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「好みのタイプで後をつけた」50分間追跡の果てに奪われた24歳の命...神戸マンション女性刺殺事件が突きつけた「刑罰の限界」 ストーカー元加害者が当事者と向き合う再犯防止への執念"治療こそが被害者を救う"

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 2025年8月、一つの殺人事件が世間を震撼させました。兵庫県神戸市の中心部・三宮のマンションのエレベーター内で、住人の女性が殺害された事件。女性は24歳で、胸などをナイフで複数回刺されて失血死しました。 殺人などの罪で起訴されたのは、住居不定・無職の谷本将志被告(36)。防犯カメラの映像などから、事件当日は女性の勤務先から自宅まで約50分もの間、女性のあとをつけていたとみられています。 谷本被告は5年前と3年前にもそれぞれ別の女性に対するストーカー行為で有罪判決を受けていて、今回の事件はその執行猶予中に起きた事件でした。 ▼恐怖感じた記者は“ストーカー更生”の取材へ 事件を取材した記者のうちの一人は、亡くなった女性のマンションからすぐ近くの場所に住んでいました。事件以降、帰宅しエレベーターを乗り込む際には背後が気になり、何度も後ろを振り返るようになるなど、強い恐怖を感じたと振り返ります。 なぜ、谷本被告はストーカー殺人をするに至ったのか。なぜ、事件を未然に防ぐことができなかったのか。恐怖を感じた記者は、ストーカー心理や更生の実態を探るうち、ストーカー加害者の更生支援を行う団体の活動に行きつきました。 ※2025年8月に発生した「神戸三宮マンション女性刺殺事件」と、ストーカー加害者の更生支援をめぐるドキュメントです。

「好みのタイプだと思って後をつけた」防犯カメラに男の姿が…

 住居不定・無職の谷本将志被告(36)は、今年8月20日、神戸市内のマンションに侵入し、エレベーターの中で会社員の女性(24)をペティナイフで数回刺して殺害したなどとして殺人などの罪に問われています。 警察によりますと、谷本被告は逮捕後の取り調べに対し「好みのタイプだと思って後をつけた」としたうえで、「エレベーターの中でペティナイフを突きつけて言うことを聞かせようと思ったが、叫ばれたので刺した」という趣旨の話をしていたということです。

 捜査関係者によりますと、被害女性は事件当日、午後6時半ごろに退勤して自宅マンションに向かいました。  

 MBSが入手した女性の勤務先近くの防犯カメラの映像には、20日午後6時半ごろ、被害者とみられる女性が同僚らと退社したほぼ同じ時刻に、谷本被告とみられる男も勤務先近くにいる姿がとらえられていました。  

 そして被害者とみられる女性が同僚らと別れた後、1人で歩いていく後ろを、谷本被告とみられる男がつけていく姿も映っていました。

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 ▼阪神の西元町駅や神戸三宮駅の防犯カメラにも容疑者の姿 50分以上女性の後をつけたか

 捜査関係者によりますと事件当日、女性は退勤後、業務の都合で郵便局に立ち寄り、阪神電鉄の西元町駅で電車に乗りました。    

 女性は神戸三宮駅で下車し、付近のスーパーで買い物をした後、ポートライナーの三宮駅へ移動。ポートライナーに乗って、自宅マンションの最寄り駅である貿易センター駅まで移動したということです。    

 この間、谷本被告が女性の後をつける形で、西元町駅や神戸三宮駅を歩く姿が防犯カメラに映っていたということです。    

 貿易センター駅でも女性の後をつけていたとみられていて、谷本被告は女性と同じ電車に乗るなどして、50分以上にわたり後をつけていたとされています。


▼被害女性を「まったく知らない人です」

 逮捕後の取り調べで谷本被告は、被害女性について「まったく知らない人です」と供述。谷本被告と被害女性は面識がなかった可能性があるとみられています。

「思考のゆがみは顕著」なぜストーカーを繰り返すのか…

 見ず知らずの女性に対し、執拗につきまとった谷本被告。犯罪心理学に詳しい筑波大学・原田隆之教授は、谷本被告の人物像について「後先を考えない衝動性」「人との距離感を誤り相手の気持ちを理解できない」と分析。「過去の裁判でも“思考のゆがみは顕著”という指摘があった」と話します。

 なぜストーカーをしてしまうのか。どうすればストーカー行為から脱却できるのか。これらについてさらに考えるために取材したのが、ストーカーだった人たちの更生支援に取り組む団体「ストーカー・リカバリー・サポート」です。


▼ストーカー加害者自身が取り組む更生支援

 この団体の代表を務める守屋秀勝さん(60)自身、元ストーカー加害者で、自身の経験を生かして活動に取り組んでいます。

 取材を通して見えてきたのは、「相手に対する執着心を断ち切る難しさ」と「根気強い更生支援」の必要性でした。

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▼「被害者は精神崩壊するんやで」元ストーカー加害者が更生支援

 守屋秀勝さん(60)。かつてストーカーだった人たちの更生支援を行う団体「ストーカー・リカバリー・サポート」の代表を務めています。
 ストーカー行為を繰り返さないために、週に1度、参加者たちが自分の考えを共有する集いを行っています。
 (守屋代表)「被害者っていうのは、本当に寝られないんやで。精神崩壊するんやで」
 (元ストーカーの女性)「加害者もですよ」
 (守屋代表)「俺も元加害者。話聞き」

「拉致してでも自分のものに…」ストーカー行為で逮捕された過去

 守屋さんはかつて、職場の同僚にストーカー行為を行い逮捕されました。

 (守屋代表)「ガンガン電話して、うちの周りぐるぐる回って。もう自分を拒否するんだったら、拉致してでも自分のものにしたいと。もうすごく怖い精神状態」

 守屋さんは6人の女性に対しストーカー行為を繰り返したといいます。その後、家族の支援や専門書を読んで学ぶなどし、加害行為を断ち切ることができました。ストーカー行為から抜け出すためには、周りの力を借りながら、自分と向き合うことが大事だと話します。

 (守屋代表)「更生支援を受けて、『自分はきょう1日ストーカー行為をやらない』と毎朝誓い、そしてやらなかった自分を夜には褒めてやり、また翌日になったら、『きょう1日ストーカー行為をやらないぞ』と。その繰り返しですよ」

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▼「自分のときは相談先がなかった」毎朝一人一人に連絡

 普段はタクシー運転手として働く守屋さん。休憩の時間を使って更生支援を行い、24時間当事者たちの声に耳を傾けています。さらに、同意した人は、GPSアプリで守屋さんに位置情報を共有。被害者の自宅に近づくなど不審な動きをした場合、警察に情報提供できる体制を整えています。

 このほかにも毎朝一人一人に連絡をとっています。

 <元ストーカーの男性との電話>
 (守屋代表)「おはよう」
 (元ストーカーの男性)「おはようございます」
 (守屋代表)「今日起きているじゃん、ちゃんと。今日バイトじゃないな?」
 (元ストーカーの男性)「違います」
 (守屋代表)「いい顔してんじゃん。どうや?相手に対する気持ちはないんやな?」
 (元ストーカーの男性)「はい。全然ないです」

 (守屋代表)「自分のときは、『こういうふうにして欲しかった』『ああいうふうにして欲しかった』というのを思い描きながら今やっているんで。特に夜中に電話しておいでっていうのは、電話相談できるところは全然なかったです。本当にただ話を聞いて欲しいだけなのに、それを聞いてくれるところはなかった」

「今日も殺意バリバリです」支援している女性からのメッセージ

 更生支援をする中で、特に気になるメッセージを送ってくる女性がいました。40代のBさんです。

 <40代のBさんからのメッセージ>
 「怒りと憎しみで眠れません」
 「今日も殺意バリバリです」
 (守屋代表)「(こういうメッセージを)送ってこられると、やっぱり発作的にいつかやるんじゃないのかなって思っちゃう」
 (40代女性 Bさん)「そうですよね。(ストーカー行為は)もうしません。絶対に」
 (守屋代表)「でも、そこもごめんやで。今のあなたには信頼性がない」
 (40代女性 Bさん)「いや、本当に信頼してください」
 (守屋代表)「そこは無理。ごめんな」

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 Bさんは26年前、当時2週間付き合っていた男性に対しストーカー行為を行いました。

 (40代女性 Bさん)「『孤独、孤独、ああ会いに行きたい』とか、孤独だと獣を飼うようになってしまうんですよね、心の中に。思い出すのも嫌なんですけど、ドアに張り紙とか、嫌がらせの手紙とかをその方の家に(入れた)。幼稚で姑息なやり方でした」
 ―――どれくらいの頻度でその人のことを思い出す?
 (40代女性 Bさん)「ここ最近は毎日のようには」
 ―――思い出してどういう感情になる?
 (40代女性 Bさん)「怒りとか憎しみも出てくるんですけど、どうしようもないので、26年も経ってるので」

 Bさんは男性の連絡先などは知らず、直接接触はしていませんが、未だに思いを断ち切れず苦しんでいると話します。
 時に守屋さんに過激なメッセージを送ってしまうBさん。その理由は…

 (40代女性 Bさん)「守屋さんのことを父親のように慕ってるわけですよね。甘えているわけです。こういうラインを送って」
 ―――送るとどんな気持ちになる?
 (40代女性 Bさん)「気分が晴れて救われます」

「よくわかる。でも変わっていけるよ」加害者同士の交流が更生早めると医師は指摘

 ストーカーの加害者に対し、警察はカウンセリングなどを受けるよう呼びかけていますが、受診率はわずか5・6%にとどまっています。守屋さんと連携する中元医師は、罰するだけでは根本的な解決にはならないと指摘します。

 (結のぞみ病院 中元総一郎副院長)「治療しないと、例えば警告されたり服役したりしても、結局出てきたら同じことをやってしまうんで、刑罰とか処分だけでは同じことの繰り返しになってしまう」

 治療に加え、加害者同士が思いを共有することが更生を早めると指摘します。

 (結のぞみ病院 中元総一郎副院長)「それぞれの体験談を話すことで刺激になるんですね。みなさん同じような体験をされていますので。『よくわかる。でも変わっていけるよ』と。そういう非常に優しい、しかし力強い、回復に向けた力強いメッセージになるというわけですね」

更生支援による被害抑止は可能か…神戸の事件から考える

 元加害者だからこそできる更生支援を行う人と、その支えで立ち直ろうとする人たち。一方で、こうした更生プログラムを受けることは義務ではなく、あくまで個人の意思にゆだねられていて、谷本被告のようにストーカー行為を断ち切ることができず、新たな被害が繰り返されてしまうケースが起きているのが現状です。

 谷本被告については、今後裁判が開かれ、事件に至る動機や背景などがさらに明らかにされることとなります。ストーカーによる被害を抑止するために、どのような手だてがあるか。裁判の内容を注視するとともに、更生支援による被害抑止のあり方についても議論する段階に来ているのではないでしょうか。

2025年12月29日(月)現在の情報です

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