2025年06月12日(木)公開
リスナーは受刑者『刑務所ラジオ』無期懲役の人、服役4度目の人...年に一度のリクエストに重ねる思い「命にかえても取り返しのつかないことをした」「子どもたちを今度こそ裏切らない」
編集部セレクト
約350人の受刑者が収容されている女子刑務所の「和歌山刑務所」で19年続く、「刑務所ラジオ」。刑務所の中だけで聞くことのできるラジオ放送です。ラジオを聞くことで更生につながるのか。年に一度だけのリクエストに綴られた受刑者たちの思いを取材しました。
毎週火曜日の夕方に流れる“刑務所内だけの放送”
全国に12か所ある女子刑務所の1つ「和歌山刑務所」。約350人の受刑者が収容されていて、覚醒剤の使用や所持、窃盗が7割以上を占めています。ここで、毎週火曜日の夕方に流れるのが、刑務所の中だけの放送。「刑務所ラジオ」と呼ばれています。
(ディスクジョッキー 巖水法乗さん)「はまゆうのみなさん、おかわりございませんか。今月のはまゆう思い出リクエストの時間がやってまいりました。1曲目は炊場のS・Jさんのリクエストです。平井大さんの『Stand by me,Stand by you.』にリクエストいただきました」
2人のディスクジョッキーが月の半分ずつを担当。事前収録したものを夕食の時間に放送します。
(ディスクジョッキー 巖水法乗さん)「S・Jさんの思い出は『彼氏との思い出の曲なのでぜひかけてください。毎週楽しみにしています。よろしくお願いします』と書いていただいております」
受刑者からリクエストを募り、楽曲とそれにまつわる思い出を紹介します。2006年に始まった刑務所ラジオ。僧侶の巖水法乗さんは開始当初からディスクジョッキーを務めています。
(ディスクジョッキー 巖水法乗さん)「聞いててよかったとか、刑務所でも和歌山に来てよかったとか思ってもらえたら僕らはありがたいし。それだけじゃなしに子どもたちや家族と別れているけど、1人で頑張れる、勇気みたいなものをラジオで培ってもらえたらいいのではないだろうかと」
「子どもたちを今度こそ裏切らない」ラジオを聞いて強く決意
窃盗罪で服役中の56歳のTさん。刑務所ラジオを楽しみにしていてこれまで何度もリクエストを送っているといいます。
(窃盗罪 懲役2年半 Tさん)「曲ってそのときの自分の思いと重なるというか。曲を流していただいて振り返ることもできるし、これから頑張ろうって気にもなるし、火曜日楽しみです」
万引きを繰り返し、これで4度目の服役。3人の子どもたちは、これ以上万引きをしないよう治療する病院を探して、費用もまかなってくれたといいます。
(Tさん)「(刑務所に)来たくないのは来たくない。もうこんなことしてちゃ…という気持ちもある。助けてほしいとか、今もこうなんだよっていうのが、ずっと家族に言えなくて、鬱憤をそういうところで晴らしてしまうのはダメなんだけど、結局、万引きで解消してしまう。その悪循環」
リクエストしたのは、長男が好きだったback numberの「ささえる人の歌」。もう一度、子どもたちのことを思い出し前向きに頑張りたいと大好きなこの曲を選びました。
(Tさん)「裏切っても裏切っても許してくれる子どもたちに、私は今度こそ裏切らないようにやり直していきたい」
次こそは子どもたちを裏切らない。刑務所ラジオを聞いて強く決意します。
受刑者自らの反省を促すきっかけに
刑務所は厳しい規律の中での生活。起きる時間や食事の時間など細かくルールが決められていて、単独室の人が自由に会話を楽しめるのは1日50分だけ。そんな暮らしの中で刑務所ラジオは受刑者自らの反省を促すきっかけになることが期待されています。
(岡田覚刑務官)「厳しいだけでは本人たちの反省などにつながらない。このままでは出所後もおなじことを繰り返すのではと。このままじゃ駄目だということを気づかせるためのきっかけになっている」
「なんでもないことが幸せだった」強盗殺人罪で無期懲役の女性
リクエストを募るのは年に1度だけ。それでも約400通が集まります。どれも幸せな頃の記憶や家族への思いなどが記されていました。
もう1人のディスクジョッキーはフリーアナウンサーの向井千恵子さん。番組の締めくくりはこのリクエストを選びました。
(受刑者のリクエスト)「特別なことがなくても穏やかな日々を過ごせる事が一番の幸せだということをこれからも忘れずに歩んでいきたいと思いますのでお願いします」
この受刑者が選んだ曲は、THE 虎舞竜の「ロード」。
(リクエストを読み上げる向井千恵子さん)「歌詞の『何でもないようなことが幸せだったと思う』というのが今は胸に突き刺さります」
リクエストしたのは強盗殺人罪で無期懲役の62歳のYさん。知人の借金の保証人になり金銭トラブルの末、その知人を殺害してしまったといいます。
(強盗殺人罪 無期懲役 Yさん)「自分の弱さが引き金になった。弱さゆえにこうなってしまった。もっと人に相談したり、いろんな考えをもっていたら、きっとこういうことにはならなかった。いつも見栄を張って生きていた」
ここに来て20年以上がたちます。逮捕されたとき10歳だった娘とはもう連絡が取れません。
(Yさん)「学校に送り迎えしていたこととか、なんでもないことだけど、手をつないで歩いたこととか、公園に行ったこととか、幸せだったんだなとすごく思います。反省とかひと言で終わるようなことではない気持ちでいてます。自分の命にかえてでも取り返しのつかないことをした」
♪ロード/THE虎舞竜
何でもないような事が 幸せだったと思う なんでもない夜の事 二度とは戻れない夜
犯した罪や歩んできた人生を振り返る時間になっている刑務所ラジオ。そうして得た「気づき」こそが、受刑者の更生につながるのかもしれません。
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