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【池上彰が解説】プーチン大統領が待つのは『冬の到来とトランプ前大統領の再来』...長期戦の可能性も「2024年まで耐えれば欧米の足並みが乱れて勝てるんじゃないかと」

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 10月6日放送のMBS『よんチャンTV』では「なんでもお答えしますSP」と題して池上彰さんがスタジオに出演。「ミサイルの発射実験を繰り返す北朝鮮の狙いとは?」「ウクライナ4州の一方的な併合手続きを完了したプーチン大統領の戦略とは?」などを生解説していただきました。

北朝鮮のミサイル発射は“アメリカに向けた求愛行動”?

 ーーー10月4日に北朝鮮がミサイルを発射しました。午前7時22分ごろに北朝鮮から発射され、日本列島を飛び越えて、午前7時44分ごろに太平洋に落下しました。4600kmの飛距離は過去最長となりました。そして10月7日の朝にも、北朝鮮は日本海に向けてミサイル2発を発射しました。ミサイル発射は7日朝の発射を含めると24回目ということになりますが、このあたりの“北朝鮮の狙い”というのはどういうことなのでしょうか?
 「いろいろな見方がありうるわけですが、1つは北朝鮮がとにかく“ミサイル開発を急いでいる”ということがあります。とりわけ、核兵器を積んで核ミサイルを何としてでも作ろうとしているので、非常にそれを急いでいる。今とにかくやってしまおうと。では、なぜ今やってしまおうとなっているかというと、世界がやっぱりウクライナに注目しているわけでしょ。『今どさくさに紛れてやってしまおう』ということがあります。あとはアメリカのバイデン大統領がなかなか振り向いてくれない。つまり北朝鮮としてはアメリカと直接交渉して自国の安全を保障してもらおうと。トランプ前大統領の時にはそういうことをやっていましたよね。しかしバイデン大統領になったらそれを全然しない。バイデン大統領は今ロシア・ウクライナのことで頭がいっぱいで全然振り向いてくれない。だから振り向いてよと、いわば求愛ですね。日本に対してではないです。ここまで飛んだということはグアムまで届きますよと。あとは韓国の大統領が変わりましたでしょ。前の大統領ってやっぱり北朝鮮となるべく仲良くしようとしていたのが、今の大統領というのはとにかく“アメリカや日本と一緒になって北朝鮮に対抗していこう”といって軍事演習を始めたわけですから。それに対抗するという意味もあるということですね」

ウクライナ4州の併合は“攻め入られる恐怖心”が関係か

 ーーーではロシア・ウクライナに関する話です。ロシアが“ウクライナ4州の一方的な併合手続きを完了した”ということですが、プーチン大統領の戦略とは一体どういうものなのでしょうか?
 「住民投票が行われた地域、ウクライナの4つの州(ルハンシク州・ドネツク州・ザポリージャ州・ヘルソン州)ですよね。とりあえずは住民の意見を聞くという形で住民投票をやったというわけですけれども、併合賛成の割合を見るとルハンシク州98%、ドネツク州99%、ザポリージャ州93%、ヘルソン州87%です。これには2つの要素があると思うんですね。つまり、この辺りには要するに『自分はロシアの国民であっていいんだ』という人たちは意外に残っているし、『だけどやっぱりそうじゃない。ここはウクライナなんだ』と思っている人たちは実はかなり逃げちゃっているわけですよね。だからロシアを支持する人たちばかりが残っているから賛成が高まるということがあるんです。しかし逆に賛成しなかった人がいるわけですよ。これはどういうことかというと、日本だと投票所があってそこに投票に行くでしょ。今回の場合は投票所もあるんですけど、投票に来ない人のために1軒1軒家を訪ねて行っているんです。投票箱を持って行って『投票してください』とやる時に、横に“銃を持った兵士”が付き添っているんです。さらに、あの投票箱って透け透けなんですね。中が見えるんですよ。不正防止という建前なんですね。つまり『中にあらかじめ偽造した投票用紙が入ってるわけではありません。今あなたが入れてくれたこれだけですよ』という形になるんですけど、逆に言うと見えるんですよ。賛成か反対か見えるわけですね。銃を持った兵士がいるところで投票するわけですから。逆にこういった状況にもかかわらず賛成しなかった人もいるという見方もできるんですね」

 ーーーこの賛成の数字には“歴史的な背景”もあるということですが?
 「そうですね。そもそもウクライナというと、もちろんウクライナ語を話す人もいるわけですが、ロシア語を話す人たちも大勢いるわけですよね。かつて帝政ロシアの時代、この辺りも帝政ロシアだったわけですね。この辺りは実は『ノボロシア(新ロシア)』と呼ばれている場所で、『ノボ』という言葉はロシア語で『新しい』という意味なんですね。だからここは『ロシア帝国時代にロシアが新たに開拓したんだ』『ここはそもそもロシアなんだ』という思いがプーチン大統領にはあってですね。この前これを併合した時に演説をしたのですが、その演説でも過去のロシア帝国の英雄の名前を次々に列記して『彼らによってここにロシアを築いたんだ』『ここはそもそもロシアのものなんだ』ということを言っているわけですよね。そして事実ロシア語を話す人たちが大勢いる。この中にももちろん嫌々併合に反対する人もいる一方で、ロシアに入ってよかったと考えている人も実はいるんだということなんですよね」
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 ーーー一方的な併合や部分的動員令など、プーチン大統領の狙いというのは一体何なのでしょうか?
 「地図を見ていただくと、ウクライナの海岸線のところをみんなロシア領にしてしまったわけでしょ。つまり『ウクライナを内陸国にしてしまおう』という狙いがあるんだということです。最近よく『地政学』という言葉が出ていますね。地理的に政治的に物事を見ていこうということで、世界は『ランドパワー(大陸国家)』と『シーパワー(海洋国家)』に分けられるんですね。ランドパワー・大陸国家というのは例えばロシアもそうですし中国もそう。本当に大きな大陸があって、だけど海岸線はあんまりないというところ。一方でシーパワー・海洋国家というのは日本やイギリス、まさに海に囲まれているというわけですね。そうするとランドパワーの大陸国家はやっぱり海に出て行きたいという思いがあるわけなんですね。とりわけロシアあるいはソビエトの時代、とにかく南の冬になっても凍らない港が欲しいという思いが非常にあるわけですよ。南が欲しい、やっぱり南に出ていきたいとなる。実はねロシア軍ってここにも駐留しているんですよ。なので、もうちょっとでこれが繋がってウクライナが完全な内陸国になればもう海に出て行けない。そうなればウクライナが本当に弱まってしまって、ロシアにとって脅威ではなくなる、そういう狙いがあるんだということですね」
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 ーーー確かにその4州は海に面していますけど、広大な国土を持っているロシアからしたらすごく小さなエリアなのではないかと思うのですが、それでも欲しいということですか?
 「それがいかにも日本的な反応なんですよね。私達からすれば『こんなに広い面積を持っているからいいんじゃないか』とつい思うでしょ。ロシアにしてみると、逆にものすごく面積が広いということは、国境線がものすごく長いわけですよね。その国境線を守るのが大変なんですよ。つまり『いつどこから攻められるかわからない』という恐怖心を実はロシアは持っているんですね。事実、例えばナポレオンがモスクワに攻め込んできたということがありました。いきなりヨーロッパからナポレオンが攻めてきたわけでしょ。あるいは日露戦争で日本と戦ったでしょ。あるいは1917年にロシア革命があった時に、ロシア革命を潰そうとして周りの国々が軍隊を送り込んだんですよ。日本史で『シベリア出兵』って習いませんでしたか。なんでシベリアに日本軍が出兵したかというと、ロシア革命を潰そうとしたんですよ。だけど結局、あの時はロシアの中でロシア革命を成功させようという軍事組織が赤軍ですよね、それに対してこれまで通りのロシアを守ろうというのが白軍、言ってみれば紅白の内戦状態になったわけですよね。日本は白軍を応援するためにシベリアに軍隊を出したんですよ。だけど結局、赤軍が勝ってしまって、日本軍が引き上げる時に日本と一緒に戦っていた白軍の人たちが北海道に亡命してきたんですよ。だから北海道には『白系ロシア人』という呼ばれる人たちがいる。白系の“白”って白人じゃなく“白軍系”という意味なんです。その白系ロシア人の中には野球好きな人なら知っていると思いますが、スタルヒンという名投手がいます。スタルヒンって白系ロシア人なんですよ。だから旭川にある球場の名前って『旭川スタルヒン球場』でしょ。日本がシベリアに出兵した結果、白系ロシア人が北海道に住むようになった。そして第二次世界大戦はドイツに侵略を受けたわけでしょ。2600万人も死んでいるんですよ。つまり、あれだけなまじ広いためにですね、国をとにかく守るのに汲々としていてとにかく怖い。だから『近くに脅威のある国があってはいけない。自分の言うことを聞く国にしておこう』という、こういう思いがウクライナに対してもあるということなんですよね」
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 ーーー海岸線を手中に収めて、ウクライナが内陸国になって弱体化するとわかったら、プーチン大統領にとってこの紛争をやめる落としどころになる?
「プーチン大統領としては『とにかくウクライナはそもそもロシアの一部なんだ』という発想がずっとあるわけです。さらに言うと『ドニエプル川』という川があります。ドニエプル川と私達は習っていましたけど、ドニエプル川ってロシア語読みなんですよ。ウクライナ語では『ドニプル川』というんです。このドニプル川の東側も元々ロシアで、小さいロシアと書いて『小ロシア』と。ロシアからしてみるとここも自分たちのものだと思っているんです。一方、こちら(南西側)はポーランドが占領していたので、ガリツィア地方というんですけど、ここはしょうがないなと思っているんですよ。だからプーチン大統領としての思いというか願望としては、とにかくここ(4州)を全部押さえ、さらにはここ(ドニプル川の東側)にも大きな影響力を持ち、ドニプル川から向こう側(西側)は小さく弱くなったウクライナとして存在していてもいいだろうという、まだまだ長期戦略の途中経過だということなんですね。北方領土に関してはとりあえず歯舞と色丹は返すと約束はしていますよね。約束はしていますけど、要するにその北方領土にアメリカ軍が駐留するということをロシアは恐れている。日米安全保障条約で日本が実効支配しているところについてはアメリカ軍が守るということになると、アメリカ軍とギリギリ国境を接するようなことはやっぱりロシアにとっては怖くてしょうがないということなんです」
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 ーーーロシアが核兵器を使用する可能性はあるのですか?
 「やっぱりみんな本当にそれを心配していますよね。プーチン大統領に忠誠を誓うとされているロシア南部にあるチェチェン共和国のカディロフ首長という人がいるのですが、何で“首長”と言うのかというと、元々ロシアっていろんな共和国があってみんなそれぞれ大統領がいるんですよ。“ロシア連邦”なので、連邦を構成するそれぞれの国に大統領っているんですね。ところがこのカディロフ首長という人はプーチン大統領のゴマをすって、『大統領は1人だけでいい。私は大統領と言わない首長と言います』と。いわゆる戦術核兵器という、巨大な爆弾ではなくて小規模な原爆を使ったらどうか、みたいなことを言っているんですけど。でもね、じゃあどこにやるのというと、今戦っているところというと、いずれロシアにしてみればウクライナの部分をロシア領にしたいわけでしょ。あるいは仲間にしたいわけでしょ。そこに原爆を使ったら将来ロシア国民にしようという人に対して原爆を使いますかという話だし。この辺りはずっと偏西風=西の風が吹いているので、ここに原爆を落とすとロシアに放射性物質がいっぱい行くんですよ。というふうに考えると、現実的に核兵器を使うということは非常に考えにくい。ただし、人里からうんと離れて誰も住んでいないようなところで、いわば核実験的にやってみて脅すという可能性はまだ残ってはいるけど、実際に戦争で使うということはちょっと考えにくいと思いますね。実はアメリカなども、もし核兵器を使った場合、これも本格的にウクライナにいるロシア軍に対してNATO軍が攻撃をするぞという、そういう脅しを実はかけているんですよ。それがある種の抑止力になるのかどうなのかということですね。だけど、プーチン大統領の演説を見るともうこれから徹底的だと、言ってみれば第三次世界大戦になっても構わないくらいの演説を先日はしているんですよ」

 ーーーそうなるとロシアは孤立するのでは?
「実はロシアって自給自足ができるわけですよ。石油も天然ガスもいっぱい取れるわけでしょ。だから食料もあるわけですよね。つまり、これから少なくとも2年3年は継続できる」

 ーーーロシアでも国外逃亡者がいるとか、国内で反発は強まっているのでは?
「逃げてくる人に関しては私達が報道をするから見えますよね。逃げてくる人が見えるんですけど、国内で愛国心から『よし軍隊に出よう』という人もいるんですよ。そういうことがなかなか見えてこない」

 ーーー空港に殺到したり検問に殺到したりしてジョージアに逃げていった人たちは一部ということですか?
 「一部とは必ずしも言えないですけど、確かにそういうことが大きなニュースになりますけど、でもロシアのために戦うんだという人もまたいるんだということですね。さらにロシアにしてみれば、かつてソ連の時代にドイツと4年間戦って勝ったんだという思いがあるので、まだまだ戦うぞと。プーチン大統領にはそういう思いがある。だけど一般の国民がこれから耐えられるかというと、そこはやっぱりちょっとよくわからないところではありますよね」

プーチン大統領が待つ“冬の到来”と“アノ人の再来”

 ーーー『プーチン大統領が冬の到来を待っている』ということなのですが、これはどういった意味なのでしょうか?
 「10月5日にサウジアラビアなどのOPEC(石油輸出国機構)が『石油の生産を削減する』ということを言ったでしょ。それによって石油の値段がポンと跳ね上がりましたよね。実はロシアはOPECには入っていないのですが、OPECと一緒に共同で石油の生産については削減など足並みを揃えるということがあるんです。このところロシアはとにかくサウジアラビアに働きかけて『石油を削減しろ』と言っていて、それがその通りになったんですね。つまりこのところ実は石油の値段は下がっていたんですよ。それが今度は削減するということになって急にまた石油の値段が上がった。さぁヨーロッパはこれから大変ですよね。冬を越すのが大変だということになると、ヨーロッパの中で『もういい加減ロシアに対する経済制裁はやめようよ。自分の国が1番だよ』という、そういう動きが出てくることを実は狙っているんだということですね」

 ーーー自分たちがしんどい思いをしてまで経済制裁をするよりも、自分の国のことが第1でいいんじゃないか。そういう考え方になるのではないかと?
 「そうやってヨーロッパで足並みが乱れることを待っている。だからあと2年くらいは頑張るということなんですよ」
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 ーーーまたプーチン大統領はトランプ前大統領の再来も待っているということですが?
 「トランプ前大統領って、実は今回ロシアがウクライナに侵攻する前の段階でウクライナの国境沿いにロシア軍を展開したときに、実はトランプ前大統領はプーチン大統領のことを絶賛していたんですよ。天才的である、見事であると。つまりウクライナにああいう形で圧力をかけるということがすばらしいことだと実は絶賛していたんですよ。それが実際にウクライナに侵攻した途端、絶賛することは言わなくなったのですが、プーチン大統領のことを決して悪く言っていないんですよね。一切悪口は言っていないんですよ。トランプ前大統領って元々アメリカファーストでしょ。だからトランプ前大統領あるいはその周辺は要するにアメリカファーストだと。『なんであんなにウクライナに支援をするんだ。ウクライナはヨーロッパに任せればいいじゃないか。アメリカがそんなことをする必要はない』と言っている人たちがいっぱいいるので、2024年にもしトランプ前大統領がまた当選すれば、おそらくウクライナに対する支援をやめるんじゃないかと。だからプーチン大統領としては、2024年まで耐えれば本当にあの欧米の足並みが乱れてしまって自分たちが勝てるんじゃないかという、こういう長期戦を念頭に入れているということをとりあえず知っておいた方がいいだろうということです」

2022年10月07日(金)現在の情報です

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