2025年12月29日(月)公開
翌日からの休暇を共に過ごすはずだった24歳息子 酒気帯び運転の大型トラックにひかれ... 父親の悲痛な叫び「殺人だと思う。怨念の深い闇の中で、一生生きていく」 男は飲酒後に1~2時間ほど眠っただけで運転
編集部セレクト

無責任な飲酒運転が、またも未来ある若者の命を奪った。 犠牲となったのは、その年に就職したばかりの当時24歳の男性。事件に遭わなければ、翌日から家族と年末年始の休暇を過ごすはずだった。 過失運転致死などの罪に問われた男(61)は、あろうことか、飲酒後に1~2時間ほど眠っただけで大型トラックを運転していた。 大阪地裁は11月18日、男に懲役5年の実刑判決を下した。(松本陸)
“早めに業務を終えたい”と考え… 酒気帯びで自家用車や大型トラックを運転
起訴状や検察官の冒頭陳述などによると、男(61)は、去年12月27日の午前2時から午後1時ごろまで大型トラック(車両総重量約25トン・車長約12m)の配送業務を行い、その後帰宅して飲酒。
次の業務は翌28日深夜からの予定だったが、“年末のため早めに業務を終えたい”と考え、同じ27日の午後8時ごろ、自家用車で勤務先に向かった。
そして再び、同じ大型トラックのハンドルを握り、堺市西区の道路で事件を起こす。交差点を右折する際に、横断歩道を自転車で渡っていた男性(当時24)をはねたり轢いたりし、男性を死亡させた。
男は過失運転致死と酒気帯び運転のほか、救護や通報をせずにその場を走り去ったとして、ひき逃げの罪にも問われた。男側は公判で、過失運転致死と酒気帯び運転の罪は認めたものの、ひき逃げの罪は否認した。
発泡酒を缶1本、焼酎水割りをコップ3杯… 約1~2時間寝ただけでハンドル握る

検察官の説明や男の公判供述によると、男は事件当日、午後2時半ごろから自宅で飲酒。
発泡酒350ml缶1本と、麦焼酎の水割りをコップで3杯飲んだ。飲み終わったのは午後6時ごろだったという。
その後、たった1~2時間ほどだけ寝て、午後7時50分すぎに車で勤務先に向かった。
(9月16日の被告人質問)
弁護人「なぜ車を運転する予定だったのに、お酒を飲んだ?」
男 「酔いがなかったと思っていたので」
被害者は再発進したトラックに轢過された…

男は、勤務先でアルコールチェックをすることなく、大型トラックに乗り込んだ。普段は横断歩道に歩行者がいないかを、窓を下げて目視で確認していたというが、事件時は怠ったという。被害男性の自転車のライトにも気がつかなかった。
(7月1日の被告人質問)
検察官「どうしてこの日は、普段の確認をしなかった?」
男 「アルコールのこともあるので、確認不足だったと思います」
検察官「前方のどのあたりを見ていた?」
男 「横断歩道のまだ先ですね」
そして、自転車と衝突する。
(7月1日の被告人質問)
男 「ゴーンという音がした。ごみでも踏んだのかと思いました」
「自分では意識はしていないが、いったん止まったと思います。いったん止まって、ゆっくり徐行していった」
男は、約20秒停止を続けたあと、再び大型トラックを発進させた。公判では、“その後の車体の揺れには気づかなかった”という旨を述べた。
検察官の論告によれば、被害者は大型トラックにはねられたあと、トラックの車底部に入り込む形となり、抜け出すことができないまま、上半身を轢かれたという。
男がトラックを止めたままでいれば… 被害者は一命をとりとめていた。
“ぶつかったのが人だと思わなかった” 理由は「記憶がない」

そもそもなぜ、男は再び大型トラックを発進させたのか。
(7月1日の被告人質問)
検察官「ぶつかったのが人だと思わなかった理由は?」
男 「記憶がないので…」
男 「人だとは分かっていません。分かっていたら、止まっていると思います」
検察官「当時は人だとは思わなかったと?」
男 「はい」
検察官「横断歩道上で何かにぶつかったのなら、人を思い浮かべると思うんですけど?」
男 「その時はもう記憶がないので… 後でわかったので」
先述の「ゴーンという音がした」という供述についても、男は同じ日の審理で、“実際は、取り調べ時にドライブレコーダーの映像を視聴して認識した”と述べるなど、供述の変遷も見せた。
男は再発進したあと、100mほど先の別の交差点で信号待ちのため停車。そこで、目撃者に呼び止められた。
逮捕後の取り調べでは、“目撃者が必死にジェスチャーをしているのを見て、ぶつかったのが人だと分かり絶望した”という旨を述べたという男だが、公判の被告人質問ではこの点も「記憶にないです」と答えた。
一方で、弁護人から自宅で飲んだ酒の種類や量を問われると、男ははっきりと答えていた。それなのに、事件の核心部分の記憶があいまいなのは、非常に不自然な印象を受ける。
(9月16日の被告人質問)
弁護人「被害者に対してどんな気持ち?」
男 「大変なことをしてしまいました。取り返しのつかないことをしました」
弁護人「遺族に対しては?」
男 「被害者の方の命を奪い、大変申し訳なく思っています」
「被告は態度で私たち家族を何度も裏切り、深い傷を負わせている」
亡くなった男性(当時24)は病気を乗り越えて大学を卒業し、去年4月に就職したばかりだった。事件がなければ、翌日から年末年始の休暇を家族で過ごす予定だった。
10月14日の公判では、男性の父親が意見陳述を行った。
「息子はスポーツマンシップを地で行くような、本当に誠実で優しい息子でした」
「妻には事件の詳細を伝えていません。息子の死を受け入れるだけで精一杯だからです。被告の姿を見たら、気が狂ってしまうでしょう」
「私は、絶対に許しません。お前は反省しなくても、刑期を終えれば生きて出てくるが、息子はもう二度と生きて帰ってこない」
「被告は一生反省しないでしょう。裁判が終われば、息子のことも私たちのことも忘れ、ただ何年刑務所に入るかしか興味はないでしょう。逆に私は、息子を殺された悲しみと怨念の深い闇の中で、一生生きていくことでしょう」
「今回の事件、私は殺人だと思っています。被告は息子を殺したあとも、態度で私たち家族を何度も裏切り、深い傷を負わせています。どうか、被害者を救ってください」
強い怒りがにじんだ父親の言葉を、男は伏し目がちに聴いていた。
男の最終陳述は、至って淡白だった。
(10月14日の最終陳述)
裁判官「最後に述べたいことはありますか?」
男 「いえ、ありません」
「酒気帯び運転の危険性が現実化」判決は懲役5年の実刑

検察が懲役7年を求刑して迎えた、11月18日の判決。
大阪地裁(三村三緒裁判官)は、起訴事実をすべて認定。
男側が否認していたひき逃げの罪についても、「現場が市街地の交差点の横断歩道上であることからすれば、衝突してしまった対象としてまず想定されるのは歩行者や自転車運転者であり、その現場を日常的に通っていた被告がそのことを思いつかなかったとは考えられない」「ドライブレコーダー映像で、約20秒間の停車中に当該大型トラックの前照灯が消え、ドアの開閉音がしたことも考え合わせると、被告は衝突に気づき、ギアをニュートラルに入れるなどした後、ドアを開けて何らかの確認をした、あるいは確認しようとしたと合理的に推認される」と指摘。
「人に傷害を負わせたかもしれないという未必的な認識があったと推認され、救護義務違反の故意が認められる」として、ひき逃げの罪も成立すると断じた。
そのうえで「酒気帯び運転の危険性が現実化した事故で、過失も極めて重大と評価される事案であり、態様は相当に悪質」と指弾し、男に懲役5年の実刑を言い渡した。
男は言い渡しをじっと聴いていた。言い渡しの前と後には、検察官側の席に一礼した。
被害男性の父親は、言い渡しの途中、ハンカチで涙をぬぐう場面があった。
その後、男側と検察側のいずれも控訴せず、判決は確定した。
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