2025年08月07日(木)公開
コメ政策で歴史的転換「増産して余ったら価格暴落するのでは」農家の不安をどう解消する? カギは「国を挙げての支援を切れ目なく続けていけるか」【専門家解説】
解説
日本のコメは「ある」という前提でこれまで政策が行われていましたが、政府は「足りていない」と認め「増産」する方針を発表しました。コメを増やすうえで一番の課題は、農家の不安をどう解消するかです。これからコメは増産できるのか、そして、私たちの生活はどのように変わるのか…。流通経済研究所・折笠俊輔主席研究員への取材を含めてまとめました。
政府が一転、やっぱりコメ足りていなかった!
政府が説明するコメが足りない理由の一つ目は、「需要量の見誤り」。背景として以下が挙げられます。
■小麦価格が高騰…比較して値ごろ感のあるコメの需要につながった
■インバウンドの需要を考慮せず
■家庭の需要が増えた…去年、南海トラフ地震臨時情報が発表されたことによる買いだめ、ふるさと納税の返礼品でコメを求める人が増加
二つ目は「供給量の見誤り」。暑さでコメの白濁・割れが発生することにより、精米したときの“売れるコメ”の割合(歩留まり率)が低下しているということです。
農水省調べのグラフを見ると、需要が平均して毎年10万tずつ減少していくという見通しでしたが、実際にはこの2年間は需要実績が下がらなかったため、コメが足りなくなったということです。
半世紀以上続く減反政策に幕となりますが、ではどうやって増産するのか?専門家曰く、そのコメの増産方法は2つしかないそうです。
まずは「水田自体を増やす」で、▽耕作放棄地の活用▽“事実上の減反政策”で転作していた農地で再び主食用米の生産、が挙げられます。しかし、折笠主席研究員に聞いたところ「耕作放棄地はそもそも生産の条件が悪い土地が多く、転作している農地は水路の問題などすぐにはコメを作れない」と指摘します。
もう一つの増産方法は、「単位面積あたりの収穫量を増やす」。これまでは“減反政策”で、単位面積あたりの収穫量増やさないようにしていましたが、スマート農業や品種改良が進めば、効率が上がるのではないかということです。
元衆議院議員・豊田真由子氏は次のようにコメントしています。
「元議員として申し上げると、間違っていましたと言うことはすごく画期的で、こんなことって今までなくて。いいことなんです。間違ってましたと認めた上で次どうするかが大事。ただいろんな政策がある中で、前提が間違っていると政策も間違えますよね。ほかの日本の政策全般大丈夫かという気がしました」
コメ需要を増やすためには『みんなでもっと食べる』『輸出を増やす』
作りすぎてコメが余ったら価格が暴落しないのか?という不安。8月5日・6日に神戸市内で開かれた研究会でコメ農家に話を聞きました。
(増産に賛成)「いいことじゃないですか。(これまでは)上から『ここでコメは生産中止にしてください』と農協や市役所から連絡が来ていた。今まで(持っている田んぼの)3分の1くらい減反していた。その分、稲を作れるというのは所得も増えるかもしれない」
(増産に疑問)「僕らもお酒用として(コメを)出荷している。そういうところをやめて主食用を増やすと、今度はそっちが(足りなくて)困っちゃう。そんな簡単な話じゃない。増産といっても」
一方、増産がコメ価格の下落につながるのではという声も…
「生産してる人のことを全く考えないで価格を決定してきた。『コメ安いもの』それは大きな間違いであって、燃料費から何からみんな上がってるんだから、当然コメも上がるんですよ」
「やっと去年あたりから(次の年も)再生産が可能な価格に上がってきた。当然、増産するにも設備投資が必要になってくる。(増産でコメ価格が)下がってくると、また大変な状況になる」
折笠主席研究員は、「今後の適正価格は、平均すると5kg3500円くらいではないか」としたうえで、「需給バランスが重要。コメを増産するなら需要も増やさないといけない」と話します。
需要を増やすためには、▽みんなでもっと食べる▽輸出を増やす、ということです。
1人1年あたりのコメ消費量は、60年間で半分以下に減っていて、消費量を増やすためには、例えばカレーライス専用の華麗米や、米粉の活用など、新しい選択肢でコメをもっと食べてもらう工夫が必要です。また、輸出に関しては、年間のコメ輸出量は右肩上がりで増えているものの、その量は2024年で約4.5万tとわずか(農水省調べ)。政府目標では2030年までに35万t(2024年の約8倍)に増やすということです。
輸出するうえでカギとなるのが「日本産米は海外で勝てる(売れる)のか」です。日本の国産米は高いとはいえ「売れる」と考える専門家もいる一方で、日本のコメはコストが高いことから「高すぎて売れないのでは?」という指摘も。日本のコメ生産量が減っていく中、世界のコメ生産量は右肩上がりで、さらに日本のコメづくりにかかるコスト(全国平均)はアメリカの7.8倍かかっているのです。
コメ増産を成功させるカギとは?
石破総理は8月5日、「農業者の皆さま方が増産に前向きに取り組める支援に転換をいたします」と発言しています。これに対し、折笠主席研究員は「政権が変わったとしても国を挙げての支援を切れ目なく続けていけるか」が重要なポイントだとコメントしています。
例えば、▽農家に補助金を直接支払う▽水田の基盤整備▽輸出にかかる経費▽農地集約のマッチングなど、国の支援が必要だといいます。
これまでのコメづくりは「先細り」産業でした。生産者の9割以上が60歳以上で、さらに生産を減らしてきたため、若い人が入ってきにくい環境でした。しかし今回、増産に転じることで、日本の農業を「衰退産業」から「成長産業」へ変えることができれば、未来のある産業になるかもしれないと折笠主席研究員は指摘しています。
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