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【年金】給付水準は『30年後、今より2割低下』の見通し 年金制度改革では"厚生年金の財源を国民年金に回す"を検討...社労士は影響をどう見る?【解説】

解説

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 5年に1度の「年金制度改革」をめぐり、今、国会が揺れています。今回の“法案”の柱は主に2つで、▼厚生年金の加入条件の見直し=年収「106万円の壁」の撤廃▼厚生年金の積立金を基礎年金の底上げを図るために振り向ける、というものです。しかし、この方針について「厚生年金の流用ではないか」と指摘する声も…。 制度はどのように変わりそう?私たちの生活にどのような影響がある?社会保険労務士・床田知志氏に取材した内容を含めてまとめました。

「年金水準は約30年後、現在より2割低下の見通し」

 まず、年金の仕組みを振り返ります。 “2階建て”と言われる日本の年金制度。1階部分にあたる「国民年金(基礎年金)」は、日本に住んでいる20歳以上60歳未満のすべての人が加入する年金で、納める額・もらえる額は期間に応じて定額です。また、2階部分は会社員や公務員などが加入する「厚生年金」で、収入に応じて納める額・もらえる額が変わります。厚生年金は全体の額の半分を会社員などが自ら払い、残りの半分を会社が払うという仕組みです。なお、会社員などに扶養されている人=3号被保険者(専業主婦・主夫など)は国民年金の加入者とみなされ、将来的に年金がもらえます。

 今回議論になっている年金制度改革は、厚労省が行う5年に1度の財政検証=年金の“定期健康診断”を受けて、政府が年金制度の見直しを行うものです。去年行われた財政検証では、「年金水準は約30年後、現在より2割低下の見通し(※過去30年投影ケースの場合)」という結果が出ました。

<2024年度>
・現役世代の平均収入(月額):37万円
・モデル世帯の年金額(月額):22.6万円
 →現役世代の収入の61.2%

<2057年度>
・現役世代の平均収入(月額):41.8万円
・モデル世帯の年金額(月額):21.1万円
 →現役世代の収入の50.4%

 現在、現役世代の収入の61.2%が支給されていますが、2057年度には50.4%に減る見通しだということです。

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 政府は年金改革関連法案について、今国会への提出を目指していますが、保険料の負担増を伴う内容も入っているため、自民党の一部からは「夏の参議院選挙後に先送りするべき」という声も上がっているようです。こうした声があがる背景として、与党には「消えた年金問題」の影響で2007年の参院選で歴史的大敗を喫したという苦い記憶があるのです。

【ポイント1】結局は“働き控え”が起こる?検討される「106万円の壁」撤廃

 制度改革で年金は増えるのでしょうか、減るのでしょうか。年金制度改革で検討されているものを3つお伝えします。1つ目が、「106万円の壁」の撤廃です。現在、3号被保険者が、壁=年収106万円以上となった場合、要件を満たすと自分で厚生年金に加入することになります。結果として手取りが減るため “働き控え”が起こっているのですが、この厚生年金の加入要件(※学生などを除く)について、以下のような変更が検討されています。

 【厚生年金の加入要件(※学生などを除く)】
 ▼年収106万円以上→撤廃検討
 ▼従業員51人以上→撤廃検討
 ▼週20時間以上勤務→存続

 これについて社会保険労務士・床田知志氏は、年収と従業員数の要件を撤廃したとしても「『20時間の壁』を意識する人が出てくる」と指摘。つまり、20時間以内で働こうとする=働き控えが起こる可能性があるということです。また、「事業所規模の要件撤廃で、中小・零細企業に厚生年金の負担が増える」と言います。

【ポイント2】会社員は損をする?しない?「国民年金」の底上げに「厚生年金」の財源活用を検討

 2つ目が、国民年金の底上げに厚生年金の財源を活用するという議論です。厚生年金は加入者も多いため(約4600万人)、その“潤沢”な積立金を財政状況が厳しい国民年金に回そうというのです(※国庫で負担という案もあり)。ただ、会社員としては「せっかく厚生年金を納めてきたのに、自営業の人の年金にも使われるの?」という疑問も出てくるでしょう。

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 これについて床田氏は「確かに国民年金に回さなかったらもらえていた水準よりは厚生年金が減るが…」と前置きしつつ、「一般的な世帯収入ならあまり影響はない」と指摘します。

【ポイント3】年金の“目減り”気にせず働ける?「在職老齢年金制度」の見直し検討

 3つ目は、「在職老齢年金制度」の見直しの検討です。在職老齢年金制度とは、厚生年金加入事業所で働く高齢者の「厚生年金+月給」が50万円を超えたら、受け取れる厚生年金の額が目減りする仕組みで、一般的に「50万円の壁」とも言われています。これを引き上げ・撤廃する案が検討されています。

 これにより、年金の目減りを気にせず働ける高齢者が増え、満額もらえる人が増加する一方で、年金を払う人も増えると見られています。「50万円の壁」見直しの影響について、「そもそも対象者の数が少なく、将来の(今の現役世代の)年金への影響は小さい」というのが床田氏の見解です。

もう古い!?今の年金制度の「モデル世帯」

 日本の年金制度は大丈夫なのでしょうか?床田氏によりますと、「去年の財政検証では、年金財政に想定外の変化はなかった」ようですが、「5年後、10年後の数字は楽観視できない」とのこと。今後、コロナ禍の影響も出てくる可能性もあるということです。また、今後の不安材料として、就職氷河期の存在も指摘。厚生年金の未加入期間が長い人、厚生年金に入ったことがない人は基礎年金頼りで老後の生活が成り立つのか…という懸念もあるようです。

 また、そもそも現在の年金制度で使われている「モデル世帯」は実情に合わなくなってきているかもしれません。

 【現在のモデル世帯】
 夫:平均賃金で40年勤務
 妻:40年間3号被保険者

 共働き・独身世帯が増えているなか、このモデル世帯をもとに年金制度を設計して大丈夫なのかという課題もあるようです。

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 「自分の年金が不安…」という方へのアドバイスとして、床田氏は「まずは年金の制度を理解すること」が大切だと指摘。そして、「ねんきん定期便などで将来いくらもらえるか確認を」ということです。

 ねんきん定期便は誕生月に届きます。また、お住まいの地域にある年金事務所では、将来どれだけ年金をもらえるかなどを確認できます。年金制度への理解を深めて、ご自身の年金の状況を確認してみてはいかがでしょうか。

2025年03月29日(土)現在の情報です

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