2025年03月05日(水)公開
斎藤知事「パワハラ疑惑」百条委が結論‥県議会どう動く?専門家「全く何もしないということはできない」斎藤知事へ『不信任』『辞職勧告』『辞職申し入れ』など選択肢か
解説
兵庫県の斎藤元彦知事をめぐる一連の問題で、告発文書を調査していた百条委員会が3月4日、報告書を公表しました。パワハラ疑惑や公益通報について百条委員会はどう評価したのか?報告書の信頼性についてはどう受け止めたらいいのか?法政大学大学院の白鳥浩教授と亀井正貴弁護士に見解を聞きました。◎白鳥浩:法政大学大学院 教授 政治学・現代政治分析などが専門 地方自治に詳しい 日本政治法律学会理事長◎亀井正貴:弁護士 民事・刑事裁判を多数担当 元大阪地検検事
報告書は「一定の信頼性」「冷静さを保った調査」と専門家は評価
去年6月14日から計18回開催された百条委員会では、大きく分けると以下の2つについて調査が行われました。
■7項目の告発文書について
■告発は公益通報者保護法にあたるのか
―――今回の百条委の報告書について、白鳥教授は「一定の信頼性はある」とし、亀井弁護士は「冷静さを保った調査」と評価しています。「一定の信頼性」とは?
白鳥教授「去年9月に県議会で全会一致で不信任を出しているため、この報告書が何ら認定しないということは考えられない、『結論ありきの報告書じゃないか』と評価されている人もいます。ただ、報告書をしっかり読んでみると、かなり丹念に証拠を集めている。証人もしっかり集めて18回もヒアリングをしています。これは一定の信頼性はあるんじゃないかというふうに思います」
―――亀井弁護士は「冷静さを保った調査」という見解ですね?
亀井弁護士「一定の証拠があり、その証拠に基づいて合理的な推認を働かせながら判断を導いている一方、必ずしも黒だと断定してるわけではなく、場合によっては『不適切な』という表現にとどめている場合もありますし、否定しているところもある。また、専門家の知見も取り入れたうえでの法的解釈を加えていて、冷静さを保った調査だというふうに感じました。(今回の百条委は)注目されていて、いろんな批判を浴びる中で結論を出すわけです。一定の目論見、企図のもとにやってしまうと批判が来るのはわかっていますから、冷静に対応しようと考えたのではなかろうかと推測します」
“7つの疑惑”に結論
公表された報告書では、告発文書で示された7つの疑惑と、県側の対応が公益通報者保護法違反にあたるのかについて、以下のような見解が示されました。
1.不当な解任で理事長が急死
→△:おおむね事実と言えるが一部で臆測も含まれる
2.知事選で職員が事前運動
→否定:確認できず
3.選挙への投票依頼
→否定:確認できず
4.おねだり体質
→認められる
5.パーティ券の購入依頼
→△:一定の事実が記載されており虚偽とまでは言えない
6.優勝パレードで不当な協賛金集め
→△:一定の事実が記載されており虚偽とまでは言えない
7.職員へのパワハラ
→認められる
・公益通報者保護法違反→認められる
―――「おおむね事実と言えるが一部で臆測も含まれる」や「一定の事実が記載されており虚偽とまでは言えない」という文言について、どう読み解いたらよいのでしょうか?
白鳥教授「書いてある通り、100%そうだとは言えないんだけれども、記載されていることはだいたい事実と認定できるところはあると。ただ、直接因果関係があるか。例えば、理事長が亡くなられた因果関係というのは直接説明できるかというと、そこはもう憶測になってくると。あるいはパーティー券にしても、不当な協賛金集めにしても、事実であるところもあるんだけれども、それが直接不法行為にあたるかどうかっていうのはまだわからないというところだと」
―――亀井弁護士はこれらの表現について、いかがですか?
亀井弁護士「2と3については公選法違反になりますので、事実があるかないかだけ決めます。ただ、1と5と6は、事実が一定程度認められるとしても、それが違法なのかどうかという解釈の問題が残っているので、その意味では△というのはしょうがないかなと思います」
―――百条委員会とは別に第三者委員会も調査していますが、そちらの報告で1や5や6に関して別の書かれ方になる可能性がありますか?
亀井弁護士「そんなに判断は変わらないと思います。事実認定というのは証拠の判断の問題で、それは経験則と論理則で決めますから、これはおそらくそんなに変わらないと思います。法解釈もだいたい同じような領域の先生がやるわけですので、この辺りはあまり変わらないと思います」
「パワハラ」や「おねだり体質」については‥
一方、告発文書で「もらい物は全て独り占め」や「出張先ではお土産必須」とされていた「おねだり体質」について報告書では次のように認定されました。
■県のPRとして物品を受け取り、また長期貸与を受けていた
■「おねだり」の憶測を呼んだことは否定できない
そして「職員のパワハラ」について。告発文書では「職員を怒鳴りつける」、「気に入らないことがあると机をたたいて激怒」、「夜中や休日に矢のようなチャット」などと書かれていましたが報告書では以下のように認定されました。
■強い叱責をしたことは事実と評価でき、文書内容はおおむね事実と言える
■パワハラ行為と言っても過言ではない不適切なものだった
「パワハラというのは基本的に相手の人格や人権を無視しているというところがあり非常に重要なところ」と白鳥教授は述べています。
―――この報告書をもって民法上の不法行為にすぐ当たると言えるのでしょうか?
亀井弁護士「例えば刑事事件では高い証明力を要求されますが、民事事件ではどっちが本当らしいかなという時もあります。行政の訴訟はどうか、それから調査委員会における認定の程度はどうかということで、それぞれ違ってきます。就業環境を害しているし、優越的な地位を利用しているし、業務範囲を超えてるんじゃないかというところもありますが、肉体的精神的な苦痛を与えたと言えるかどうかという問題と、どこまでそれを証明できるかというのもあり、裁判になった場合にどういう認定になるかどうかわからない。言われている人がどう証言するかによりますね」
告発者さがし「利害関係人がジャッジするのはまずい」
そしてもう1つ大事な論点なのが「公益通報にあたるのかどうか」というところです。告発文書の送付後に調査がすぐに始まり、作成者を特定して処分しました。「告発文書は誹謗中傷性が高い」ということもあり、このような処分になりましたが、百条委員会はこの対応をどう見たのか。
■文書は一定の事実認定が出来ており、全くの事実無根と言えない
■公益通報者保護法違反の可能性が高い
初動対応時は思慮に欠けるとし、『告発者つぶしがあったと言われかねない』とまとめました。
―――「告発が不当」「犯人さがしをする」などは告発された側が判断してもいいもの?
亀井弁護士「利害関係人がジャッジするのはまずいです。基本的には告発者さがしはやってはいけない」
―――ガイドラインで公益通報者保護法で関連する人は対応してはいけないと書かれています。
白鳥教授「そもそも今回の場合、告発されてる本人が『誰がやったか徹底的にさがせ』と告発者さがしをやっているというところで、違反している可能性が高い。何よりも利害関係者がやってはダメ、まずもってそこなんですよね」
百条委員会の報告書「説明責任を果たしている」
―――“伝家の宝刀”とも言われる百条委員会は強力な調査権を持っていて、虚偽の陳述などをした場合、罰則があります。一方で、対象者を直接罰することはできず、「力は本当にあるのか?」、「結果が出ても何も変わらないのでは?」という疑念があります。
白鳥教授「百条委員会の結論には法的拘束力がないので、何かが認定されたからといってすぐに何らかの罰則があるということではない。警察でもないので、調査にも一定の限界というのがあることは確かです」
百条委員会について今回『2つの疑念』が出ています。まず1つ目は、調査を終えずに全会一致で斎藤知事の不信任案を可決したことを正当化しているのでは?という点です。
斎藤知事への不信任の決議をした人たちが百条委員会の委員を務めていて、結論ありきではないかという指摘もあります。
これに関して白鳥教授は「客観的な根拠が示されている」、「一定の信頼性があり説明責任を果たしている」と評価していて、「調査報告書を読めばきちんとやっている」と述べています。
そして亀井弁護士は「証拠が出ていて、専門家の知見も出ているから、それによってこの結論が出るだろうと。結論ありきじゃないし、選挙やいろんなトラブルがあって、委員自体も攻撃を受けていました。その中で『ため』にする結論は無理であって、できるだけ冷静・合理的に判断するのが、委員自分らの身の安全を考えるという意味においてもそういう方向に向いたと思う。報告書は冷静に書かれていると思う」と述べています。
そしてもう1つの疑念。百条委のメンバーが“情報提供”をしていた点です。副委員長だった岸口実県議は「黒幕文書」の提供に関与し、増山誠県議は「非公開音声データ」を提供していました。この点に関して白鳥教授は「今回の結論の前に委員を辞められているということで、それほど大きな影響はなかったのだろう」との見解を示しました。
議会の今後は?「全く何もしないということはできない」
―――去年9月、県政の停滞を理由に不信任決議を出しました。そして今回、パワハラや公益通報保護法に違反にあたるのではないかという報告が出ました。いくつか選択肢はありますが、議会としてはどう動くべきだと思いますか?
白鳥教授「これは非常に重くてですね。これだけ問題があることを認定した以上、全く何もしないということはできないですね。そうなってくると、パワハラが認定されたあるいは公益通報者保護法違反が認定された知事に対して、議会はどういう態度をとっていくのか。前回みたいに『不信任』を出すのか、それとも『辞職勧告決議案』を出すのか、議会としてあるいは会派として『辞職の申し入れをするか』という3つぐらいの選択肢が考えられます。不信任は今回少しハードル高いので、辞職勧告決議案あたりを出していくのが落としどころになってくるのではないか」
―――以前は全会一致で行いましたが、その後斎藤知事は再選していて、2度目でまた4分の3以上というのがハードルとして前回より高くなっているかもしれない。ただ、何もしないのはおかしいと?
白鳥教授「辞職勧告というのを出して知事をいさめるというか、少し反省してくださいっていうところをポーズとして見せていく。何よりもこの間、知事選があったばかりですから」
元県民局長に対する処分の妥当性は?
百条委員会の報告書では元県民局長について「不利益な取り扱いなど行われた場合、救済・回復措置など適切な措置をとる」必要があると提言しています。
そもそも、斎藤知事は元県民局長の文書について、告発でなく誹謗中傷だとしたため作成者を探しました。その結果、業務時間に文書を作っていたことが判明したなどとして、停職3か月の処分としました。
ただ、今回の百条委員会の結論では、元県民局長の文書は告発だったとしているため、作成者を探してはいけませんでした。
―――してはいけない“作成者探し”で出てきた情報にもとづいて処分。その妥当性をどう考えるべきなのでしょうか?
亀井弁護士「百条委員会の結論は提言が多いです。斎藤知事は『こうしてほしい』『こういうふうにすべきである』という提言で、『責任があるからやめろ』とは言っていないです。その意味からすると、知事としては百条委員会の認定、判断の重みを感じてもらって、名誉回復の措置を考えていくべきではなかろうかと思います」
―――停職3か月は重すぎますか?
亀井弁護士「重すぎると思います。実際上、認定された話、当時のところを比べても、少なくともここまで重い処分である必要はない」
百条委員会の調査報告書は5日、県議会の本会議に提出され、賛成多数で内容について了承が得られました。
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