2025年09月22日(月)公開
自民党総裁選 5氏の争い「みんな主張が地味じゃないですか?」 無難に見えるワケは...「真ん中に寄らないと野党と話ができない。少数与党の悲哀です」【ジャーナリスト・武田一顕氏の解説】
解説
自民党では、22日午前10時に候補者の推薦届の受付が始まり、5陣営が届け出を行いました。続く演説会では、5人がそれぞれの主張をぶつけました。
「頑張れば報われるという実感を、現役世代が思えるような日本を作ります。物価や電気代の伸びに所得が追いつかない。そうした現実が目の前にあります。控除のあり方や税率構造を見直すことで、高所得者の方には一定のご負担をいただきつつも、中間層や現役世代をしっかりと後押ししていく。」(小林鷹之 元経済安保大臣)
「私の全てをこの国にささげたい。私が目指すのは、政権の安定です。高度な交渉力によって、基本政策、外交安全保障、エネルギー、そして憲法。政策が一致する政党と連立の枠組みを広げ、政権基盤を固めていきたい。」(茂木敏充 前幹事長)
「(政権の)中枢にいた者の責任を感じながらも、逆にこの経験を生かして、継承の中に変化、革新を求める。『林プラン』を記者会見で発表させていただきました。実質賃金を1%ずつ上昇させていく。これを定着させる。」(林芳正 官房長官)
「高市早苗、奈良の女です。古来の伝統を守るために体を張ります。外国から働き手の方々に補ってもらわなければいけないところがある。これも確かな話です。その通りなんです。だとしても、こういうことはゆっくり進めていかなあきません。」(高市早苗 前経済安保大臣)
「自民党を立て直すこと。そしてみんなで立て直すことだと思います。まず、与野党で合意のあるガソリン暫定税率の廃止に取り組みます。基礎控除等を調整する仕組みの導入や、公的支出や公定価格の是正、あらゆる選択肢を排除せず、政党間の協議を真摯に進めてまいります。」(小泉進次郎 農水大臣)
少数与党 野党と話ができるのは誰?
――12日間の自民党総裁選が22日告示され、想定通りの5人が立候補しました。小渕内閣以降の歴代政権を取材してきたジャーナリスト・武田一顕さんが注目しているポイントはどこでしょう。
武田氏)小泉さん、高市さんが良いところを走っていると報じられていますが、小泉さんはこの週末、裏金議員のことについて、「一度間違いをしてしまったから、一生活躍の場がないのはどうかなという思いがある」と寄り添う発言をして、一般の人からするとやや「?」となっています。
――今は少数与党で他党との連携が必要なので、それで誰を選ぶかっていうことも、関わってきますね。
武田氏)野党から一番人気があるのは実は林さんです。やっぱり非常に優秀で穏やかだから、話がしやすいっていう林さんなんだけども、他党から見たときに一番嫌なのは高市さんで、やっぱりどうしても他党から見ると、話がちょっと通じないのではないか、という見られ方がある。
物価高対策 武田氏「みんな主張が地味じゃないですか?」
――野党から見た評判と、自民党内での見られ方は違うということですね。新しい総裁が「物価高対策」として何をするつもりなのか候補者の主張を確認します。
・小林氏は「所得税の定率減税」
・茂木氏は「地方への特別交付金を数兆円単位」
・林氏は「実質賃金毎年1%の上昇の定着」
・高市氏は「給付付き税額控除」
・小泉氏が「国内投資135兆円、平均賃金100万円を増やす」
武田氏)経済について何かやりたいというのですが、みんな主張が地味じゃないですか。結局、自分たちの主張がそのまま国会で通ると思ってないから、地味なものを出さざるを得なくなるんです。総裁選が今のところ、あんまり面白くなく見えるのはそういうことなんです。
高市さんは、本来はとがった主張する人だから消費税にしても、高市さんは食料品の税率についてはゼロにすると、参院選挙の前は言っていたわけだから「今回も消費税ゼロ」って言えばいいのに、なんか真ん中に寄って無難な方に寄っていくと、結局選挙自体の主張がわからなり、面白くなくなるんです。
――主張を抑えてきているというのは票を取りたいからですか?
武田氏)真ん中に寄らないと票が取れない、そして真ん中に寄らないと野党と話ができない、この二つです。野党と話をしないと補正予算とか通りませんから、それをどうやって進めるのかが最大の課題です。
国会の中で衆議院も参議院も過半数を持ってない自民党と公明党は何かやろうと思ってもできない。それが去年の石破さん(が決まった総裁選)の状況と大きく違うんです。去年の石破さんの総裁選のときは、衆議院でも参議院でも過半数を持っていたが、今回と大きく違うんで、そういうことしか言えなくなっちゃう。
経済の専門家が見た「実現させやすい政策は」
――さて5人の物価高対策を経済の専門家はどう見たんでしょうか。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、「全員主張は一長一短、メリットもデメリットも両方あります」ということでした。
大別すると、「賃上げしましょう」という主張が、(志向が強い順に)小泉さん、林さん、茂木さん。「減税しましょう」という主張が(志向が強い順に)高市さん、小林さんにわかれます。
熊野さんの見立てですと、実現時、効果が最も高いのは賃上げの方が恩恵が大きいということで、小泉さんの案ではないかということです。一方で実現させやすいのはというのは小林さんの案だということです。所得税の定率減税は、「景気を上げるよりは確実だが、調整に時間を要する可能性もあります」ということです。
武田氏)何を言ってもできないんです。それが少数与党の悲哀です。本当はその意味では消費税です。野党と話ができるのも消費税って言えばいいんだけど、消費税って言うと、今度は自民党内がまとまらない。消費税ジレンマがあって、みんな悩んで悩んで、主張しているんです。
きょう演説があったんですけど、高市さんはちょっとエッジの効いた尖ったことを言っていて、奈良の鹿を蹴ってる連中、鳥居にぶら下がってる外国人とか、そういう不法な外国人は摘発しなきゃいけないとか言ってみたりして、高市さんの今後の尖り具合が総裁選の面白さを左右しそうです。
行政学の専門家は「減税減税はお家芸」
神戸学院大学・中野雅至教授)
賃上げから言うと、これは民間企業がやることなので、公約にはならないです。安倍政権があれだけ手を突っ込み「官製春闘」と言われても、持続的な賃上げは、結局企業が見通しを持たない限りは何ともしようがない、最低賃金しか上げられないです。
減税について言えば、戦後の自民党政権で池田内閣は典型ですけど、やっぱり減税減税で、果実を還元することによって人気を得てきたので、お家芸なのである程度できると思いますが、僕が今回ある程度評価するのは高市さんで、給付金つき税額控除は貧困層対策としていいし、立憲も言ってるのでこれは実現可能だと思うんです。
林さんの実質賃金1%も、本当にできるかって言われたら、なかなかしんどいと思うので、定率減税か、特別交付金か、給付付き税額控除の三つの方が実現可能性は高いと思います。
政治不信の払拭 5氏の主張
――さて、政治とカネの問題を巡る「政治不信の払拭」については、
・小林氏が「それぞれの議員が地元で真摯に活動する」
・茂木氏は「(企業団体献金は)公開、透明性を高める」
・林氏は「広報本部の体制強化」
・高市氏は、「全国の党員の声を集めて活かしていけるしくみ作り」
・小泉氏は「政治資金の透明化を徹底する」
武田氏)このへんが、「解党的出直しになっていない」とみんなが思うところで、『変われ自民党』と言っても変わらない自民党ってみんなが思うのもそこです。結局透明性って、前回の通常国会で決着がつきましたよね、っていうのが基本的な自民党のスタンス。だけど一般の国民はそれでは終わってないんだ、って言ってるわけでそこをどう合わせていくかっていうのも、総裁選の一つのポイントであります。
ポイントは「勝負は今週、特に水曜日に注目」
――今後のスケジュールです。23日は共同会見や青年局・女性局主催の討論会があります。24日は日本記者クラブ主催の討論会。26日は愛知で演説会、10月2日は大阪で演説会。そして10月4日の土曜日が投開票となります。
武田氏)党員の選挙は事実上今週で終わっちゃうんです。全部郵送ですから来週頭には発送しないと間に合わない。とすると今週が勝負、とりわけ、24日の日本記者クラブ主催の討論会は2時間やりますし、各社ベテランの政治記者が、トップを走っているとみられる小泉さんをどんどん詰めるでしょうから、そこで何かやらかさないかっていうのもあり、この日本記者クラブ主催の討論会が、事実上最初で最後の大きな決戦になります。
――ポイントは「勝負は今週、特に水曜日に注目」ということです。(MBSよんチャンTV 2025年9月22日放送より)
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