2025年11月10日(月)公開
【立花孝志容疑者の勾留決定】起訴へのハードルは高い?捜査のカギを弁護士が解説 「名誉毀損」でも罪問われないケースとは
解説
名誉毀損の疑いで逮捕・送検された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者(58)。警察によりますと、立花容疑者は去年12月、選挙の街頭演説で、竹内英明元兵庫県議のに対し、「警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」などと発言したほか、竹内元県議が死亡した後も嘘の情報を投稿。竹内さんの名誉を生前、そして死後も毀損した疑いが持たれています。警察が逮捕に踏み切った理由、そして今後の捜査のポイントについて、刑事弁護に注力し、企業法務も手掛ける川崎拓也弁護士(京都大学客員教授・大阪大学非常勤講師)に聞きました。
百条委~選挙~逮捕までの経緯

立花孝志容疑者は2023年、NHKの契約者情報を不正入手しネットに投稿した罪などで懲役2年6か月、執行猶予4年の有罪判決が確定し、現在は執行猶予期間中です。
12月に行われる静岡県伊東市長選挙への出馬を表明する中での逮捕となりました。これまでの経緯(告訴状などによる)を振り返ります。
・2024年6月 竹内県議(当時)が百条委の委員に
・2024年11月 兵庫県知事選の翌日、竹内氏が県議を辞職
・2024年12月 立花容疑者が街頭演説で「(竹内県議が)警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」などと発言
・2025年1月18日 竹内元県議が自宅で死亡 翌日、立花容疑者はSNSや街頭演説で「お亡くなりになったといっても自業自得」「逮捕予定の方がお亡くなりになられた」などと発信
・2025年6月 竹内元県議の妻が名誉毀損の疑いで刑事告訴
・2025年8月 立花容疑者が「名誉毀損罪が成立するかどうかっていうのはまた違う」「違法性が阻却されるだけの根拠を持って発言をしていますので、不起訴あるいは仮に起訴されても無罪になると確信しています」と発言
・2025年11月9日 名誉毀損容疑で逮捕
名誉毀損とはどういう罪か…侮辱との違いは
まず、名誉毀損とはどのような罪なのか。川崎弁護士に聞きました。
(川崎弁護士)「社会的な評価を下落させるという、名誉毀損罪や侮辱罪などの犯罪類型があります。名誉毀損と侮辱の違いは、具体的なことを適示しているかどうかで、今回で言うと(竹内元県議について)『取り調べを受けている』『逮捕の予定』と具体の内容を適示して社会的な名誉を貶めたということになると名誉毀損で、侮辱よりもやや重い類型となります。ただし刑法全体で言うと、どちらも相対的には軽い類型の犯罪です」
立花容疑者が逮捕された9日、竹内元県議の妻は以下のようにコメントしています。
「刑事告訴を出して以降どうなるのか不安、心配もありましたが今は、ほっとしております。またこの先、本当に同じことが繰り返されてはいけないと思いますし、これ以上の犠牲は生まれてほしくないというふうに思います」
「身体拘束は、冷静に考えないといけない側面」

今回の逮捕について兵庫県警は、政治活動の自由は最大限に尊重されるべきだと認識しているとした一方で、逃亡・証拠隠滅を懸念して逮捕に至ったということです。また、捜査関係者によると、立花容疑者が10月末にドバイに渡航していたことを把握しているということです。
立花容疑者が党首を務めるNHK党の浜田聡氏はXで、(弁護士の言葉を引用して)「これだけ任意出頭してきた被疑者を逮捕する必要があるのか?」と投げかけています。
これについて川崎弁護士は「身体拘束をしていいかどうかは、冷静に考えないといけない側面はある」と指摘します。
「身体拘束する時に重要なのは、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるかどうか。任意出頭を繰り返している被疑者は基本的には捜査に協力しているので、そのような中で逮捕する必要があったのか。ドバイへの出国も、こっそりと何か準備をしているといった事情があったなら別ですが、出国すること自体は自由なので、それが果たして逃亡と具体的に言えるのかどうか、この辺りは弁護士の目線で言うと微妙」
名誉毀損…公益目的なら罪に問われないケース

今後の捜査のポイントは。川崎弁護士は、今回の容疑についてはまず「生前」の名誉毀損と「死後」の名誉毀損を分けて考える必要があるとし、生前の名誉毀損については、「真実であっても虚偽であっても成立する」ということです。
ただし罪に問われないケースもあるというのです。
「社会的名誉を貶めたとしても、公共性のある事項に関して、もっぱら公益目的で、真実あるいは真実だと信じる相当な理由があるような場合には、罪には問わない、と刑法で定められています」(川崎弁護士)
「典型的なのは政治的な発言で、『何か悪いことをしている』と政治家について言うのは、ある意味社会的評価が下落しますが、そこには公共性がありますよね、誹謗中傷ではなくて公益目的だ、となれば免責してもいいですよね、というのが『表現の自由と名誉毀損との一つの取り合い』なわけです。また公務員については、基本的に公共性と公益目的はあるだろうと法は定めています。」
また、「今回は真実ではないんですが、真実(相当)かどうかについて、確たる資料や根拠に基づいてこれは真実だと信じて言っている人に関しては、罪に問えない。」という考えがあるといい、「立花容疑者が争うのはまさに『真実(相当)』の部分だと思います」と分析しています。
今回で言うと、『(竹内元県議が)任意の聴取を受けている』という情報などがそれで、確たる根拠に基づいているのか、どこから情報を取ってきたのか、それは信用できるものなのか、などを客観的に判断していくことになると思うと見立てました。
捜査関係者によると、立花容疑者は取り調べに対して「発言した事実については争うつもりはありません」と供述しているということです。
「死後の名誉毀損」虚偽と知らなければ罪に問われない
いっぽう「死後の名誉毀損」は、生前の名誉毀損とは違い、虚偽の事実を示した場合のみ罪が成立するということです。ただし、虚偽であると知らなければ罪に問われないという点が、ひとつのポイントになりそうです。
「虚偽なのか真実なのかよくわからないけれども、真実かなと思って発言をした場合、その認識がどの程度であれば、有罪にしていいのか、無罪にしていいのか。これ実は判例がなく、正直よくわからないところがある。今回、警察・検察が踏み込んだ背景は予測できないけれども、おそらく立花容疑者が虚偽だと知っていましたということはないと思うので、どの程度の立証ができるのか」が注目だとみています。
勾留が決まった立花容疑者 カギは「有罪の立証」
川崎弁護士は、証拠はわからないとしながら、警察や検察は、ある程度の認識は立証できるだろうという材料があり、一定の相談はしているのではないかとみて、今後のカギは “有罪の立証”だとしています。
「有罪の立証が本当にできるのかどうか、特に情報をどこから取ってきたのかという認識の部分ですね。それに向けて、着々と手続きを進めていくということでしょうね」
9日に逮捕され、10日午前に送検、そして10日午後に「勾留」が決定した立花容疑者。これにより、最大20日間、身柄拘束が続くことになります。
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