2025年04月03日(木)公開
「フジテレビ問題の根っこは多くの企業と共通」と専門家 報告書には「若手女性を"喜び組"と呼ぶ」などの具体例も...「セクハラに寛容な企業体質」第三者委が厳しい指摘
解説
元タレント・中居正広さんと元女性アナウンサーのトラブルから発展した一連のフジテレビ問題。3月31日、第三者委員会は報告書で「業務の延長線上で女性が中居正広氏から性暴力を受けた」と認定しました。また、フジテレビの幹部による過去の行為も「ハラスメント」と認定。 「社内のセクハラに非常に寛容」と厳しく指摘されたフジテレビの“企業体質”とは?ハラスメントを防止するには?企業ガバナンスなどに詳しいオウルズコンサルティンググループの矢守亜夕美氏と、日本ハラスメント協会・代表理事の村嵜要氏への取材を含めてまとめました。
「ふたり付き合っちゃえばいい」発言も…報告書にあった内容
フジテレビの問題を調査していた第三者委員会は、フジテレビの役職員1263人に『社内でハラスメントにあったことがありますか?』というアンケート調査を実施。その結果、「ある」と回答した人は38%でした(男性:34%、女性:48%)。他の企業での平均値は10%~15%で、フジテレビの場合3倍ほど高くなっているということです。
日本ハラスメント協会の村嵜要代表理事に、報告書の内容への見解を聞きました。
報告書によりますと、「BBQの会」の直後に中居氏・元女性アナウンサー・フジ社員Bがすし店に行った際、フジ社員Bから元アナウンサーへ「ふたり付き合っちゃえばいい」という発言がありました。村嵜代表理事は、この内容はセクハラにあたる可能性があるといいます。
また、10年以上前にあった有力出演者・フジ社員B・社員の会食では、社員がトイレに行ってる間に周りにいた他の人がいなくなり、有力出演者と社員を2人取り残して、その後、性加害と言える事案が起きたということです。これについても、置き去りにして恐怖心を与えたという点からハラスメントに該当すると村嵜代表理事は指摘しています。
他のハラスメント事案として「スイートルームの会」も。中居氏を含めた男性5人・女性5人(元アナウンサーなど)の計10人で会合をしていましたが、その後男性2人、女性2人が残され他の人は帰るよう促されました。村嵜代表理事によれば、理由なく帰らせる行為も置き去りにする行為もハラスメントに該当するということです。
元アナウンサーへのフジテレビの対応を分析
被害を訴えた元アナウンサーへのフジテレビの対応について。2023年9月下旬から10月上旬の出来事で元アナウンサーは体調も悪く入院していましたが、アナウンス部長が「いったん番組レギュラーを降板」の旨を連絡したときに、「私からすべてを奪うのか」という反論が元アナウンサーからあったと報告書に書かれています。
このこと自体がハラスメントに当たるのか、グレーで難しいところだそうですが、村嵜代表理事によりますと、降板させる理由やタイミングについて正当な説明がない限りはハラスメントにあたるということです。被害女性を二重に傷つけていた可能性が高いとも指摘しています。
また、2023年10月下旬、元アナウンサーが自身のSNSで入院中の姿を発信した際、誹謗中傷などがあったことからアナウンス部長は「対外発信を控えるよう」提案。それに対して、「私から社会とのつながりを奪うのか」と泣きながら反論があったということです。良かれと思って行った行為でも、説明時に傷つけない言い方ができているか、過不足なく説明できているかどうかで、ハラスメントにあたる可能性もあると村嵜代表理事は指摘します。
さらに、別の側面から見れば、このアナウンス部長もハラスメントの被害者である可能性があるといいます。アナウンス部長は会社から元アナウンサーとのやり取りを任せられていて、それについて「責任を重く感じた」といった発言があったことが報告書にありますが、これは上から過大な要求をされたというハラスメントになる可能性があるということです。
フジの中居氏寄りの行動は“セカンドハラスメント”
フジ社員B氏の“中居氏寄り”の行動も報告書では明らかになっています。B氏は中居氏の要求に応じて…
■見舞金として100万円を渡そうとした
■フジテレビのバラエティ部門とつきあいのある、“電話をかければすぐに対応してくれる”「“携帯”弁護士」を中居氏に紹介
■中居氏の番組起用を継続
村嵜代表理事によりますと、これらの行為は被害女性に対するセカンドハラスメント(二次加害)にあたるということです。一方で、フジ社員B氏もまた、会社の従来のやり方を刷り込まれた被害者という一面があるかもしれないとも指摘しています。
BSフジの番組キャスターのハラスメントも発覚
報告書では他にも複数のハラスメント事案が明らかになっています。
BSフジ「プライムニュース」キャスターの反町理氏(60)は2006年ごろ、女性社員に対して休日にドライブに誘い、神奈川・三崎のマグロを食べに行き花火を見て、そのあと横浜でホラー映画を見てバーへ…と1日連れまわしたということです。女性が誘いを断るようになると「業務上必要なメモを共有しない」「不当な叱責を部内一斉メールする」といった行為があったということです。反町氏はこれを否認しています。
また、反町氏は2007年~2008年ごろ、別の女性社員に対して休日に「今何しているのか写メを送れ」と要求。女性が断ると、不当な叱責を部内一斉メールしたほか、電話で論旨不明の叱責をしたということです。これも反町氏は否認しています。
フジテレビの反町氏への対応は『懲戒などの処分はなく口頭での注意のみ』で、反町氏はその後、取締役に昇進しました。
ほかにも報告書では以下のような記載がありました。
■相談先が皆セクハラしているので甘い対応に
■部長クラスの社員が若手女性を「喜び組」と呼ぶ
■“セクハラで訴える人”だと思われるのが嫌
■「大事にしたくない」という被害者の気持ちに便乗したことなかれ主義
第三者委員会・竹内朗委員長は「社内のセクハラに非常に寛容な企業体質があった。セクハラを中心とするハラスメントがまん延している」と厳しく批判。日本ハラスメント協会・村嵜代表理事は「ノウハウができている・会社主導でハラスメントをしていたと言われても仕方がない」と指摘しています。
「ビジネスと人権」について
企業にとって“利益”よりも大事にしなくてはいけないものが『人権』です。
1990年代後半から2000年にかけて「生産拠点を海外に」という動きが進む中、アメリカでナイキの海外工場での児童労働・劣悪な労働環境が報道され、不買運動に発展。この頃から「ビジネスと人権」の考え方が定着していき、2011年には「ビジネスと人権」の指導原則が国連で採択されました。
2013年にはバングラデシュでベネトン・ザラ・H&Mなどの縫製工場が入る商業ビルが突如崩壊し、1100人以上が死亡、2500人以上がけが。劣悪な労働環境で働く人が犠牲となったこの事故は「ラナプラザの悲劇」と呼ばれ、「ビジネスと人権」が世界的注目を集めるきっかけとなりました。
オウルズコンサルティンググループの矢守亜夕美氏は、ビジネスにおける人権リスクとして「ハラスメント」「差別」「過重労働」「プライバシーの侵害」を挙げています。
この「人権リスク」は「環境リスク」と考え方が異なります。環境リスクは、脱炭素を例に挙げると、工場などで二酸化炭素を排出してしまうことに対し植林を行い、プラスマイナスをゼロにすることが可能です。一方で人権は、ひとりひとりが持っているため相殺できないものです。
また、経営リスクとも異なります。人権は時に利益と相反することもありますが、そのときは人権を重視する必要があります。
例えば、仕事ができるけど、ハラスメント気質の人。企業としてどのように対処すればいいのか、考え方は2つあるということでです。
(1)処分して、更生が確認できれば出世も検討…ただし処分内容は被害者に必ず通告
(2)「仕事ができるけどハラスメント気質」ではなく、「人権配慮できる人が”仕事ができる人”」と発想を転換する
「我慢しなくていい」一方で「ハラスメントを拡大解釈してはいけない」
では、ハラスメントの当事者にならないために何を考えたらいいのか?大事なのは「未然にどう防ぐか」と、ハラスメントが起きてしまった場合の「救済措置」です。
矢守氏・村嵜代表理事は、以下の3つのポイントを挙げています。
(1)公私をわける
(2)断れる・断っても不利益のない環境
(3)駆け込める窓口の設置
また、村嵜代表理事は、従業員は我慢しなくていい一方で、ハラスメントを拡大解釈してはいけないとも指摘。例えば「シフト勤務の希望が通らない」などはハラスメントではないといいます。
最後に、フジテレビの問題をめぐっては厳しい批判がある一方で、第三者委員会の報告書は「当社の救いは、ステークホルダー(利害関係者)への説明責任に向き合おうとしない経営陣に対し、敢然と反旗を翻した数多くの社員がいたことである」と結ばれています。
この問題が、フジテレビや社会全体が変わるきっかけになるのか、今後も注目する必要がありそうです。
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