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【攻撃的な選挙演説】衆院補選での行為は是か非か?対策は?元検事『国家権力はできるだけ政治・選挙に介入しないのが原則』さらに「法改正は劇薬」とする見解も

解説

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 衆議院補欠選挙で、候補者の街頭演説に対して、他の候補者を立てた政治団体による選挙妨害ともとれる行為が選挙期間中に繰り返され、他の陣営から抗議が続く事態となりました。行った政治団体側は「言論の自由だ」と主張。民衆によるヤジではなく、候補者やその陣営による『演説』について、国会でも議論される事態となっています。 警視庁は『公職選挙法違反の自由妨害の疑い』があるとして警告を出しましたが、元大阪地検・検事の亀井正貴弁護士によりますと「国家権力はできるだけ政治活動や選挙活動には介入しないというのが原則で、捜査機関もそう考えている。犯罪の成否を判断するのは非常に微妙で難しい」と解説します。さらに法改正を求める声があることについても亀井弁護士は「国家権力は政治活動・選挙活動という民主主義の根幹にはあまり介入してはいけないという観点からすると、法律家の感覚からするとやはり法改正は劇薬」と自身の見解を述べています。◎亀井正貴:元大阪地検検事 弁護士として民事・刑事裁判を多数担当(2024年4月30日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

――公職選挙法では、交通や集会を妨げ、演説を妨害したり、ポスターに落書きしたり破る行為などを、自由な選挙を妨害する行為として禁じ、違反した場合は4年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金としています。

(元大阪地検検事 亀井正貴弁護士)今回が妨害かと言ったら妨害だと思うんですが、ただこれは犯罪なのか、公職選挙法の中の妨害という犯罪に該当するかという観点からすると、単なる妨害では駄目です。妨害だからと言ってすぐ排除したら、表現の自由とか、政治活動の自由はかなり規制されます。国家権力はできるだけ政治活動や選挙活動には介入しないというのが原則で、捜査機関もそういうふうに思っています。

そういう観点からしたら、選挙の演説を妨害するというのが、いわゆる犯罪の要件ですけれども、その場合は単純な妨害ではなくて演説ができなくなる。もしくは、聴衆が演説を聞こえなくなる。つまり「音」ですね。それから「時間」を考えて、演説そのものができなくなる、聴衆が聞こえなくなる、それぐらいまでに達するかどうかということですから、犯罪の成否を判断するのは非常に微妙で難しいところがあります。

「犯罪に達するかどうかは別」難しさがある問題

――東京15区補選の選挙戦では、ほかの候補者は演説を取りやめたりすることも起きています。それはどう捉えたらいいでしょう。

(元大阪地検検事 亀井正貴弁護士)それは、犯罪に達しないけれどもやはり邪魔になったからやめたということであって、犯罪に達するかどうかは別です。例えばすごい音量で、拡声器でマイク近くでワーッてやって、これを30分間やったらおそらく威力業務妨害容疑で検挙して、選挙の自由妨害というのは後でやるんですね。

というのは、自由妨害罪は選挙に関してやるということですから、やっている人たちの主観的な要件の立証、背景や動機も必要になる。その意味では、まずわかりやすい容疑でやって、後でちゃんとやっていくケースもあります。一般的に自由妨害はポスター破りが一番多いんです。なぜかというと器物損壊が明らかだから。こういうケースもそうですけれど、一応表現の自由、特に候補者の場合には、自己の政治的見解を述べている可能性もあるから、それ以上に難しいんです。

――大声を出していた候補者側は、「合法でやっている。抵触しない範囲でやっている」と主張しているといいますが、今回出た警告はどう捉えたらいいですか。

(元大阪地検検事 亀井正貴弁護士)これは要するに犯罪が成立するかどうかが微妙なところで犯罪成立前に止めなきゃいけない。警察の職務執行上、成立する前に止めようということと、国家権力ができるだけ介入しないという観点に基づいて、まず警告、それでやめたらある程度考えて、それからその次に政治が入って、もう極端に言えば排除が入るんです。まずは警告で止めるというのが先行します。

「捜査機関が本気で摘発をやろうと思えばできる」

――政治団体の代表は「一方的に妨害しているだけではなく、候補者が聞かれたくないことを俺らが代わりに聞いている」「選挙妨害では絶対ないと思っている、これこそが言論の自由」と主張しています。そして7月の都知事選挙でも「今回の比じゃないくらいやりたい」と主張しています。

(元大阪地検検事 亀井正貴弁護士)警告を無視した場合に検挙するかどうかは話が別です。警告を無視してもやらないケースもあります。だけどあまりこういうふうに、妨害の認識が一応認定できるような言動をしてさらに次もやるとなれば、当然捜査機関は目をつけて証拠収集を始めるわけです。自由妨害罪って昔は証拠保全が難しかった、行ってももう誰もいなくなって、聴衆もいないから証拠が得られない。だけど今は動画とかありますから、動画を証拠収集していって、さらに次の選挙とかではおそらく注目されると思います。

――攻撃的な彼らの演説の真意、なぜこういうことをしているのか、MBS東京報道部の大八木解説委員に聞くと、「現場ではパンフレットを配布し、政策も並べているが、演説でそこにほとんど触れない。基本的に目立ってSNSなどで閲覧数を稼ぎ、名前が売れればいいという考え方はガーシー元議員にも似ている」ということです。また、今回落選した候補者は、「本丸は次の次の参議院選。10億円貯めます。その頃までにこの活動を継続する」などと投稿しています。

(元大阪地検検事 亀井正貴弁護士)そうですね、ポスターを破るとか、それか直接相手の陣営のところに攻撃かけるとかいう事例はあるんですけれども、確かに演説妨害の判例ってそんなに多くないんです。なぜかというとやっぱり検挙を躊躇するから。だけど他方で言うと、「演説を妨害してはいけない、不正な方法でやってはいけない」と書いてるわけだから、やろうと思えばやれるんです。だから前の判例でこれだけの境界線があったから次もOK、とはならないです。捜査機関が本気で摘発をやろうと思えばできるんです。

「法改正は劇薬」民主主義の根幹が拮抗する

――今回の騒動に対して、岸田総理は「何かしらの対策は必要ではないか」と話しています。また亀井弁護士は、例えば”警告2回で検挙する”など条件を明確化する方法もあるが、「法改正は劇薬。厳格化は基本的に反対」というご意見です。

(元大阪地検検事 亀井正貴弁護士)演説とか、政治見解を表明するというのは民主主義の根幹です。他方で、政治家に対して物を言うとか、政治活動でいろんなことをするというのも民主主義の根幹です。根幹と根幹が拮抗するわけです。

その中で、しかもその自由妨害罪ってのは構成要件がかなり緩いですから、やろうと思えば結構締め付けられる。さらに厳格化していくことによって、他にも適用されていく危険性もありますから、国家権力が政治活動と、選挙活動という民主主義の根幹にはあまり介入してはいけないという観点からすると、法律家の感覚からするとやはり法改正は劇薬だろうなというふうに思います。

――この政治団体は引き続きこういった行為を続けると明言していますし、こういったことをする他の人たちが出てくる可能性もあります。いずれにしても議論を進めていかなければならないテーマだと思います。

2024年05月01日(水)現在の情報です

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