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"社会に貢献したい"重度障がい者の就労を阻む壁「職場でのヘルパー利用には高額な自己負担」 就活の面接で「外で働くのは難しいのでは」と厳しい声も...それでも「障がいがある子どもたちのみちしるべに」と奮闘する女性の半年間

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「働く意思があるのに働くことができない」そんな辛い思いを抱える人たちがいることを知っていますか。ある制度が就職活動に励む障がい者の前に立ちはだかっています。 その制度の壁とは何か、1人の障がいがある学生が就職するまでの6か月に密着しました。

脳性まひで体を自由に動かせない深田澪音さん 大学ではひとつずつ問題を解決

 滋賀県大津市に住む21歳の深田澪音(みおね)さん。脳性まひで体を自由に動かせません。母の由希代さん(55)が朝の身支度を手伝います。

 澪音さんは今年の春まで、大津市内の短大に通っていました。

 (深田澪音さん)「シフト押してもらっていいですか」

 パソコンの操作は、職員の手を借りたりタッチパネルを活用したりするなど、できないことは大学と相談し、ひとつずつ解決してきました。

(深田澪音さん)「まだもうちょっと卒業まであるけど」
(大学職員)「だけど授業は最後やね」
(深田澪音さん)「ありがとうございました」
3.jpg 卒業まで2か月、しかし、まだ進路は決まっていませんでした。

(友人)「(就活活動)どんな感じ?」
(深田澪音さん)「まだ連絡きてないけど1個、2次面接いけるかどうかかな。全部書類で落ちているもん」

「外で働くのは難しいのではないか」就職活動で浴びせられた厳しい声

 去年の6月に就職活動を始めてから、銀行やホテルなど40社近く落ちました。

 面接では「職場に車いすが入れない」「車いすで乗れるエレベーターが無い」さらには「外で働くのは難しいのではないか」と言われたこともあります。

 (深田澪音さん)「メンタルを削られる部分はありますね。こんなに面接までいけないんやっていう難しさを知りました」

 今年2月、父の克幸さん(55)と障がい者が対象の合同面接会に参加しました。できることとできないことを伝え、自分にあった職場を探しますが…
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(深田澪音さん)「音声入力とかタッチパネルのパソコンとかが使えると時間がかからず(作業)できるかなというのはあるんですけど」
(採用担当者)「そういった器具を使って、よりやりやすい環境があれば良い、なかなか市役所ではそこまで。難しいところもあるんですけど」

(父・克幸さん)「車いす移動不可って書かれたら、こりゃたまらんな」
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“社会で貢献したい”夢に立ちはだかる高額な自己負担額

 手足が不自由なことに加えて、外で働くうえで大きな壁になっているのが、「ヘルパーが利用しにくい」ということです。

 重度障害者のヘルパー利用には国などの補助があるため、最大で月約3万7000円の自己負担ですみます。しかし、経済活動を行う場合は原則、除外されるため、仕事でヘルパーを使おうとすると、澪音さんの場合、月約40万円を負担しなければならないのです。

 フランスやドイツなどではヘルパーの利用用途に制限はなく、2022年国連は日本政府に対し「職場でヘルパーを利用できるようにするべきだ」とする勧告を出しましたが、今のところ変わる見通しはありません。

(深田澪音さん)「例えば通勤で(ヘルパーを)使うことができれば、生活的にはだいぶ楽になるとは思うんですけど、そこに(公費を使う)政策を作るのはなかなか難しい問題なのかなと思います。」

 澪音さんは幼いころからいろいろなことに挑戦してきました。高校では生徒会に所属、障がいについて理解を深めるイベントを企画したこともあります。
20250731tokusyu-000446401.jpg(父・克幸さん)「もちろんできないこともありましたし、ただ自分から嫌やしやめるということはなかったね」
(母・由希代さん)「自分が歩けないとか車いす乗っているとかいうことが恥ずかしいと思うことが一切ない子に育ってくれたので、そこは本当によかったなと思います」

 これからは就職し、社会に貢献していきたいと願っています。

(深田澪音さん)「障がい者だけの関わりではなくて健常者の方、家族も含めて多く機会をもらったので、やっぱり恩返しっていう意味も含めて社会で貢献したいなって」

「障がいがある子どもたちのみちしるべになれば…」 職場でヘルパー利用できず苦慮

 3月、短大卒業の日。澪音さんの顔は晴れやかでした。

(深田澪音さん)「2月の末に受けたやつが受かって、心置きなく卒業できる」
(友人)「良かったな」

 少し前に滋賀県の教育委員会から、事務職員の内定をもらったのです。

 ヘルパーについては、金銭面の問題から利用せずに働こうと決めました。しかし、勤務中は8時間以上トイレにもいけません。両親は澪音さんの体を心配してヘルパーについて相談すべきだと諭します。

(母・由希代さん)「(ヘルパーを)使えないっていうの分かっていて、使わんといこうと思っていたわけやん。思ってたんやな…?それでも働こうと思ったやんな…?だけどずっとそれってつきまとうことやしさ、黙っておくことじゃないから一応聞こう」

 母・由希代さんに諭された澪音さんは涙をにじませます。月40万円にもなるヘルパー代を自分で払うことはできない。でも職場に負担を求めることも難しい。ずっとこのことが澪音さんを苦しめてきました。

(母・由希代さん)「(職場でヘルパーを使える)制度があったら一番よかったんやけどな。澪音みたいなタイプの人らがさ、今まで働けなくて挫折したっていうのも、その制度があれば何でもなかったことやん」

(深田澪音さん)「働きながら、ちょっとでも現状が変わることを願って。それこそ(障がいがある子どもたちの)みちしるべになれたら、一番うれしいことやから。それがちょっとでも実現できるように」

「障がいがある人が自分の夢を諦めなくていい社会になれば」

 4月に入り、滋賀県教育委員会で働き始めました。事務職員としていまはデータの入力などを主にこなしています。最初はヘルパーなしで過ごしていましたがやはり難しく、母の由希代さんが仕事の合間にやってきてトイレの介助をすることもあります。

 通勤はひとりで。なるべくなんでも自分でやるようにしていますが、ヘルパーを利用できればもっと可能性が広がると感じています。
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 (深田澪音さん)「仕事のことに関しては職場の方に頼みつつ、プライベートなことに関しては気軽に頼めるヘルパーさんなり、助けてくれる人がいる環境になればと。障がいがある人が諦めなくていい、自分の夢を諦めなくていい社会になっていけばいいと思います」

2025年08月01日(金)現在の情報です

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