2025年08月20日(水)公開
【米ウ首脳会談】"口論会談"から一転、笑顔も見える友好ムード トランプ氏は会談前「ウクライナの安全保障への関与」を明言 一方で攻撃緩めないロシア「これは認められないという意思表示だと思う」
解説
日本時間の8月19日未明、アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領が会談しました。トランプ大統領はウクライナが求める安全の保証について、「ヨーロッパが最前線にいるが、われわれも関与する」と発言。その後、ヨーロッパの首脳らを交えた拡大会合を開き、安全の保証の方法などについて話し合いました。 今回の会談の焦点や、今後予想される展開について、ロシアとウクライナの情勢に詳しい大和大学・佐々木正明教授に聞きました。
「口論会談」から5か月あまり…ゼレンスキー大統領に変化
今年2月28日、アメリカのトランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領による、いわゆる「口論会談」から振り返ります。
ゼレンスキー大統領はこの会談で「彼(プーチン大統領)は停戦を破った。どんな『外交』を私に求めているんだ」と発言し、これに対してトランプ大統領は「あなたは数百万人の命を賭けてギャンブルをやっている。あなたの振る舞いはこの国に対し無礼だ」と強い言葉で返し、激しい口論となりました。
そこから5か月あまりがたった8月19日未明。再び行われた両者による会談で、ゼレンスキー大統領は「私は変わった」と発言。服装などにも変化が見られました。
―――ゼレンスキー大統領の変化はどういった理由があるんでしょうか?
(佐々木正明教授)「ゼレンスキー大統領の立場になってみますと、このホワイトハウスでのトランプ大統領、もしくはヨーロッパの首脳との拡大会合というのは、政治生命をかけた会談だったと思います」
「ホワイトハウスに入る際も終始笑顔。これは2月の教訓から、二度と繰り返すまいということだったんだと思います。そして服装は黒いスーツでした。2月の会談のときに、トランプ大統領に近い記者から『あなたはスーツじゃないけども失礼じゃないか』と質問を受けたんです。19日の会談でトランプ大統領が、その記者が来ているよとゼレンスキー大統領に伝えると、コメディアンらしく『私は変わったんだよ。ところであなたのスーツは変わってないじゃない』とジョークを言いました。するとドッとわいたんですよ。最初の緊張した瞬間を和やかな雰囲気に変えた、ゼレンスキー大統領のコメディアン、もしくは政治家としての技量。本当に世紀に残る政治パフォーマンスだと思います」
―――会談中にゼレンスキー大統領から繰り返し「サンキュー」という言葉がありましたが、この意図は?
「前回2月の会談のときにヴァンス米副大統領から『アメリカに対して感謝はないのか』という批判を受けた。これに対してゼレンスキー大統領はプーチン大統領寄りのトランプ大統領の姿勢に非常に怒ってしまった。その反省もあったんでしょう。終始『サンキュー』と何度も繰り返してトランプ大統領の気分を高揚させた」
「また、ゼレンスキー大統領はメラニア夫人に対して、手紙をしたためて感謝の書簡を送りました。これはアラスカ会談でメラニア夫人が、ロシアに連れ去られたウクライナの子どもたちを救うようあなたの力で何とかできませんかという手紙を送ったんですね。それに対しての往復書簡というか、お礼をしたところ、これにも非常にトランプ大統領は気を良くして笑顔になったと。これも非常に印象に残るエピソードだと思います」
15日の米ロ首脳会談から読み解く
今回の会談で決まったことは明確になっていませんが、15日にアラスカで行われたアメリカとロシアの首脳会談の内容から予想できることがあるかもしれません。
BBCによりますと、大きく分けて3つの内容が話し合われました。
1.ウクライナの安全保障の保証について
2.ウクライナ東部・ドンバス地方の“割譲”
3.「停戦」か「和平」か
まず1つめの「ウクライナの安全保障の保証」について詳しく見ていきます。もともとゼレンスキー大統領は安全保障のためにNATO(北大西洋条約機構)への加入を目指していましたが、それに対しプーチン大統領は反発をしています。
そうした中、19日の会談の前にトランプ大統領が「アメリカはウクライナに優れた保護と安全保障を提供するつもりだ」と発言。つまり、アメリカがウクライナを守っていくということを明言しました。
さらに会談の後、ゼレンスキー大統領が明かしたのは、アメリカがウクライナを守ることの一環として、ウクライナが900億ドル(日本円で約13兆円)相当のアメリカ製の武器を購入する計画が含まれているということです。
――――安全保障の内容はNATOの加盟とほぼイコールのように感じるんですが、これはロシアにとっては嫌なことではないのでしょうか?
「これは一言で言えば、プーチン大統領が始めた戦争の失敗の一つだと思います。まず、プーチン大統領はなぜ戦争を始めたのかというと、ウクライナのNATO加盟を防ぐため。はっきり言うと米軍が安全保障に関与することを防ぐためでした。ところが戦況が混迷、長期化していく中で、アメリカがもしウクライナの安全保障の保証までするのであれば、これは明らかにロシアの失敗だと思います」
「どのような形でアメリカが関与するのかというところがポイント。確かにウクライナはNATOに加盟していないんですけれども、集団安全保障を確約するNATO第5条というのがあります。これに近いウクライナ型の安全保障をするよう、イギリスや他のヨーロッパの首相も提唱していますので、ここまでくればゼレンスキー大統領としては、この後の集団安全保障、ウクライナの一人一人の命の安全を守りますので、勝ち取ったものではないかなと思います」
―――報道でNATOに類似するような安全保障という言葉が出たと思いますが、それをプーチン大統領が受け入れたとすると、なぜ受け入れたんですか?
「これが最大の謎です。ロシアの戦況は有利なので、プーチン大統領はいま、このような安全保障のセットを組む必要はないんです。まだまだ領土を獲得でき、ロシアのパワーをウクライナに見せつけて、やりたいようにできる状況で、なぜトランプ大統領のディールを飲んだのかにも関わるんですが、一番大きいのは『時間稼ぎ』です。ロシア側に不利なことも飲むような素振りをしながら、グダグダになっていく交渉の中で、結局結んだのはゼレンスキー大統領が少し妥協できるような、もしくはウクライナ側が大きく譲歩するような中身になるのではないか」
「私が一番言いたいことなんですけども、19日朝、ウクライナ東部でロシア軍が攻撃をして多くの市民が亡くなっています。ロシアがまだまだ攻撃を緩めていない。つまり、ロシア側が『これは認められない』という意思表示だと思うんです」
「アメリカがどこまで関与するのか。ここが一番のポイントです。例えばドイツやポーランドにはNATO軍は駐留できるので、何かあった際にはそこから緊急発進することもできますし、例えば軍事顧問団がキーウでウクライナ軍の育成を図ることもできる。今よりもパワーアップしたアメリカ軍の誇る武器を供与するということまであります」
ドンバス地方の“割譲”問題 ゼレンスキー大統領は「絶対に飲まない」と佐々木氏
続いて、ルハンシク州とドネツク州で構成される「ドンバス地方」の割譲について。佐々木教授は、ゼレンスキー大統領は割譲は飲めない、飲まないと分析。一方でロシア側は、安全保障で譲歩したから2州は欲しいということです。
「プーチン大統領がもし停戦、和平合意を成立させたら、ロシア国内で勝利したように見せなくてはいけない。いま、プーチン政権の政敵は右派、もしくは極右勢力なんです。もし安易に妥協してしまったら、これだけロシア人の犠牲を払った戦争でなぜ安易に妥結するのかということで、プーチン政権の基盤を揺るがすかもしれない。そこもトランプ大統領が気づいていて、ロシアが受け入れられる条件を模索しているんだと思います」
「クリミア半島はロシアの海軍の基地があり、実効支配も10年以上続いているので、ロシアに帰属させたい。プーチン政権は国際的な承認が欲しいとかつて言ったような情報も出ています。ここがまず一つ」
「そしてドネツク州、ルハンシク州の2州についてはさまざまな情報が出ています。割譲や2州の帰属を求めるということではなく、ウクライナ軍が2州、もしくは2州のうちロシアの侵攻が及んでいない地域から撤退すれば停戦合意をするという情報が出ています」
「そして、ザポリージャ州、ヘルソン州が今ある前線を中間ラインとして、停戦監視をしていくということになる。帰属・割譲問題はこの3つに分けられます。割譲は非常に厳しい問題で、ゼレンスキー大統領は絶対に飲みませんし、もし飲んだ場合は非常に大きな汚点になると思います」
「停戦」か「和平」か…近くロシア・ウクライナ首脳会談の可能性
目指すのは、短時間で戦闘が止まる「停戦」なのか、時間を要する「和平」なのか…。拡大会合に出席したドイツのメルツ首相によりますと、2週間以内にゼレンスキー大統領とプーチン大統領の2者会談が行われる可能性があるということです。
そしてさらにその後、トランプ大統領を交えた3者会談になる可能性もあるということで、今後、停戦・和平が実現するのかどうか、わたしたちもしっかり注視していく必要があります。
2025年08月20日(水)現在の情報です