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万博の"黒字200億円超"の見方 黒字はあくまで『運営費』会場建設費は当初の約2倍 ではどう活用する?「工事費"未払い"が少なくとも5億円以上」法律がないのがハードルか 誘致段階から取材続ける記者が解説

解説

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 大阪・関西万博の閉幕が迫る中、博覧会協会は万博運営費について、最大280億円の黒字が見込まれると明らかにしました。入場チケットや公式ライセンス商品の売上が好調なことが理由だといいます。 大幅な黒字の達成、ただこの数字だけで単純に成果を判断できない事情がありそうです。誘致段階の2017年から継続的に大阪・関西万博を取材している前行政キャップ・清水貴太記者が解説します。

「黒字200億円超」は本当に黒字か

 もともと万博の運営費は、次のような計画となっていました。

【収入】1160億円 入場券売上:969億円 その他レストラン運営・グッズ売上など:191億円
【支出】1160億円 会場管理・輸送管理(スタッフ人件費やシャトルバス運行費用など)

 それに対して、10月7日に博覧会協会が発表した内訳(見込み)は…

【収入】1389億円 入場券売上:1169億円(+200億円) その他:220億円(+30億円)
【支出】1110億円(-50億円)
→230億円~280億円の黒字が出る見通し

 黒字を後押しした理由の一つは、チケットの売上が非常に好調だったことです。10月3日時点の売上は約2200万枚。損益分岐点、つまり黒字になるかどうかの目安の枚数は1800万枚ですが、それより400万枚多い売上です。

 さらに、公式ライセンス商品(グッズ)の売上が8月末時点で約800億円と好調だったことも挙げられます。

 その一方で、万博では運営費以外にもお金がかかっています。例えば、大屋根リングなど会場建設費の予算が2350億円(※国・大阪府市・経済界 当初計画の1.9倍)、要人警護など警備費が250億円(※国)です。

 万博開催で多くの観光客が来たことによる経済効果なども含めると、プラスのお金が膨らむ可能性もありますが、運営費が黒字でも、それ以外にこうしたお金がかかっていることを知っておく必要があります。

吉村知事「剰余金は大屋根リングの保存に充てるべき」

 では、少なく見積もっても200億円ほどは使えるとみられる黒字分を、どう活用していくべきなのでしょうか。

 吉村知事は7日、大屋根リングを残すうえでの改修費用や維持管理費用に運営費の黒字分を充てるべきだと提言しています。

 保存にかかる費用は大屋根リングの残し方によっても変わってきます。

【保存にかかる費用の試算】
準用工作物(展望台として残す場合) 改修費用:約40億円 維持管理費用:10年で約15億円
建築物(防火設備なども整備し建物として残す場合) 改修費用:約75億円 維持管理費用:10年で約15億円

“工事費未払い問題”に充てられないのか?

 一方で、万博をめぐっては海外パビリオンの建設工事費の未払いが問題となっています。運営費の黒字分でこうした“未払い”を救うことはできないのでしょうか。

 工事費については、11の海外パビリオンで30以上の建設業者が未払いを訴えていて、中には裁判に発展しているケースも。裁判の損害賠償の請求額などから見ると、未払いの金額は少なくとも5億円以上にのぼっているとみられます。

 (清水記者)「未払いを訴える業者の方は、皆さんが楽しんだお金が運営費の黒字分なのではないかと。その楽しんだ背景には、汗水たらして頑張った建設業者の人たちがいた。であれば、未払いで被害を訴えている業者さんに黒字分を補填してもいいんじゃないかと訴えています」

 一方で、博覧会協会や経産省の幹部に取材すると、運営費の黒字分をそのまま未払い被害の業者に補填するのはなかなか難しいということです。

 理由の一つは、博覧会協会と未払い被害を訴える業者が直接契約の関係にないこと。つまり、現時点で博覧会協会側にお金を支払う義務はありません。

 また、運営費を未払い被害の業者に充てられる法律や法令はなく、根拠がないというのが協会側の意見です。

1970年大阪万博の黒字は今も生きている!?

 ちなみに、過去の万博では黒字分をどのように活用したのでしょうか。

 2005年の愛・地球博では黒字が約139億円で、▽愛・地球博の会場を公園として整備するための費用、▽名古屋城復元、▽研究機関や商工会議所の支援に使われています。

 また、1970年の大阪万博は黒字が約194億円。55年前の194億円の価値を考えると、相当な黒字であったと考えられます。

 この黒字は、基金として運用されていて、▽大阪や関西での文化事業の助成金、▽海外からの留学生のための奨学金として、今でも活用されているということです。

 今回の大阪・関西万博の黒字については、経済産業省などで作られる委員会の中で議論されるということです。

2025年10月11日(土)現在の情報です

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