2025年12月16日(火)公開
【税制改正大詰め】税負担は増える?減る?高市総理の思惑と見えてきた"矛盾点"とは 年収の壁「178万円」は実現しても年収200万円以下に限定か
解説
今年も残すところ約2週間となった中、来年度の予算を決めるための「与党税制改正大綱」の策定が大詰めを迎えています。 「年収の壁」の引き上げや住宅ローン減税の延長など、「責任ある積極財政」を掲げる高市総理らしい減税案も出ている一方で、防衛費のための増税案なども出ています。 高市政権はどんな財政政策を狙っているのか…。ジャーナリスト・武田一顕氏と、野村総合研究所・木内登英氏へ取材した内容を交えてお伝えします。
「責任ある積極財政」は矛盾している?
高市総理が掲げている「責任ある積極財政」という言葉。「責任ある=お金を使いすぎず・増税」と「積極財政=お金を使う・減税」という2つの言葉が、ある意味で矛盾をはらんだ言葉の組み合わせとなっています。
国がお金を使ったり減税をしたりて市中のお金を増やし、国民に「景気よくお金使ってください」という積極財政は、行き過ぎると借金が増える“放漫財政”になるではないかと指摘をされることもあります。
「責任ある」という言葉の今回の場合の意味は、「お金を使いすぎず、必要なところは、他で節約するか場合によっては増税をして財源を確保する」というもので、高市総理はバランスを取ろうとしています。
税制改正大綱=「税金の仕組みをどう変えるか」

税制改正のプロセスを見ていきます。
10~11月:与党→各省庁の要望、税調での議論本格化
12月:与党→大綱策定 政府→閣議決定
1月:政府→改正法案を国会提出
3月:法案成立
※今年度予算
歳出:115兆円
税収:78兆円
国債:28兆円
税制改正大綱とはつまり、「税金の仕組みをどう変えるか」ということです。増税するのか減税するのか、何を増やして何を減らすかという話し合いが今まさに行われているということです。
注目ポイントの1つ「年収の壁引き上げ」

税制改正で検討されている“減税案”は以下の通り
■ガソリン暫定税率廃止
■購入する自動車の環境性能に応じた税2年間廃止
■住宅ローン減税5年延長 中古物件への支援拡大
■年収の壁160万円から引き上げ
■NISAの対象を0歳からに拡大
■企業への設備投資減税
今回注目されるのが、年収の壁=税制上の扶養控除の壁(103万円)の引き上げです。
去年まで税金がかからない非課税の枠というのが103万円まででした。この額を超えると、原則として所得税を払い始めることになっています。これを国民民主党・玉木代表の主張もあり、引き上げの議論が進み、一番高い枠で160万円に上がりました。しかしこれでも玉木代表の主張とは差があり、さらなる引き上げについての話し合いが来年に向けてなされています。
現段階では168万円までたどり着いた、という話もある中で、178万円もとうとう見えてきたということです。玉木代表の思いはやっと届いたかに見えますが、玉木代表が主張しているのは「一律178万円」にすることです。
![]()
いまは階段方式になっていて、160万円まで非課税となったのは、年収200万円より少ない人です。あとは年収によってこの枠が、153万、133万、128万、123万となり、5段階にわかれています。
「手取りを増やす」というキャッチフレーズで現役世代の人たちに支持をされた玉木代表としては、働いて収入を得ている人の手取りを増やすためにも、一律で178万に上げたいところ。160万円の“壁”が178万に上がるかもしれないというのは、年収200万円以下の人に限られています。それ以外の収入の人たちについての議論の行く先は、今は見えていません。
一方で、高額所得者が恩恵を受ける必要は本当にあるのか、と玉木代表の考えを疑問視する声も上がっているといいます。
![]()
ではなぜ与党が玉木代表の顔色をうかがうような動きをしているのか。衆議院では自民199議席、維新34議席でぎりぎりで過半数233議席に届いているのが現状です。
一方で、参議院では自民100議席、維新19議席で過半数の125議席まで6議席足りていません。誰かに“仲間”になってもらわなければならないというときに、「対決より解決」を掲げる国民民主党は仲間になってくれるのでは、ということで、顔色を見ているのかもしれません。
廃止された経験を生かして生み出された「子ども向けNISA」

他の減税案も見ていきます。NISAの対象を0歳からに拡大することが検討されていますが、一体どういうことでしょうか。
2年前廃止になったのがジュニアNISAで、▽対象は0歳~19歳、▽投資枠は年間80万円、▽非課税総額は400万円、▽引き出しは18歳から、というものでした。
この制度は、途中で必要になっても引き出せず、使い勝手が良くなかったことから普及しませんでした。
その反省を生かして、今回新しく話し合われているのが子ども向けNISAです。
【子ども向けNISA(検討)】
対象:0歳~17歳
投資枠:年間60万円
非課税総額:600万円
引き出し:12歳から
「防衛特別所得税」の新設 復興特別所得税は引き下げも…期間延長で結局増税?

さまざまな減税案が出てきており、市中のお金を増やして景気を良くしてもらおうという狙いが見える一方、“責任ある”というワードも高市総理は使っています。税制改正で検討されている増税案は以下の通り。
1.出国税の引き上げ:1000円→3000円
2.防衛特別所得税を新設
3.超富裕層への課税拡大
4.ふるさと納税の税額控除 富裕層は上限を検討
2の防衛特別所得税とは一体どういうものなのか。おととし3つの税を増税し、防衛費を1兆円以上確保することを決定しています。
■法人税・たばこ税:来年4月から増税→決定
■所得税:2027年1月から防衛特別所得税(1%)※検討
同時に2.1%の「復興特別所得税」を1%引き下げ&延長?
いま、2.1%分ある復興特別所得税の税率を1%引き下げて、代わりに防衛特別所得税1%を新設する案が検討されています。見た目はこれまでと変わりません。税収は増えないのかと思いきや、2037年で終了予定の復興特別所得税の延長が検討されています。そのため、期間延長によって、結果的に実質的な増税となる可能性があります。
追加課税を年収30億円以上→6億円以上へ

次に検討されているのが富裕層への課税です。
現在は年収30億円以上の人には追加課税がありましたが、そのラインを年収6億円以上まで引き下げるというものです。
これまでだと対象者は数百人程度でしたが、新たに2000人ほどが対象になるということです。2027年の所得から適用が検討されていて、数千億円の税収になるということです。
また、ふるさと納税についても変更が検討されています。現在は、年収が高いほど、控除される寄付上限も高くなりますが、新たな案ではその上限を438万円程度にするとしています。
単身や共働きの場合は年収1億円以上が対象になり、再来年から制限するということが検討されています。
見えてきた“矛盾”
増税と減税、責任ある積極財政の両面が今回の税制大綱では出てくるということで、その思惑はどこにあるのでしょうか。
自民党・税制調査会のトップが、今までは“財政規律派”の宮沢氏から、小野寺氏に変わりました。小野寺氏自身の税制への考え方ははっきり出てきていませんが、総理の意向をより反映する人ではないかという見方があります。
トップが変わり、減税と増税のバランスはまだわからないなかで、見えてきた“矛盾”があります。
1つ目は、富裕層への課税強化案と、子ども向けNISA案です。富裕層への課税を強化する一方で、経済的に余裕のある層が利用しやすいNISAで優遇しようとしている。投資を増やしたいという考えと、取れるところから取ろうという考え方が全体で見たときに整合性を担保できるのか。
もう1つは、企業の設備投資への減税案です。
租税特別措置と言われるような、特定の企業もしくは特定の分野、特定の規模の会社を優遇するものは不透明で、無駄があるのではないか、特定の産業の優遇をしているのではないかという批判があります。高市総理は政府効率化省というものをつくるころで、無駄なものはなくしていくと発言していました。
元の考え方が別のとこから出てきている2つの案ですが、設備投資への減税も、特定の産業への不透明な優遇とみられる可能性もあります。
最後は、高校生の扶養控除縮小案と、児童手当や高校無償化案です。扶養控除とい自体が「所得の大きい人の方が得をするもの」とみなされ、それを少なくして給付へ移行していくのだという考え方があるといいます。
そうした考え方の一方で、児童手当を1回2万円給付したり高校無償化も進めるということで、子育てに関する政策の方向性が、まだ見えてきていません。
高市総理が本当に積極財政を実行しようとしているのか、現実路線で少し財政規律も意識し始めているのか、現状ではまだわからないと専門家は話します。
高市総理の信念にもとづく考えなのか、少数与党ゆえにやむを得なくなっているのか。私たちの税をめぐる議論について、今後も注視し見極めていく必要がありそうです。
2025年12月16日(火)現在の情報です
