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【解説】建築火災専門家に聞くガソリン火災『黒煙15秒で充満』『スプリンクラーも間に合わない』有効な対策には"課題"有り

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12月17日に大阪・北新地のビルで起きた放火殺人事件で思い知らされることになったガソリン火災の恐ろしさについて、建築火災に詳しい京都大学の都市空間工学講座・原田和典教授に話を聞きました。

実験すら難しいガソリン

―――まず現場の火の勢いがどのようなものだったのかについて。ガソリンと同じ可燃性液体を使った燃焼実験の映像があります。これはガソリンそのものを使って実験をするというのは難しいのですか?

(原田和典教授)
「本当はガソリンでやりたいんですけれど、我々自身としてもですね、ガソリンを使って火災の実験をするというのは非常に危険なことだと思っています。なので残念ながらまだまだ私自身も経験がありません」

―――経験値のたくさんある方々が気をつけながらでも、ガソリンを使った実験というのはそれだけ危険を伴うことというわけですね。

アルコールと潤滑油での燃焼実験

着火スピードがガソリンに似ているアルコールを使った(一財)日本建築総合試験所の実験映像、そして火柱の高さがガソリンに似ている潤滑油を使った(一財)電力中央研究所による実験の映像があります。

アルコール燃焼実験です。水溜まり状にアルコールが付けられているのですが、そこに火を近づけるとすぐに炎が上がっていくのがわかります。そしてその後ですが、火は勢いを失うことがありません。数秒で火柱が高く上がる様子が見られ、勢いを失うことなく燃え続けています。
Blackmagic HyperDeck Studio Mini_0017-002126701.jpg
一方、潤滑油の燃焼実験です。大きな炎とともに黒く濃い煙が上がっています。この動画では真っ黒な煙が大量に立ち上る様子が見られます。これはガソリンではないのですが、火の勢いや煙の上がり方をシミュレーションした映像です。やはり火の強さというのは凄まじいものがありそうです。

煙はどれくらいの早さで広がったのか

―――では、ガソリン火災のあったフロアで、煙はどのくらいの勢いで充満したのか、原田教授のシミュレーションです。ガソリンが床に広がった面積を直径50cmとした場合、火力が調理用コンロの80倍だといいます。ガソリンが床に広がった面積が直径50cmよりも広いということも考えられますが、そうなった場合、この火力というのはどう変わっていくものですか?

(原田和典教授)
「これ大体50cmというのはちょっと遠慮がちに想定した大きさですね。もし撒かれたガソリンがペットボトルぐらいのものから撒かれたとしたらもうちょっと広がるんじゃないかと思いますが、ちょっと少な目に想定しています。だいたい直径の4倍ぐらいの炎の高さになりますので、例えば1m四方に広がったら、高さ4mで天井にも軽く届くような非常に大きな炎が立ち上がります」

―――原田教授の今回のシミュレーションでは、直径50cmにガソリンが撒かれた場合、炎の高さは2.1mとされています。それでも人の身長を優に超えるような高さまで炎が上がるということが予想されます。そして気になるのが、原田教授のシミュレーションでは、15秒でフロア全体の天井部分に煙が広がり、2分でフロア全体の床面近くまで煙が充満するとされています。15秒でフロア全体の天井部分に煙が広がった場合、そこにいる人は何ができるのか、何ができないのか、どんな状況なのでしょうか?

(原田和典教授)
「先ほど実験の映像で見ていただいた通り、液体燃料に火が付くとアッという間に火が立ち上るんですね。そうしますと、もうそこからものすごい勢いで煙が発生します。煙が発生すると怖いと思っているうちに煙は下がってきて自分の顔のあたりまで来てしまうので、ほとんど何もできないと思うのが正しいかと思います。せいぜい燃えているところから少しでも遠ざかろうとして逃げるといったところが限界かなと思います」

―――京都アニメーションの時は、同じガソリンを使った放火でしたが、あの時は爆発が起きたというふうに聞いたと思うのですが、今回はそういう爆発という話は届かないんですけれども、それは何か条件が違うということなのでしょうか?

(原田和典教授)
「そこはちょっと情報が無いのであまりよくわかりませんね。爆発しなかったというのは、もしかしたら燃料の量が少なかったのかもしれないですね。そこはまだ詳しいことはわからないです」

ガソリン火災への対応策は?

―――ではこういう状況の中で我々ができることは何なのか。もちろん限りがあることではあるのですが、ガソリン火災への対応をどうすればいいのか。スプリンクラーは表面温度が60℃になると作動するものなのだそうです。火元から遠いと間に合わないということで、ガソリン火災への対応としては、原田教授はバツ印を付けています。

(原田和典教授)
「バツというか、やっぱり最初の立ち上がりですね、炎の立ち上がりが非常に早いですから。その時にスプリンクラーが反応して実際に水が出てくるまで少し時間がかかりますね。その時間の中で炎は大きくなるし煙も溜まってくるしということで、水が出て火が小さくなる前に、煙が部屋の中が充満してしまうということになりかねない。ということで、実際に部屋の中にいる人を助けるためには、少し効果が足りないのではないかと私は思っています」

―――煙が充満した場合、屈むのが有効なのでしょうか?

(原田和典教授)
「もちろん煙が下がってきますから、なるべく低いところに行くというのは、助かる確率・可能性を増やすために重要なことだと思います」

―――できるだけ腰を落として移動する“ダックウォーク”というものが求められていたり、場合によっては床を這いながら、口をもし塞げるのであれば塞ぎながら動く、そういったことが求められています。そして原田教授は消化器にもバツを付けています。消火器はプロでも扱いが難しく、ガソリンの炎を消すのは困難ということです。やはりガソリンの火という特徴がここにも表れているようです。

“階段2つ”の課題

―――では有効な対策はあるのでしょうか、原田教授が示す有効な対策は『階段を2つ造る』ということです。避難用階段を後付けした例もあるということです。現在の建築基準法(1974年~)では6階建て以上のビルは避難用階段が2か所以上必要となっていますが、今回のビルのように1974年以前に建てられた建物は適用外で、階段は1つしかありませんでした。後付けすることが可能だといっても、それが全ての立地においてできるかどうか、誰がそのお金を払うのか、いろんな問題が出てきそうです。古い建物や5階以下の建物でも階段を2つというのを徹底するには課題があります。建坪が減り、維持管理にコストもかかる、それでも良いとするのか“社会の合意”がポイントだということですね。

(原田和典教授)
「現実には経済的なことを考えると非常に難しいとは思います。今回も90平方メートルしかないような建物で、階段を1つ造ると15平方メートルぐらい使っちゃうんですね。そうすると、どんどんどんどん使える面積が減るので、これは大変なことになります。けれどもやっぱりたくさんの人がいる建物で、階段が1つしかないといったものを、だんだん減らしていくということは私は大事だと思います。法律では階段が1つでもいいよと言ってるところであったとしても、放火が心配されるような建物であればなるべく。階段を後付けした例では、バルコニーの横に鉄骨の螺旋階段を付けたような形ですけれど、このような努力をしている建物もあるんですね。ですから、全くできないというわけではなくて、地道なことなのですけれども、階段が1つしかない建物の数を減らしていく、そういった努力が社会全体として必要かなと私は思います」

コロナ対策で防火扉を開けるのは危険

―――原田教授は今回の現場にも行かれたそうで、そこで気づかれたことがあるそうです。上の階への煙の広がりの形跡が見られたと。ここにはコロナの影響があるのではないかと。換気のために防火扉を開けていたのか?この辺りから読み取れることは何ですか?

(原田和典教授)
「4階よりも上の階のところで、階段部分の外壁にある窓から真っ黒な煤が付いていまして、4階から発生した煙が階段の中を通って5階6階と上がっていった跡があります。実際に5階6階で逃げ遅れた方がはしご車で救助されていますけれども、実はこれは非常に危なかった状態だと思います。もうちょっと煙がたくさん入ってきたら、上の階の方も危ない状態になっていたんじゃないかと思います」

―――今回、防火扉は開けられていたわけなのですが、なぜ開けられていたのか、まだわからない部分も多いです。原田教授は、消防点検で閉めておくように指導された防火扉は閉めておく、これが原則であると。換気は他の窓で行ってほしい、こういったことを呼びかけています。

2021年12月22日(水)現在の情報です

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