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「ベタベタして流れない」トランプ政権なぜ"質の悪い原油"狙う? 米国のベネズエラ介入を石油事情から分析...見えてきたアメリカの都合【JOGMEC 野神氏の解説】

解説

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2026年1月、アメリカのトランプ政権は突如としてベネズエラへの軍事介入を実施した。理由は麻薬対策とされているが、多くの専門家が指摘するのは、背後にある石油利権だ。世界最大の石油埋蔵量を誇りながら産出量では低迷を続けるベネズエラ。なぜアメリカはこのタイミングで動いたのか…。世界の石油事情に詳しい「独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構」の野神隆之首席エコノミストへの取材から、アメリカの事情が浮かび上がってきた。

矛盾を抱える世界最大の石油埋蔵国

ベネズエラは第二次世界大戦、その前から石油大国として知られ、アメリカの石油資本が入って開発を進めていた。石油の埋蔵量は約3000億バレルとされる。

「ベネズエラは石油の埋蔵量から見ますと、サウジアラビアを超えて世界第一位という、世界最大の石油埋蔵国と言われているところです」

野神隆之首席エコノミストはこう説明する、だがベネズエラの日々の産出量は約96万バレルに過ぎない。アメリカの2014万バレル、サウジアラビアの1086万バレルと比較すると、その差は歴然。ピーク時の1970年代には日量375万バレルを産出し、世界のトップクラスに位置していたベネズエラだが、今や世界の石油総供給量の1%にも満たない。

チャベス大統領 反米左派政権の誕生

この背景にあるのは1999年のチャベス政権の誕生だ。反米左派のチャベス政権ができた当時のベネズエラは、「貧困層はスラム街みたいなところに押し留められ、まともに電気も購入できなかったので、結果的に電気を盗んでいた」などと、貧富の格差が激しかったという。

「ベネズエラ産の石油はあまり質がよくなかったので、アメリカの石油会社が安く仕入れ、技術でガソリンや軽油を生産して高く売った。結果的に収益を得ていたのはアメリカ、そういう感情的なものがベネズエラ国民の中で広がった面はありました」

野神氏はそう指摘する。チャベス大統領は支持層である貧困層が恩恵を受けられるような政策を実施。社会資本の充実、インフラの整備――石油産業の収入は貧困層対策に使われていった。

石油産業衰退のもうひとつの理由

さらに同政権は、2007年に石油産業へ国の関与を強化。外国の会社にベネズエラの会社との合弁などを求め、権益の比率はベネズエラ側が過半数をとれるといった条件を突きつけた。これに反対したアメリカの一部石油企業は資産を接収されて、司法に訴えたケースもあったという。

――トランプ大統領の言う「アメリカの技術が盗まれている」はこのことを指すのですか。

「そうですね。一生懸命開発を行ったのにそれを接収したということで、アメリカ企業に損失が発生したということもトランプ氏は意識していたように思います」(野神氏)

ベネズエラの産出量がずいぶん減ったのは、貧困層への施策によって石油事業への再投資が行われなかったことと、アメリカ企業の撤退の計2つの要素がある。こうして、ベネズエラの石油産業は衰退の一途を辿ったとみられる。マドゥロ政権も似た流れとなり、石油産業への国の関与を強化していた。

トランプ政権が狙う「質の悪い原油」

ベネズエラ産の原油は、おそらく世界一質が悪い、と野神氏は説明する。

「どれくらい悪いかといいますと、流動性が悪い、ベタベタして流れない。イメージとしては、アスファルトのベタベタした石油状の素材を思い浮かべていただければ…そのままタンカーに入れたらベタベタして出てこない」

一般的に、原油は蒸留という過程で精製される。原油を熱して蒸気にしてから冷やして液体に戻る過程で、温度ごとに成分に分けられる。ただ、ベネズエラ産の原油を単純に蒸留すると、船舶や工場など用途の限られる「重油」が多くできてしまうという。

現代で求められるのは軽油やガソリンで、高度な精製技術を持っているのが、アメリカのメキシコ湾岸の製油所だ。歴史的にベネズエラ産の原油を安く買い、コストをかけて蒸留・分解の処理をし、付加価値の高い石油製品を製造する――これがアメリカの石油産業の収益モデルだった。

米国なぜ他国の原油が必要なのか? 

こうした歴史を踏まえ、野神氏は、今回のベネズエラへの攻撃について、こう分析する。

「麻薬問題への対応というのは理由の一部で、それだけをもって攻撃したとは考えにくい側面があります。」
「最近のトランプ大統領の発言から判断しますと、アメリカの石油会社のベネズエラへの再進出を含めて、ベネズエラの石油産業の再建といった話を強調している側面がある。アメリカの石油会社によるベネズエラの石油産業再建というのも重要な目的の一つになっているものと見受けられます。」

――世界一の産出国のアメリカが、なぜわざわざ他国の、しかも質の悪い原油が必要なのか。こう聞くと野神氏は、アメリカで質の高いシェールオイルが大量に生産されていることも一因と読む。

「シェールオイルは品質が良すぎて、メキシコ湾岸の製油所では経済性が損なわれてしまう。シェールオイルは輸出し、メキシコ湾岸の製油所では質の悪い原油を安く仕入れて、品質がよく高く販売できる石油製品を製造するということをやってもらう、そういうところからベネズエラの石油を狙っている側面があると思う」

なぜ20年近く経って行動を?

――2007年にチャベス政権が強化を強めたことが、メキシコ湾岸の製油所を「遊ばせてしまった」きっかけだというなら、なぜ20年近く経った今、行動を起こしたのか。

「それは多分にトランプ政権だから、だと思います。過去にもベネズエラの政権批判、処置を強めることはありました、とはいえ、軍事力で対応するというのはあまりにも乱暴ではないかというような意見というのが大勢を占めていました。」


「比較的トランプ大統領は、考えていることを行動に移すという特徴が見られ、イランの核施設攻撃なども一例かと思います。」

支持層アピール、金利引き下げの狙いも?

ただメキシコ湾岸の製油所が持ち腐れとなる、といってもそれは民間企業のこと。これだけバックアップするのはなぜなのか。

「トランプ政権の支持層は、いわゆるラストベルトだけでなく、もう一つの支持基盤が石油産業であり、活性化を図るため、ベネズエラに圧力を加えているということになります。」

さらにこんな流れもあるかもしれない。ベネズエラからの石油供給が拡大すれば、原油価格は下がることになるが、いっぽうでアメリカでのガソリン小売価格も下がって物価高対策になり、トランプ政権支持基盤に恩恵が出る可能性がある。

アメリカで物価が抑制されれば、政策金利を引き下げやすくなり、物価上昇の沈静化を図れるかもしれない。政策金利が下がれば消費が上向いて、経済が活性化することもあり、そうなればアメリカ国民にとって恩恵となる。こうした成果を中間選挙でアピールできる、そのあたりも狙っているのでは?と野神氏は分析した。

中国の動きは?ベネズエラの今後

ベネズエラ産の石油を主に買っていたのは中国だ。中国としては困ったことにならないのだろうか。

「量的に大きな影響はないと思うのですが、中国も安く買っていたというから、そこの経済性が損なわれるというのはあるだろう。友好関係を強めつつあったところをアメリカが奪い返す格好になってしまったということで、アメリカに対しての批判というのを強める可能性はあるかもしれない」(野神氏)

ベネズエラの今後をどう見るか。暫定大統領に就任したロドリゲス氏は、マドゥロ政権の副大統領だった人物で、当初はマドゥロ大統領の返還を求め、アメリカと対立する姿勢を見せたが、その後やや融和的な姿勢に転じている。

「ロドリゲス氏が先導する政権というものが、果たして一枚岩になってアメリカと融和的にその協力していけるかどうかというところについては不透明感が残っているということなので、そこの部分はなお監視しておく必要があるかと思います。」

アメリカの動きがベネズエラで終わらない可能性はあるのだろうか。野神氏は、西半球という観点で気になるのはコロンビアだと述べる。

「トランプ大統領が、ベネズエラに次いで気にしてるのがコロンビア。産油国としては小規模だが、開発次第では生産を拡大できるポテンシャルがある。もしかしたら介入して、場合によっては政権を事実上交代させる、ないしは変化を促す。その結果として、石油の生産を拡大させていく、というところが西半球の中であるかもしれません。」

今回の攻撃には、麻薬対策という表向きの理由のほか、石油利権、支持基盤への配慮、地政学的思惑、複数のアメリカの都合が重なっているのかもしれない。ベネズエラの未来は依然不透明だ。

2026年01月10日(土)現在の情報です

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