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急増『卵子凍結』という選択 その方法や負担の体験談 40歳で出産した人「人生で一番いい決断だった」一方で「妊娠を先延ばしにしていいという材料にしてしまうと...悲しい」

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 『卵子凍結』という選択肢。希望者殺到の背景を取材しました。元々はがん患者などが治療前に卵子を凍結しておこうと始まったものですが、最近は健康な人が将来のために選択することが増えているということです。

現在は海外勤務の女性「1年~3年でもタイミングをずらすことができたら」

 大阪市北区にある「うめだファティリティークリニック」。ここを訪れた坪井さん、35歳。将来の妊娠・出産に備えて自分の卵子を凍結保存しようと考えています。
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 (坪井さん)「仕事とかも休む感じではないですか?」
 (医師)「激しい運動はやめてもらっていますけれど、仕事は特に制限はしていないですね」
 (坪井さん)「そうなんですね」
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 (坪井さん)「まず35歳という歳ですね。妊娠できる、子どもを作れるという年齢が限られている中で、残り期間がわずかになってきたところで、将来もし子どもが欲しいってなった時のために卵子凍結が一ついいんじゃないかなと」

 普段は海外で働いていて、今は仕事を中断して子育てと両立させるのは考えにくいといいます。

 (坪井さん)「ちょうど仕事を頑張らないといけない時期っていうところで、子どもというところに頭を割く余裕が正直ないなと。1年~3年でもタイミングをずらすことができたら」

 このクリニックでは、2010年から卵子凍結を行なっていますが、坪井さんのような女性がここ5年で急増しています。

卵子凍結と『年齢』

 卵子凍結とは、排卵誘発剤などで卵巣を刺激して、体内から卵子を採取。それをマイナス196℃の液体窒素で凍らせて保存します。
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 (培養室 井上岳人室長)「液体窒素のタンクの中になりますので、こういったタンクで保管されています」
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 30代後半の女性を中心に約150人分の卵子が保管されていて、凍結した卵子は、子どもを望んだタイミングで元に戻すため“融解”します。

 (培養室 井上岳人室長)「0.1mmくらいなので肉眼でやっと見えるぐらい」
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 そして、パートナーの精子と「体外受精」、もしくは細い針を使って精子を直接卵子の中に注入する「顕微授精」を行います。受精卵になった後、培養し、子宮に移植。ただ実際に移植までたどりつくのは約半数で、必ずしも成功するわけではありません。

 (培養室 井上岳人室長)「これは顕微授精した時の針のストレスによって卵の方が耐えられなかった場合の映像。卵子の方が黒ずんできているのがわかると思います。ダメな状態になります。卵子自体の染色体異常の確率も増えていますので、高齢の卵子の方は赤ちゃんになる確率は下がりますね」

 背景にあるのは年齢です。卵子の質は年齢とともに低下するため、妊娠・出産するには30代前半と比べて40代後半は5倍以上の卵子が必要とされています。また、CDC(アメリカ疾病予防管理センター)によると、体外受精での出産率は36歳をめどに急激に下がるともいわれています。

 (山下能毅院長)「実際は30代後半が多いんですよ。平均そのような感じです。やはりお金があって余裕があってとなってくるんですけど、卵子凍結の実際の成功例が若いうちに凍結しておかないとなかなか難しいんですよ。本来は20代もしくは30代前半までに凍結しておかないと、その卵子を使って将来妊娠を希望するとなると可能性が下がってくるので。もっと啓蒙して若い時に凍結しておけば、より効果的です」

『費用』と『身体の負担』

 36歳で卵子凍結を行なったももかさん(36)。20代から考えていましたが費用面などからなかなか踏み切れませんでした。

 (ももかさん)「やはり金額もすごく高額じゃないですか。やっぱり若い時ってそんなに余裕もなかったので、35歳きたら彼氏とか旦那さんになれるような人がいなかったら凍結するっていうことを周りに公言していたから、『やっとするんやな』って感じでした」

 卵子凍結は保険適用外のため、1回40万円ほどかかる上、複数の卵子を採取するため、2週間・毎日、採卵誘発剤の注射を打つなど、身体的な負担は少なくありません。ももかさんは採卵手術の後に腹痛や嘔吐など副作用にも苦しみました。

 (ももかさん)「めっちゃ不安でした。治らんかったらどうしようとか、女性の体ってほんまに繊細なんやなって」

 36歳のももかさんの場合、妊娠率を高めるためには約10個の卵子が必要とされますが、凍結できたのは4個でした。

 (ももかさん)「思っていた数よりは私の場合は少なかったので、凍結できたのはできたんですけれど、もう一回やろうと思っています。またあの痛みを味わうと思ったら不安要素はあります」

東京都は卵子凍結費用を助成…想定超える利用意向

 自治体も経済的な負担を減らそうと動き出しています。

 (東京都 小池百合子知事 去年9月)「卵子凍結というのは将来の妊娠に備える選択肢の一つであります」

 東京都は去年10月から、18歳から39歳までの健康な女性が卵子凍結をする際の費用を最大で30万円助成。現在のところ想定を大きく上回る3227人(4月8日時点)が利用の意向を示していて、今年度の助成規模を当初の10倍に拡大しました。

 一方、こうした動きについて日本産科婦人科学会は「推奨も否定もしない」という考えを示しています。

卵子凍結で出産した人の体験談と想い

 (男の子)「こんにちは!(Q何歳ですか?)6歳やけど、7歳になる、もうちょっとで」

 大阪府内に住むAさん(46)。凍結していた卵子を使って6年前に男の子を出産しました。きっかけは年齢とともに感じる身体の異変でした。

 (Aさん)「30代後半になってきますとホルモンバランスが変になってきて、通常の生理もこなくなって、このままだったらたぶん産めないかなっていう危機感を感じたというのが凍結の一番の要因になりましたね」

 Aさんは37歳から1年かけて100万円以上支払い、26個の卵子を凍結しました。

 (Aさん)「いつかは産めるかもしれない、赤ちゃんを授かるかもしれないということで、とても安心しました。焦る気持ちが無くなりましたね。(Q当時は理解が得られる感じではなかった?)そうですね、言うこと自体もはばかられるような時代やったと思います。自然妊娠というのがあって、まったく言える状況ではなかったと思います」
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 その後、38歳で結婚。自然妊娠などを試みましたがうまくいかず、当初は凍結卵子を使うことに反対していた夫を説得して、40歳で出産しました。

 (Aさん)「すごくうれしくてですね。私の人生の中で一番いい決断だったかなと思います。精神的負担も金銭的負担も全て吹っ飛んだというか、息子に会えたことで全てチャラになったと思います」
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 それでも、卵子凍結をする際は、出産後の先まで見据えて決断してほしいと話します。

 (Aさん)「ただ、妊娠を先延ばしにしてもいいかなっていう材料にしてしまうと、ちょっとそれは悲しいなと思っていまして。産んだ後が子育ての勝負だから、私も40歳で出産していますけど、体力的にはとてもしんどくて。仕事との両立もとてもしんどくて。そういうのも視野に入れて卵子凍結するか将来どうするかというのを考えていただけたらなと思っています」

2024年04月10日(水)現在の情報です

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