え、回を重ねるごとに理解を深めていったそうです。

「『えるぼし』や『くるみん』という言葉もセミナーをするまで知りませんでした。今は自分もちょっと成長できているって思います」と、片桐さんははにかんだ笑顔を見せました。

 副委員長の西田政文さんも手ごたえを感じています。

 セミナーをきっかけに、自身が経営する会社でも女性社員の話によく耳を傾けるようになったそうです。

 その結果、女性に限らず会社そのものの風通しがよくなり、仕事の効率もあがり、社内にはチームとして会社を守っていこうという機運が生まれました。

 例えば、事務職の女性が現場の職人の管理などにも気を配りしはじめ、その細やかさに社長自身も助けられ、従業員たちもトップダウンを待つのではなく自発的に動くようになったそうです。

 それはセミナーを通して「ひとりひとりを認めて受け入れあうことに気づかされた」からだと西田さんは分析しています。

 まさにダイバーシティの実践そのものと言える社長の変化が会社に良い影響を及ぼしているようです。

現場で活躍する女性「特別扱いしてもらいたくない」」

 セミナーでは建設業界で活躍する女性によるパネルディスカッションも行われました。登壇した浅津星亜さんは、塗装の全国大会に出場した経験もある若手のホープです。

「現場では男性が気を遣ってペンキの一斗缶などを持ってくれるけど、実はあまりうれしくない。女性だからといって特別扱いしてもらいたくない」とやる気に満ちています。

 浅津さんが所属する佐藤興業株式会社は、令和5年度の「東京都女性活躍推進大賞」を受賞しています。社長の佐藤東平さんは「性別で門戸を閉ざさない」という方針を掲げていて、男性社員に「生理痛体験研修」を行ったこともあります。
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 女性社員が増えてくる中、生理痛で体調がすぐれないことを男性の管理職や佐藤さん自身が理解しなければと考えたからでしたが、それ以上に、そのとき参加した女性社員の話から生理痛に個人差があることや、言いにくい環境があることも知り、対話によってさらにお互いの理解が深まることを体感しました。

 塗装の仕事と一口に言っても、職人や施工管理など様々な種類があり、現場も一般住宅、ランドマークになる大きな建物、テーマパークなどそれぞれで要求される能力も違います。

 佐藤さんは「だからこそ男女に限らず、ハンディキャップを持っていたり、外国人であったり、マイノリティと呼ばれる人たちであったり、みんなと一緒に各々の個性を生かし合える環境を作っていきたい」と意気込んでいます。

建設業界で活躍する女性を増やすには「環境整備」と「意識改革」が必要

 では、セミナーに参加した「女子」たちはどう感じていたのでしょう?

 ■「楽しかったです。年齢層の幅も広くて、いろんな方とお話ができてすごくためになったし、建設業を盛り上げたくなりました」(職人)

 ■「まさかこんなに女性がいっぱいいるなんて思ってなかったので、これだけ味方がいてくれたらもっともっと頑張れるなって思いました」(事務職)
と女性同士で語り合えるセミナーの評価は上々のようです。

 次に、女性たちは実際に働く建設現場をどう捉えているのでしょう?

 ■「昔はパワハラやセクハラめいたこともありましたが、今の社長が働きやすい環境を整えてくれて、『技術を身につけてどこでも働けるようにしなさい』と言って育ててくれたのでここまでやってこられました。でもまだ待遇面や環境面の改善は必要だと思います」(職人歴30年)

 ■「実際働いてみて、現場は男性がほとんどですけど、差別とかもなくしっかり教えてくれます。教えていただいたことに応えられるようにこれからも頑張りたいと思います」(職人歴2か月)
と周囲の理解がやる気に結びついていることがうかがえました。

女子トイレや女子更衣室 課題は徐々に共有

 女子トイレや更衣室の課題は徐々に建設現場にも共有され始めていて、使う道具の軽量化が進んだり、カラフルでかわいいものも登場しています。しかし、会社や現場の大小でまだまだばらつきがあり、さらなる環境整備も必要です。また、女性が労働参加し始めてからまだ日が浅いために出産後のキャリア形成のモデルケースが少なく、これから建設業界はさらに試行錯誤を重ねていくことになると予想されます。

 国土交通省の「建設産業における女性活躍・定着促進に向けた実行計画検討会」は、2月3日の会合で提示した実行計画で「入職者に占める女性の割合は依然として低く」「女性の定着はまだ不十分」と指摘しています。その改善策として経営層から現場にいたる意識改革、仕事と家庭の両立ができる環境整備、現場でのトイレや更衣室の整備などを進めていくとしていて、そのための基本的考え方として「トップの意識を変えて現場が変わる」と明記しています。

 取材した男性リーダーたちは、女性を職場に受け入れた効果に確かな手ごたえを感じています。目覚めたガテン系リーダーたちの頑張りに引き続き期待し、その機運が建設業界全体に波及していくことが望まれます。

2025年03月07日(金)現在の情報です

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