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北極の氷が過去最小...この影響は日本の冬に!?5年前のような厳しい冬になるおそれも【MBSお天気通信】

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 10月20日、気象庁が「2025年の北極域の海氷域面積の年最大値は1979年の統計開始以来最小になった」という情報を発表しました。つまり北極の氷が1年の中で最も大きくなる時期(3月頃)の面積が、今年は過去最小を記録したのです。 北極の氷が溶けて氷の上でシロクマが立ち往生をしている映像を見た方もいるかもしれませんが、北極の氷が溶ける主な原因は、やはり地球温暖化です。実は、日本に住む私達にも影響が出る可能性があります。今回はそのメカニズムについて詳しく解説します。(気象予報士 松田貢児)

北海道の面積に匹敵する氷が毎年溶けている!

 北極域の海氷域面積の年最大値・年最小値の経年変化のグラフを見ると、北極域の海氷面積が年最大値(1年で最も大きくなる面積)、年最小値(1年で最も小さくなる面積)ともに減少しているのがわかります。年最大値は2025年に過去最小になっていますが、減少が顕著なのは最小値(9月頃)の方です。1年当たりの減少量は8.3万平方キロメートル。これは北海道の面積に匹敵します。つまり、毎年、北海道と同じくらいの海氷が減少していることになるのです。
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 1979年と2025年の9月5日の北極の海氷域の比較図です。2025年の方が、海氷域が明らかに減少しています。
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海氷の減少が止まらない負のスパイラル

 太陽からの光を地球の表面や大気が反射する割合のことをアルベド(反射率)と言います。雪や氷で覆われた海氷は、アルベド(反射率)が約80%と高く太陽の光をほとんど反射します。このため、海氷が温まりにくく溶けません。それに対して海水のアルベド(反射率)は約10%と著しく低く、海水が太陽の光をほとんど吸収するため海水温が上がります。夏場に強い日差しが降り注ぎ日本周辺の海水温が高くなったと毎年話題になりますが、それと同じ原理です。海水温が上がるとその上に乗っている海氷が溶けて減少します。

 北極の海氷の減少には、この「アルベド」が大きく関わっています。メカニズムは以下のとおりです。
1 海氷が溶けると雪や氷で覆われた海氷が減り、海水面が露出
2 露出した海水面により「アルベド」が低下し、太陽光をより多く吸収するため海水温が上昇
3 温まった海水はさらに海氷の融解を促進し海水面の露出面積が増加

 これが繰り返されるため、海氷の減少が始まると、なかなか止まらない負のスパイラルに入ってしまいます。
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5年前、北極の氷が溶けたことで日本が大雪に

 2020年12月~2021年1月上旬は冬型の気圧配置が強まり、日本海側を中心に記録的な大雪となりました。大雪の影響で、12月に関越自動車道で多数の車の立ち往生が続いた映像は記憶に新しいと思います。その原因は、偏西風が南に蛇行し、シベリアから強い寒気が南下したためです。

 実は2020年12月、北極域のバレンツ海の海氷が少なくなっていたのです。そのため、気象庁では偏西風の蛇行の原因の一つに北極域の海氷の減少があると発表しています。

 つまり、北極の氷の減少によって、偏西風が蛇行し、その結果日本が大雪になったのではないかと考えられているのです。

偏西風が南へ蛇行すると大雪に

 偏西風とは、地球の中緯度域(北緯30度から60度)付近の上空を、年間を通して西から東へ向かって吹く風のことです。偏西風は北極と赤道の温度差が大きいと安定して流れますが、北極と赤道の温度差が小さくなると蛇行するようになります。

   参考図 上 通常の偏西風 下 蛇行した偏西風
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 そして、偏西風が南へ蛇行すると、寒気が居座り大雪になったり、北へ蛇行すると暖かい空気が日本上空に居座り続けて猛暑になったりします。
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今年の日本の冬はどうなるか

 10月に発表された3か月予報では、12月以降は上空の偏西風が平年より南へ蛇行し、シベリアからの寒気が南下する見込みです。冬型の気圧配置が強まり、北日本や東日本の日本海側を中心に雪の量が多くなる可能性があります。

 現在発表されている3か月予報の予測の段階では北極の氷の減少とこの冬の偏西風の蛇行の因果関係は不明ですが、その可能性は考えられます。今後さらに北極の海氷が溶けて北極の気温が上昇すると、赤道との気温の差が小さくなり、偏西風がさらに蛇行して日本の気象に大きな影響をもたらすおそれがあります。
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海氷減少は地球温暖化の影響

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書では、「北極域の海氷面積の減少の主要な駆動要因は人間の影響である可能性が非常に高い」と報告されています。つまり、海氷減少の主な原因は地球温暖化と考えられています。

 そして、10月16日には気象庁が「2024 年の二酸化炭素の年増加量は観測史上最大」と発表しました。

 温室効果ガスは二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素などがありますが、中でも二酸化炭素の前年からの増加量は観測史上最大となりました。二酸化炭素などは「長寿命温室効果ガス」と言われています。数年以上にわたって大気中に長く留まる温室効果ガスのことです。

 「長寿命温室効果ガス」の中でも地球温暖化に1番影響を与えているのが二酸化炭素なのです。

二酸化炭素を減らすための新たな取り組み

 環境省では新たな地球温暖化対策として「ブルーカーボン」という取り組みをしています。カーボンは炭素という意味です。森林などの植物が吸収する二酸化炭素が「グリーンカーボン」です。それに対して海の植物が吸収する二酸化炭素が「ブルーカーボン」です。

 二酸化炭素は水に溶けるので海水の中の二酸化炭素をワカメやコンブなどの海藻が吸収することにより、海底や深海などに長期間貯留されて、地球温暖化対策に貢献できると考えられています。

 海草や海藻が生える藻場(もば)は海水温の上昇などで減少してきましたが、市民が参加しての藻場の清掃活動や新たな藻場を生む母藻の移植など全国各地で政府や企業、市民団体の取り組みが進んでいます。

 また、大阪・関西万博でベンチなどに利用された固まる時に二酸化炭素を吸収するコンクリートや、二酸化炭素吸収材を搭載し、それを利用して商品を冷やしたり温めたりする自販機など日本国内で新たな開発が進んでいます。

 遠く離れた北極の地の海氷面積が最も小さくなったというニュースは、日本に住む私達には関係ない出来事に思えるかもしれませんが、日本の異常気象の原因にもなっています。

 地球温暖化対策というと何だか難しいことのように感じますが、節電など私達でも貢献することができます。そして常に関心を持ち続けることが大切です。

文 松田貢児
毎日放送 気象予報士(南気象予報士事務所所属)
MBSラジオ「メッセンジャーあいはらのYouはこれから!Everyday」「松井愛のすこ~し愛して♡MORE」に出演中。
防災士・気象防災アドバイザー有資格

2025年11月09日(日)現在の情報です

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