MBS(毎日放送)

『今を忘れてしまう』記憶障がいある23歳女性も打ち込む「ミニらいとモルック」小型化で年齢・性別・障がい関係なし「みんなでわちゃわちゃ青春です」

編集部セレクト

SHARE
X
Facebook
LINE

 「ミニらいとモルック」というスポーツを聞いたことはありますか?年齢・性別・障がいなどに関係なく「誰でも対等に楽しめる」という新しいスポーツです。このスポーツに打ち込む、記憶障がいがある女性を取材しました。

モルックがちょっと重たくて…という人のために「ミニらいとモルック」

 今年9月中旬、大阪市の天王寺区民センターで開かれた「オレンジリンピック」。年齢・性別・障がいなどの垣根なく楽しむことを目指すスポーツイベントです。
3.jpg
4.jpg
 このイベントで採用しているのは「ミニらいとモルック」。フィンランド生まれの競技「モルック」を約5分の1のサイズ・重さに小型軽量化して、年齢・性別・障がいに関係なく誰でも楽しめるように改良したものです。去年8月に誕生しました。
5.jpg
 開発のきっかけになったのは…。

 (ミニらいとモルック協会 名和厚博理事(54))「モルックを私やっているんですけれども、障がい者施設や小さいお子さんのおられる保育園とかに持っていってやったことがあるんですけれども、フィンランドのモルックができなかったんですね。ちょっと重たくてということもあって。それでミニらいとモルックを開発するきっかけになりました」
6.jpg
 この競技のルールは、モルックと呼ばれる木の棒を投げ、1~12が書かれたピン(スキットル)を倒すことで得点を競います。倒れたスキットルは倒れた地点にそのまま立てます。1本だけが倒れるとそのスキットルに書かれた数字が得点になり、複数本が倒れると倒れた本数が得点なります。チーム制で戦い、先に50点ちょうどを取ったチームが勝ちです。

参加者は様々「みんな対等でできる」「ハマります」

 取材中の試合では、青チームが49点、赤チームが37点で、青チームはあと1点で勝利。青チームが狙いを定めてモルックを投げると…見事、1が書かれた1本倒しに成功しました。

 (1本倒しに成功した参加者)「最高です、最高でーす!」
9(1).jpg
 参加者の反応は。話を聞いてみました。

 (81歳の参加者)「やり出したら一生懸命になって、ハマります」
 (親子で参加)「(子どもは)今3歳半です。うちの子なんか普通のモルックは投げられないんですけど、ミニらいとモルックやったらポイって簡単に投げられて、得点も取れて、一緒に喜べるというのが大きな魅力かと思います」
 (親子で参加)「私は妊婦で、夫はガチでモルックをやっているんですけど、みんな対等でできる」
 (4歳)「(Q楽しい?)(笑顔で手を上げる)」
10.jpg
 そんな中、一際大きな声で応援して、全力で戦うチームがありました。「ワークスクールのあ」の学生たちです。実は彼らはそれぞれ知的・精神的・身体的障がいを持っています。
11.jpg
 その中にミニらいとモルックを楽しむ若い女性がいました。飯島理子さん(仮名・23)。彼女は脳に障がいを抱えています。

 (飯島理子さん)「(Q投げる時は緊張しましたか?)。はい、少し緊張しました。みんなにめっちゃ見られているわと思って」

今を記憶することができない記憶障がいの23歳女性

 理子さんの両親が営む喫茶店を訪ねると。

 【携帯に記録したメモを探す様子】
 (母親)「きのうのところを開けてみて。…そんなに下じゃない」
 (理子さん)「上かな?これ?」
 (母親)「うん、なんて書いてある?」
 (理子さん)「朝学習で『恋するフォーチュンクッキー』を踊りました。ボールペン字をしましたよ。文化祭のショーの練習をした。PCでフラッシュ問題をしましたよって書いてます」

 携帯のメモに記録した『今日の出来事』を母親に伝えています。実は理子さんは今を記憶することができない記憶障がいを抱えています。

大学生時代に突然の頭痛…脳に記憶障がいが残る

 今から5年前、関西学院大学に入学してキャンパスライフを楽しんでいた理子さんに突然、激しい頭痛が襲いかかりました。
14.jpg
 (理子さん)「めっちゃ頭痛くなって、あー無理やって思って、お母さんに救急車を呼んでもらいました」
15.jpg
 (母親)「AVM(脳動静脈奇形)といって脳の中の動脈と静脈の間の毛細血管が形成されていなくて。脳内出血という状態で意識が戻りましたけれど、しばらく話すこともできませんでしたし、歩くことももちろんできませんでしたし」

 4度の手術に耐え、1年近く入院生活をして、リハビリに励んだ理子さん。日常生活を送れるくらいには回復したものの、脳には今この瞬間を忘れてしまう記憶障がいが残りました。
17.jpg
 (母親)「どういうふうに新しい記憶の回路が作られていっているのかというのは私たちにもよくわからない」
 (父親)「昔の記憶でアガサ・クリスティ(イギリスの推理小説家)と言ったら『お父さんそれは違うで』、アガサ・メアリッサ・クリス?え?」
 (理子さん)「アガサ・メアリ・クラリッサ・クリスティ(アガサ・クリスティの本名)」
 (父親)「っていうんやって言って。そういうことをえらい覚えているんですよね」

理子さんの学生生活 食べたものや授業内容を携帯にメモ

 そんな理子さんは現在は「ワークスクールのあ」に通い学生生活を送っています。理子さんが通う「ワークスクールのあ」は障がい者の大学として生活訓練や就労支援を行っています。取材した日は介護の授業。車イスの体験をします。
20.jpg
 まずは先生がお手本を見せ、進む方向を伝えていましたが…。

 (先生)「こっち!」

 いざ車イスに乗ってみると、どこに向かえばいいのかわからなくなってしまいます。
21.jpg
 (先生)「まっすぐ」
22.jpg
 授業が終わると、いつものように携帯のメモ機能に、今していたことを書き込みます。

 【メモの内容】
 『今日は10月6日です 今日の朝ごはんはパン 今日のお昼ご飯は鯖の味噌煮とにゅうめんと白ご飯を食べた 車いすの体験をしました!』
23.jpg
 掃除の時間。理子さんの担当はイス拭き。先生に見守られながら掃除を進めます。

 (先生)「1つ忘れていない?濡れているところ1つあるで。見てみて、よーく見てみて。1つ濡れているところあるわ。拭き忘れがある」 

 どこを拭いたのか忘れてしまうため先生が教えてくれます。

楽しみは「モルック部」での活動 先生や仲間との青春

 掃除が終わると楽しみにしていたクラブ活動の時間です。ここに通う学生たちの楽しみは週4回のクラブ活動、その名も「モルック部」。理子さんもこのクラブに所属して、定期的に行われる大会に出ることを目標に、日々楽しみながら練習に励んでいます。

 (先生)「11いってみる?」
 (仲間)「がんばれ!」

 先生にアドバイスをもらいながらモルックを投げていきます。

 (理子さん)「よかった、セーフ、セーフ」
24b.jpg
 団体競技のため、仲間とのコミュニケーションも重要です。

 (仲間)「3狙って」
@.jpg
 (仲間)「…ああー!」
 (仲間)「惜しい!」

「皆でわちゃわちゃしてやるのめちゃおもしろい」今は新たな目標も

 理子さんはミニらいとモルックについてこう話します。

 (飯島理子さん)「こうやって皆でクラブ活動としてやるのめっちゃ楽しいですね。ルールは覚えにくかったですよ、最初、え?どういうことってなったんですけど、何回もやるにつれてだんだん覚えていきました。青春ですね。汗かいて、皆でわちゃわちゃしてやるのめちゃおもしろいですよ」
26.jpg
 ミニらいとモルックを楽しむ娘を見て、理子さんの両親は。

 (母親)「今こうなってしまって、ワークスクールのあさんに通うようになって、また同世代の方々と交流できるようになって。思い描いていた形とはまた別の形ですけれども、楽しく過ごせているということで、本当に良かったと思っています」
 (父親)「嫌やったらすぐやめると思うけど、ずっと続けているということは、やっぱり気に入っているんやろうな」
 (理子さん)「(うなずく)」

 ミニらいとモルックで青春を送る理子さんには、今、新たな目標があります。

 (飯島理子さん)「前に通ってた大学に行きたいですね、もう1回。通えるなら」

 誰でも対等に楽しんで戦える「ミニらいとモルック」に出会い、前向きに生活を送る理子さん。新たな目標に向かってこれからも進み続けます。

2023年10月25日(水)現在の情報です

今、あなたにオススメ

最近の記事

強度行動障害のある28歳息子と初めて離れて暮らす決断 「自分たちが世話が出来なくなる前に」両親はパニックに対応できる施設を6年間探す...届いた「受け入れ可能」のメール

2025/11/02

【独自】旧統一教会の"財産移転先"天地正教とは 「弥勒菩薩は文鮮明氏」宣言から濃くなった教会の色...過度な献金要求を元信者が証言 二代目教主「乗っ取られた」旧統一教会の見解は

2025/10/31

【カツめし】夫婦で50年!路地裏の昭和釜めし 京都・下京区「月村」

2025/10/30

「被告人は『当たったか?』と言葉を発した」山上被告を取り押さえた警察官が明かす緊迫の状況 提示された安倍氏の傷痕の写真を食い入るように見つめた山上被告 自作のパイプ銃は「発射罪」適用されるか?

2025/10/30

「早く供養してあげないとと。思いついたのが、土に埋めてかえしてあげること」死産した赤ちゃんの遺体を大阪市内の公園に遺棄 24歳女の孤独「産まれるとなっても、誰の顔も思い浮かばなかった」【裁判ルポ】

2025/10/30

Xでの投稿めぐり... 大阪地裁が泉南市議に賠償命じる 在日コリアン女性の親族関係を"暴露"「名誉毀損やプライバシーの侵害で、政治的思想持つ者による個人攻撃を誘発する危険」大阪地裁 ヘイトスピーチとは認めず

2025/10/30

『20年以上前の実習台』買い換えたいがお金が...阪大歯学部が直面する"設備の老朽化" 国公立大なのに「国に頼れない」OBなどに寄付募り「身を削る」

2025/10/29

【安倍元総理銃撃】「倒れる安倍氏に『総理!総理!』と声をかけた」応援受けた佐藤啓参院議員 事件直後の安倍氏の状況証言「私の応援演説で銃撃された。昭恵さん、安倍家に大変申し訳ない」

2025/10/29

SHARE
X(旧Twitter)
Facebook