2025年11月12日(水)公開
出世・保身のため?"本国向け"の戦狼外交か...中国の薛剣駐大阪総領事の過激投稿「汚い首は斬ってやる」そのウラにある"中国の論理"とは?
解説
「その汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」。高市総理に対する中国・薛剣駐大阪総領事の過激なSNS投稿が物議を醸しています。 今回の投稿は高市総理の“台湾有事”をめぐる発言に対して行われたものですが、何がそこまで中国を怒らせたのか。そして今後の日中関係はどうなっていくのか。 薛剣氏への取材経験を持つノンフィクション作家の安田峰俊氏と、ジャーナリスト・武田一顕氏の見解を交えてまとめました。
過激投稿は“通常運転”「言葉のニュアンス理解した上で発信」か

「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない。覚悟ができているのか」
外交官とは思えない中国・薛剣駐大阪総領事のXへの投稿。しかし、ノンフィクション作家・安田峰俊氏によると、これは「通常運転」だということです。2021年夏、薛剣氏は現職に着任して以来、強い言葉”をSNSで発信しています。その矛先は、日本だけではありません。
▼「過激な反中マインドに駆られているこのマスゴミが益々発狂!!!」(2021年)
▼「ハエがウンコに飛びつこうとする西側子分政治家」(2021年)
▼「好戦的なアメリカ様、破壊王として世界中で紛争を追求している」(2023年)
安田氏によると、薛剣氏は日本語が堪能で、こうした言葉の意味・ニュアンスを理解しているだろうと言います。ほかにも、中国の外交関係者の過激投稿が…
▼呉江浩駐日大使「中国との分裂に加担すれば、日本の民衆が火の中に連れ込まれる」(2024年)
▼趙立堅外交官「愚か者よ、新疆は中国の領土だ。中国語を学ぶのは当然だ」(2019年)
「典型的な戦狼外交」Xという“おもちゃ”にハマっている?

こうした過激投稿の背景には、中国の外交方針の変化があります。
2010年代以前、中国の国力が今より強くなかった胡錦濤国家主席の時代までは、国際社会での信頼獲得を重視する「低姿勢・協調型」でした。しかし、2013年以降、習近平国家主席の時代になると、「戦闘的・攻撃的」な外交=戦狼外交(せんろうがいこう)へと変化しました。
この方針の下で、中国の外交関係者たちは、自身の出世・保身のため、「ちゃんと戦狼外交をやっていますよ」とアピールする、いわば“本国向けに”過激になる傾向にあるということです。実際、過激な発言をしていた人が本国に戻って出世しているケースもあるといいます。
つまり、中国政府がこうした投稿を“推奨”しているという側面があるのです。
今回の薛剣氏の発言も「典型的な戦狼外交」で、大使と同クラスの地位とされる駐大阪総領事を叱る人もいないのでは?と安田氏は指摘。また、1日100件近く投稿するくらい、Xという“おもちゃ”にハマっていると思われる節もあるようです。
ただ、普段は気さくで紳士的な一面もあるということで、戦略的に過激な発言をしている面もあるのではないかといいます。
中国「これまでと違う!」存立危機事態めぐる高市総理の発言に反発
何に対して中国側は怒っているのか?
「台湾は自国の領土」と主張する中国にとって、台湾問題=内政問題という立場です。一方、現在の台湾の与党である民進党やその支持者らは「台湾人としてのアイデンティティー」を持っています。
こうした、台湾・中国の関係に対して、日本は、中国の立場を「認める」とは言わないが「理解し尊重」する=「あいまい戦略」をとってきました。何か問題が起きたときに、立場を明言しないという態度です。
安倍元総理が「台湾有事は日本有事」と発言したのは総理退任後の2021年であり、総理という立場では、台中関係は“グレー”とするのが基本方針でした。
ところが、従来とは毛色の違った発言をしたのが高市総理です。11月7日、“台湾有事“をめぐって野党側から「どういう場合が存立危機事態か?」と質問された際、高市総理は「戦艦を使って武力の行使を伴えば、存立危機事態になりうる」と答弁しました。
(※動画では“台湾有事”をめぐる高市総理の発言日について10月7日と表記していますが、正しくは11月7日です。)
つまり、「何か問題が起これば台湾の味方をする」と総理の立場で発言し、これに対して中国は「これまでと違う」と反発したというわけです。
※存立危機事態=密接な関係にある他国が攻撃され日本の存立が脅かされる事態。集団的自衛権を行使できる。
中国「APECで“会ってあげた”のに台湾に首を突っ込んだ」

今回の件、実は前段がありました。
高市総理の誕生を受けて、中国外務省は10月21日の会見で、「中国と日本が歩み寄り、歴史や台湾などの重大な問題に対する政治的な約束を守り、両国関係の政治的な基盤を維持するよう望む」と発表。これは岸田氏・石破氏の総理就任時にはなかった出来事です。
その後、10月31日、APECでの日中首脳会談が実現しました。これを中国の立場で見ると、「高市総理が歴史問題・台湾問題で前政権と同じ方針を取りそうだから“会ってあげた”」となるのです。一方、今回の高市総理の発言を受けて、中国は「会ってあげたのに!」と反発しているということです。
ジャーナリスト・武田一顕氏によると、中国の対日政策の重要度は、
(1)台湾問題
(2)歴史問題(靖国参拝など)
(3)経済
で、政府は自らが最重要と考える台湾に「日本が首を突っ込んだ」と認識しており、それが今回の薛剣駐大阪総領事の発言につながったと考えられます。
高市総理は10日、存立危機自体に関する答弁について、「最悪のケースを想定した答弁。従来の政府の立場を変えるものではない。今後は特定ケースの想定の明言は慎む」と発言。「総理とした不慣れな発言だった」(安田氏・武田氏)という見方もあるようです。
今後の日中関係どうなる?

今後の日中関係はどうなるのか?
▼レアアースなど供給停止
▼インバウンド減少
▼日本人駐在員の拘束リスク
▼海産物など貿易全般の打撃
など、最も懸念されるのが経済面の影響です。
従来、こうした中国との関係に懸念が出たときには、中国とのパイプがあると言われている公明党がフォロー役を担っていましたが、連立解消によりそれは期待できません。
現状は、発言を撤回すれば保守派の反対にあう、一方、撤回しなければ問題が拡大するという状況ですが、今後の中国の動きを注視しておく必要がありそうです。
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