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【コメ価格】小泉進次郎農水大臣のもとで下がる?下がらない? 識者も意見分かれる『石破総理の5kg3000円台発言』『コメの絶対量が足りない』【解説】

解説

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 高止まりするコメの価格が家計を直撃するなか、コメ政策のトップだった江藤拓農林水産大臣が「私はコメを買ったことがない」「売るほどある」と発言。辞任に追い込まれる事態となりました。この危機に石破茂総理が農水大臣を託したのは、小泉進次郎氏。小泉氏は早速、来週予定していた備蓄米の4回目の入札を中止とし、備蓄米の放出先について入札を経ずに決める「随意契約」を検討しています。 小泉氏を起用することで今後、コメの価格は下がるのでしょうか。元農水官僚のキヤノングローバル戦略研究所・山下一仁研究主幹と、ジャーナリスト・武田一顕氏の見解などをまとめました。

「4回目の入札中止」「随意契約を検討」

 備蓄米放出の流れを振り返ります。まず、政府はJAなどの大手集荷業者に対して入札を募ります。この大手集荷業者の中で高い額を入札した業者が落札。そのコメが卸売業者に渡り、その後、スーパーマーケットや飲食店に渡ります。

 これまで3回・約31万tの備蓄米が放出され、落札価格は60kg(1俵)あたり2万2477円でした。ちなみに、政府が備蓄米を買い入れた価格は、60kgあたり1万2829円(2023年度)。大手集荷業者の落札価格と政府がもともと買った額には1万円ぐらいの差があります。こうした中で、22日、小泉新大臣は「4回目の入札は中止する」ということを明言しました。
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 では、備蓄米放出の流れはどのように変わりそうなのか。備蓄米は、政府が選んだ業者に対して売却されるようですが、その際には、入札ではなく「随意契約を活用した売り渡しを検討するように」と石破総理から指示があったと小泉大臣は発言。契約に参加する業者は、例えばスーパーや外食など、「消費者に近い業者に入っていただきたい」としています。入札をやめ、集荷業者や卸売業者も通さずに、できるだけシンプルに小売店へ備蓄米を流し消費者に届けようという考えです。

 随意契約を検討するという点について、元農水官僚でキヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「安く仕入れた備蓄米は安く売るという条件をつけないといけない」と指摘。山下氏は随意契約に関しては評価する一方、しっかり“条件”をつけるべきという見解です。

最近は『農水族議員』から選出の農水大臣

 小泉氏は今回新たに農水大臣となりましたが、“異例の起用”という見方があるようです。日本の食料の安定供給や農産物の生産・輸出入に関わる農林水産省。そのトップ人事の特徴を山下氏に聞くと、1980年代半ばまでは、農業から距離のある人物、あまり農業に詳しくない人物が選ばれていたということです。理由は、総理がコントロールしやすいため。ただ、その後、1980年代後半からは、国際交渉が必要という面もあり、『農水族議員』から選ばれるようになったということです。

 この族議員とは、特定の政策分野に強く、関係省庁に働きかける国会議員のことで、農水族議員は、農業に従事する人たちに近い議員、農業分野に強い議員らを指します。族議員にはほかにも、道路族・防衛族・厚労族・文教族などがあります。選挙では、それぞれに関する業界団体の支持を受けていることが多いとされます。

 山下氏は、江藤前大臣もコメ不足を認めず流通のどこかで滞っていると主張していたことや、備蓄米を放出しても価格が下がらないようにするなど、農水族の意向に沿った仕事をしたのではと指摘します。

小泉新大臣は“農業のしがらみなし”か

 実は、農水大臣は2000年以降、33人中10人辞任しています。一例として、赤城徳彦氏は政治と金の問題を受けて辞任に追い込まれました。また、遠藤武彦氏は補助金の不正受給に関する問題で、就任後わずか8日で辞任するという事態となりました。これついて、ジャーナリストの武田一顕氏は「農業を守る立場として、農家(大票田=選挙のときに多くの票が期待できるエリアなど)からの働きかけが多く、利権にまみれてしまうのではないか」とみています。

 自民党内で石破総理は農政改革派で、事実上の減反政策はもうやめた方がいいのではないかという考えですが、森山裕幹事長は農水族の重鎮であり、森山幹事長が推薦したのが江藤前大臣でした。石破総理は少し森山幹事長の顔色をうかがってるところがありましたが、新大臣は約10年前に農政改革にチャレンジした小泉氏。横須賀出身で、選挙に強く、ある特定の業界団体を気にしなくても選挙で勝負できるという強み、農業のしがらみなしという人物です。
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 ジャーナリストの立岩陽一郎氏は「自民党は基本的にいわゆる農村政党。農業地域が自民党を支えてきたという歴史があり、いわゆる都市型政党ではない。小泉氏は都市型の政治家かもしれないが、自民党全体としてはやはり農村政党なので、農家の声は大きいわけです。小泉氏だけでなく総理も含めて団結して進むというふうにしないと、小泉氏が改革しますと言ったところで、その通りになるかというのは、ちょっと難しいかも知れない」とコメントします。

コメの価格は下がる?下がらない?

 小泉新大臣は、需要があれば備蓄米を無制限に放出するということを話しています。小泉新大臣によってコメの価格は下がるのでしょうか。山下氏は「そんなに下がらない」、武田氏は「下がる」とみています。

 武田氏は、石破総理が国会で「コメの価格は5kg3000円台でなければならない」と述べたことについて、あそこまでしっかりと明確に発言するということは、それなりの根拠があり、私たちが知らないような情報も上がってきているはず、と指摘。総理がそこまで発言した以上、やらなければ相当な政治責任を追及されるということで、下がるだろうという見解です。
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 山下氏は「コメの絶対量が足りない」と指摘。今年の作付けが終わっているため、価格が下がる下がらないを考えるのは来年で、来年9月まで高値が続くのではないかということです。そのうえで、コメ価格を下げる特効薬としては、毎年外国から関税なしで日本に入ってくるミニマムアクセス米77万tのうちの主食用分10万tを、20万t~30万tへ一時的に増やすという案。また、コメの輸入関税(1kgあたり341円)を1年限定で撤廃すれば、海外から安いコメが入ってきて、価格は下がるかもしれないと指摘。“しがらみのない小泉大臣”なら実現可能ではないかと山下氏はみています。

2025年05月23日(金)現在の情報です

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