2025年11月08日(土)公開
【京都の観光公害】外国人増加で潤う一方"日本人離れ"も「インバウンド多いから...」"ぎゅうぎゅう詰め"市バスの混雑緩和対策は焼け石に水「なんとかして」
編集部セレクト
京都市で深刻な「観光公害」。外国人観光客の増加で潤う一方、逆に売り上げが減っている店もあるようです。 また嵐山の美術館では、“混んでいる”というイメージを持たれているためか、「インバウンドも多いので、もう来るのやめようか」と来館を控える客も。 市は混雑緩和のため「分散観光」などを進めていますが、3連休中、京都駅前のバスターミナルには相変わらず長蛇の列が… 人気観光地・京都が抱える課題、そして、対策について取材しました。
“分散観光”の効果!?観光客が3年で1.4倍に

京都市中心部から車で約1時間20分。かやぶき屋根が建ち並ぶ「美山かやぶきの里」。日本の原風景がみられる場所として、人気が高まっています。
(観光客)
「めちゃくちゃきれいですね。古い建物とか見る機会あんまりない」
「インスタとかSNSで見つけました。仕事とは関係ない自然な場所で楽しみたいと思って」
昨年度、ここを訪れた観光客は約23万人。3年で1.4倍に増えました。
近くの道の駅でも、特産の米や野菜などを買い求める客が増加。週末は駐車場がいっぱいになるようになったといいます。
観光客が増えた理由のひとつが、京都市が推進する「分散観光」です。市内中心部は、観光客の急増でマナー違反や交通の混雑など市民生活への影響が深刻です。
そこで、郊外の「穴場スポット」の情報を積極的に発信することで、観光客を“分散”させようという取り組みです。
京都市が発表したデータでは、去年の秋に中心部の主要な観光地を訪れた外国人は、前の年の同じ時期と比べて約30%増加しましたが、日本人は約15%減少。
一方で、京北・美山や山科など郊外では、日本人が平均20%増加しました。中心部の混雑を避け郊外に流れているとみられ、市は「分散観光」の効果が出ているとしています。
「結構高めのもの食べてくれる」8割が外国人客の飲食店 京都・嵐山

人気観光地・嵐山では、外国人が2割以上増え、日本人が1割減りました。
(大阪府から)「外国人が多い。ここが日本かどうか、錯覚しますね」
(埼玉県から)「聞こえる声が英語・中国語・韓国語とか多い」
(埼玉県から)「せっかく日本観光しているのに、日本人が少ないと…日本という感じがない」
嵐山で60年以上営業している御食事処「丁字屋」も、いまや客の8割が外国人だということで、英語・中国語・韓国語のメニューを用意しています。
(御食事処「丁字屋」店主)「(外国人客は)丼が多いです。結構高めのもの食べてくれる。(Q売り上げは?)ちょっと上がっていますね、年々」
豆腐と湯葉を使った料理が売りの店では…
(豆腐料理店)「お客さんのニーズに合わせて、外国人の方が好む料理に変えさせてもらったり、和牛の方がお客さん求めているので、そちらを入れさせてもらって」
和牛を使ったメニューを追加、売り上げも好調のようです。
「漬物はなかなかね…」外国人客増加が売り上げにつながらない店も

外国人観光客の増加で潤うところがある一方で、こんな店も…
(漬物店)「(売り上げは)減っていると思います、なかなか売り上げにつながっていない。(Q日本人観光客が減っているから?)もちろんそうです。漬物はなかなかね…」
100年以上の歴史がある漬物店では、店先で売っている「きゅうりの一本漬け」は人気ですが、外国人に馴染みが薄い「千枚漬け」などの定番商品が売れることはあまりないといいます。
(漬物店)「店内で売っている物はなかなか日本人でないとお買い上げいただけない。やっぱり日本人のお客さんに来ていただきたい」
嵐山商店街など周辺の30店舗に聞き込みをしたところ、外国人客の増加で11軒が売り上げが上がったと回答しましたが、それを上回る12軒が売り上げが下がったと答えました(変わらないと回答した店は7軒)。
『インバウンド多いので来るのやめようか』“日本人離れ”で悲鳴 嵐山・福田美術館

こんな悲鳴をあげているところも…
(福田美術館 竹本理子副館長)「嵐山だから混んでいるという決めつけも悲しい」
渡月橋から歩いて約3分のところにある「福田美術館」。美しい自然とともに日本美術の名品を楽しめます。
(竹本理子副館長)「併設のカフェは『渡月橋を一番きれいに見られるカフェ』。本当に静かでゆっくり楽しんでいただける」
美術品を見たあとは、併設されているカフェでゆっくりと渡月橋を眺められますが、館内はガラガラです。
(竹本理子副館長)「開館以来のお客さまが『インバウンドも多いので、もう来るのやめようか』というのをSNSに…。嵐山と言っても、混んでいないので、特に当館はすいていますし落ち着いているので、嫌がらずに楽しんでいただきたい」
確かに分散化は進んでいるようですが、“日本人離れ”が一部の店や施設に影響を与えていました。
「倍出しても早いほうが」市バス混雑緩和へ “観光特急バス”導入

オーバーツーリズム対策としてもう1つ、市が推し進めているのが「市バスの混雑緩和」です。去年6月には、清水寺や銀閣寺など観光地の最寄りの停留所のみに停車する「観光特急バス」を導入しました。
(「観光特急バス」利用客)
「すぐ行けるほうが便利かなって。(市バスは)いつも並んでいるので、長いと疲れる」
「観光で来ていると早いほうがいいから、倍出しても早いほうがいい」
土日祝日のみの運行で、運賃は500円と通常の市バスの約2倍ですが、1日平均2400人が利用していて、京都市交通局は「混雑緩和に一定程度寄与している」としています。
(京都市交通局・運輸課 萱島慎一郎担当課長)「(1日)2400人は普通バスから特急バスに乗っているので、市民の方は少しでも乗りやすくなったと思うが、まだまだのびしろはある」
「ぎゅうぎゅう詰め」便数・高運賃がネックとなり…通常の市バスに流れる観光客

市バスを利用する人は…
(通勤客)「土日は運行しているので、早くなったなと思います。マシになったかなという感じです」
一方でこんな意見も…
(京都市民)「(混雑緩和は)そんなに感じないですね。高齢者は本当にバスがいっぱいで、なんとかしてほしい気持ちがあります」
3連休の午前中、観光地に向かう京都駅の市バス乗り場には長蛇の列が。
(京都府内)「混んでるなと思ったが、まさかこんな長蛇の列で。乗れなかったら、また次のバスっていうのが…10時までに行きたかったが無理だなって」
(兵庫県から)「1台見送って次の(バス)に乗れるかなと。これまで何回か利用しているが、ここまで混むことはなかったので、やばいなと思って…」
観光特急バスが一度に運べるのは約50人。便数が少なく運賃も高いため、通常の市バスを選ぶ観光客も多いのです。
ぎゅうぎゅう詰めの車内は大混乱。それが珍しいのか、外国人客がバスの様子を写真に収めます。
「市民生活と観光が調和できる地点を」

日常的にバスを利用する市民への影響は少なくありませんが、慢性的な運転士不足のため、観光特急バスを増便をすることもできないといいます。
市はこうした課題を考慮しながら、よりよい対策を模索していくとしています。
(京都市産業観光局 飯尾貴之さん)「海外の観光客への対策ってすごく難しい。商売されている方も、海外向けの店と日本人向けの店と、それぞれやってきたことは違う。市民の生活と観光が調和できる地点を、分散化・マナー対策・ゴミ対策を全て含めて、声がなくなったときが着地点だと思います」
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