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『誰も生まれた時から人を殺そうと思っていない』身寄りのない孤独な野宿者らを"型破りな愛"で寄り添う「西成の牧師」 事件で死亡した容疑者の遺骨も引き取る『生きているときに出会っていたら...』

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 大阪・西成で牧師を務める73歳の女性がいます。女性は元小学校教師で、50歳の時に関西学院大学・神学部に入学。約10年前に教会を開き、孤独な路上生活者へ手を差し伸べ続けています。信徒らの中には、家族に縁を切られた人や、何度も刑務所で服役した人も…。そんな人たちに“型破りな愛の表現”で寄り添います。

孤独な野宿者らが集う西成の「メダデ教会」 牧師の女性をママと慕う信徒も

 今年2月、冷たい雨が降る中、車いすの高齢者らが“ある場所”に向かっていました。大阪・西成で暮らす人たちが集う場所。彼らを迎え入れるのは牧師の西田好子さん(73)です。10年ほど前に「メダデ教会」を開き、西成をさまよう野宿者らに手を差し伸べ続けてきました。
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 (西田好子牧師)「西成にはいろんなところからいろんな人が流れてきています。家族と縁を切った人、早く手挙げよ。あなた捨てられたでしょ?刑務所、出たり入ったりしている人、はーい」

 家族に縁を切られ身寄りがないもの、罪を犯し刑務所で何度も服役したもの。彼らにとって西田さんは「母親」のような存在なのです。
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 この日、西田さんが訪れたのは本誠二さんの部屋。西田さんのことをママと慕う信徒の1人です。

 (西田牧師)「もうガリガリやで、ガリガリや」
  (本さん)「俺は死なん!」
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 2人が出会ったのは2018年のクリスマスイブ。拘置所から出てきたその日、路頭に迷っていた本さんを西田さんはすぐに教会に引き入れたといいます。本さんは数年前から徐々に足が衰え、最近では寝たきりの毎日を送っていました。
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 本さんが暮らすアパートで、ほとんどの信徒が寝食を共にしています。1人で風呂に入れないものの、世話をするのも同じ信徒。互いが互いを支え合って日々を過ごしているのです。
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 昼食準備の中、西田さんが突然声を荒げました。

 (西田牧師)「なんでIHでするの?言うたやんか、持ってきたやんガスコンロ。だからこれあかんねや。もう、なにこれ」
 (信徒)「もっと押さえなあかんもんね」
 (西田牧師)「あかんねんな」

 生揚げだったコロッケを揚げ直しです。食材は1人あたり200円集め、この日の早朝に激安スーパーで買い揃えたもの。昼食が完成したのは作り始めて数時間経ってからでした。

本さんが死去…“共に過ごした牧師と信徒ら”に見送られる

 取材班が初めてメダデ教会を訪れた3か月後の今年5月、教会では葬儀が執り行われていました。本誠二さんは85歳で静かに息を引き取りました。5年間、共に過ごした信徒らが別れを惜しみました。
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 (西田牧師)「ついでにカロナール入れたろうか、熱冷ますやつ。いらんか。もう死んだら熱冷まさんでいいか。なんで死んでんねん!」
 (信徒)「なに寝てんねん、起きやんかい」
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 教会に来るまでは身寄りもなく孤独な人生を送っていた本さん。大勢の信徒に見送られ、あたたかい最後となりました。
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 1週間後、西田さんは本さんの部屋を片付けに訪れていました。実は、本さんが亡くなる数か月前、西田さんが本さんの2人の子に病状を知らせたところ、教会に会いに来たといいます。しかし、そこで…

 (西田好子牧師)「めっちゃくちゃ暴れる本さんを知っていますやん。ほんで博打するのも知っているから。会いに来て『関わらないでください。死んでも知らせないでください。迷惑ばっかりかけられました。嫌い』ってはっきり言いました」

 その後、子どもが来ることはありませんでした。
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 これまでに亡くなった信徒らは教会の納骨堂で納められています。本さんの遺骨は来年8月末までに親族が引き取らなかった場合、ここで供養される予定です。

谷本盛雄容疑者の遺骨を引き取った西田牧師『生きている時に出会いたかった』

 今年9月、西田さんは引き取り手のなかった“ある男”の遺骨を受け取りました。

 (西田好子牧師)「谷本盛雄の骨です」
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 谷本盛雄容疑者(当時61)。2021年12月、北新地にある心療内科クリニックに火を放ち、患者や医師26人を殺害。自らも死亡しました。

 谷本容疑者の遺骨に引き取り手がないことを知った西田さんが「遺骨を引き取ろう」と決めるのに、迷いはなかったといいます。
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 西田さんは谷本容疑者の骨壺に死後洗礼を授け、信徒と同じ部屋に遺骨が納められました。孤独と困窮の末に事件を起こしたと見られる谷本容疑者の姿が、教会に来る前は孤独だった信徒たちの姿と重なったのです。
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 (西田好子牧師)「絶対にやったことは間違っている。それでも『あなたの人生はつらかったよね』と哀れんでくださる方もいることをこの子に教えてやりたかった。生きているときに出会っていたらよかった」
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 西田さんのもとには「谷本容疑者と同じような事件を起こそうとした」という受刑者から手紙が届いてました。

 【受刑者からの手紙】「『絶対奴らは殺す!そしてオレも死ぬ!』。チャンスをうかがっていた時に谷本氏の事件が起きたのです。谷本氏が実行していなかったら私がその立場になっていた」

“誰でもできることをする”のではなく“誰でもできないことをする”

 孤独を極めると、誰しもが犯罪に手を染める可能性がある。そうなる前にメダデ教会を訪れてほしい、というのが西田さんの思いです。

 (西田好子牧師)「誰も生まれた時から人を殺そうと思っていないって。その人生を歩まされてきた、そこに寄り添ってやってほしい」

 「メダデ」とは旧約聖書に登場する人物で、“愛にあふれる”という意味。「誰でもできることをする」のではなく「誰でもできないことをする」。これが西田さんの説く愛の形なのです。

2023年10月06日(金)現在の情報です

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