2025年08月06日(水)公開
【万博外交】テーマ展示の裏で...普段できない交渉が成功? 半年にわたり要人来日「万博があるから来た」が隠れ蓑や言い訳になるらしい
解説
遊びに行けばテーマパークのように楽しい「大阪・関西万博」。もうひとつの役割として会談や投資、商談の場にもなっていて「万博外交」という言葉もあり、普段できない交渉が万博ならできるということもあるということです。同志社大学・村田晃嗣教授、大阪国際大学・五月女賢司准教授への取材も含めてまとめました。
そもそも万博は何のために開催される?
万博の意義、その一つはテーマに沿った展示。今回は「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマに沿って、シグネチャーパビリオンで象徴的に展示されています。
我々にとって、万博はテーマパークと似た雰囲気もありますが、決定的な違いが“スーツ姿の人がいる”ことです。万博のもう一つの意義が「外交」で、同志社大の村田晃嗣教授は、半年間にわたって開催している万博は、世界的イベントでも唯一のチャンスではないかと話しています。
ふりかえると1867年(慶応3年)のパリ万博では、幕府が戊辰戦争に備え、フランスから資金提供を受ける目的で参加し、それと別に薩摩藩と、佐賀藩も参加し、万博が外交の場になりました。結局、幕府はフランスからの資金提供は受けられなかったということです。
さらに政府だけではなく、民間や自治体同士の交流もあり、売り込み・観光誘致・投資など経済界・自治体・企業・アーティストなども外交に関与しているということです。
大阪市も今回の万博をきっかけに、イギリスのグレーター・マンチェスターと合同行政機構、姉妹都市の提携を8月1日に発表しました。
「万博だから来た」隠れ蓑になる可能性
海外旅行・輸入品の購入・国際ビジネス・留学・平和と安全などは、全て外交関係がうまくいっていないと成立しないことです。
「外交」は繊細な行事ということです。例えば、どっちの国が行くのか?招待するのかされるのか?どういう扱い?そもそも交渉していること自体知られたくない交渉や、妥協したことを自国民に知られたくない、など。
村田教授によりますと、G7やG20などのサミットは、内容は事前に事務レベルで調整しており、セレモニーの要素が強く、直接交渉する場ではないということです。
そういった繊細な交渉をするうえで、「万博があるから日本に来た」というのが『隠れ蓑』や『言い訳』になることもあるということです。たとえば7月19日に、アメリカの「ナショナルデー」がありましたが、これは関税交渉の真っ只中でした。
赤沢大臣が何度もアメリカに渡る一方、アメリカ側が来日することはありませんでしたが、このナショナルデーの日は、関税交渉担当のベッセント財務長官が来日しました。
あくまでも“ナショナルデーだから来た”ということで、このときは関税交渉をしていないと公には言われていますが、関税の話もしていたのではないかと見る向きもあります。
そして、アフリカ諸国も万博が外交の隠れ蓑になる可能性があるそうです。各国の首脳は万博を理由に直接日本へ訪問することができます。アフリカ諸国は中国と結びつきが強く、その立場からすると、中国を超えて日本に行くことは、投資してきた恩があるのに、というような微妙な関係があるそうですが、「万博があるから日本に行った」は、通用するということです。
過去を振り返ります。1970年の大阪万博の際は、台湾がパビリオンを出展したことで、中国はが抗議し参加を見送りましたが、水面下で話し合いが行われていたそうです。この際に日本は対中外交の重要性を再認識し、明確な外交記録はないものの、この経験が1972年の日中国交正常化の伏線の一つになったといわれているということです。
日本が苦手な外交が2種類ある
日本には苦手な外交もあるようです。その一つは、「多国間の協議が苦手?」。二国間の交渉は粘り強いが、英語が母国語ではないことも含めて、多国間の中で存在感を出すのが難しいということです。とりわけいま、トランプ大統領のアメリカに戸惑う国が、アメリカに依存せず、それ以外のオーストラリア・カナダ・ヨーロッパ・韓国などとどう連携できるか、が問われています。
もう一つ、「抽象的・長期的テーマが苦手では?」と考えるのが村田教授。関税交渉など個別の利益追求は比較的うまく交渉できるが、「子どもの未来、世界の貧困、温暖化対策」こういった分野を克服するために、「若い世代がいかに国際交流を図り、英語力も上げることができたか」ということを万博成功のバロメーターにする方法もあるでしょう。
もちろんそうした「万博外交」の成果や評価は、数十年後まで分からないということが悩ましく、歴史家たちが公文書などを何十年後に見て、初めて分かることもあるので、なかなか短期的に見えにくいです。
万博は残り2か月。入場者数とか赤字黒字を成功のバロメーターにしがちですが、それだけではなく、すぐに成果の見えない「万博外交」もあるということ、それを知っておくことが大事かもしれません。
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